アラムシロ

特徴

(写真:2022年2月上旬、三番瀬で採集。貝殻の長さ約1cm。1本の長い水管を伸ばし、それを振りながらスーっと移動する。移動速度は大きさにしてはかなり速い…と思う)

レア度:★☆☆☆☆ 軟体動物門 腹足綱 吸腔目 ムシロガイ/オリイレヨフバイ科 学名:Nassarius festivus 英名:? よく見られる季節:早春~初夏、秋(真夏と真冬にはあまり姿を見ない気がする)

【この生物の解説動画はこちらから】

【この生物の食事シーンはこちらから】←オススメ!!

大きくても(貝殻の長さが)2cmほどの小さな巻貝。通称「干潟の墓掘り人」…じゃなかった「干潟の掃除人」。弱っている生物や死骸の匂いを嗅ぎつけると、まるでゾンビのように砂中からムクムクと現れ大群でそれをむさぼり食う。

浦安では特に三番瀬に多く、海底に魚の切り身などを置いておくと、あっという間に何十匹ものアラムシロが群がってくる。おそらく三番瀬の砂の中には膨大な数のアラムシロが生息しているのだろう。三番瀬では周年見られる貝だが、真夏と真冬は数が少なく、早春~初夏、秋に多い気がする。

小さな体の割に移動スピードはかなり速く、長く伸びた1本の水管を左右に振りながら砂の上を滑るように、エサへと接近していく様は不気味さすら感じさせる(写真)。

貝殻は濃い褐色をしているものが多いが、他に薄い褐色のもの、黄色味がかった褐色のもの、灰色っぽいものなども見る。貝殻の表面はでこぼこしており(1mmほどのコブが規則正しく並んでいる)、また貝殻は硬くしっかりとした手触りをしている。この貝殻は小さなヤドカリの宿として利用されていることも多い。

体(足)は薄い褐色~薄い黄色をしており、その表面には黒と白のまだら模様が見られる(下の写真参照)。また頭部をよく見ると、触覚と眼のようなものが1対あるのが確認できる(それが眼なのかはわからないのだが…)。

このように書くと、不気味でグロテスクなイメージを持つかもしれないが、干潟の生態系にとっては非常に重要な生物で、彼らのような「掃除屋」がいるおかげで、干潟では腐敗した生物などがない、清浄な環境が保たれている。実際に三番瀬の水中を覗いてみると分かるが(水中動画へ)、ゴミや生物の死骸はほとんど見られない。

アラムシロ以外にも掃除屋(他の貝類やヤドカリ類、カニ類など)はいるが、「三番瀬掃除屋トップシェア」はアラムシロで間違いないだろうと私は勝手に思っている。よく潮が引いた日に三番瀬の沖の方まで歩いていくと、その道中、イヤになるほどアラムシロを見かける。それぐらいたくさんいるのだ。

干潟の生物に詳しい知人の話によると、干潟で砂に両手を差し込んでしばらくじっとしていると、その手の匂いを嗅ぎつけてアラムシロが集まって来るらしい。今度試してみよう。

(2020年2月)

体(足)は薄い褐色~薄い黄色をしており、その表面には黒と白のまだら模様が見られる。また頭部をよく見ると、触覚と眼のようなものが1対あるのが確認できる(それが眼なのかはわからないが…)
2016年2月中旬、三番瀬で撮影。水がひざ丈ぐらいの岩に囲まれた場所に、大量のアラムシロが集まっていた。エサの姿は見えないし、何のために集まっていたのだろう?
2019年4月中旬、三番瀬で撮影。夜間、水中にエサ(オキアミと魚の切り身)を仕掛けたところ大量のアラムシロが群がってきた
2019年4月上旬、三番瀬で撮影。水中にビデオとエサを仕掛けたのだが、写真の通り映るのはアラムシロばかり…(他の生物が映るのを期待していたのだが…)

採集する

(写真:飼育中のアラムシロ。貝殻の長さ約1cm)

狙って採集したことはないが、三番瀬ならどこにでもいるイメージで、春や秋に海底にゴミが溜まっているような場所を探すと見つかりやすい。弱って砂から出た貝類に群がっているのもよく見かける。

たくさん集めたければ、魚の死骸やその辺にいる貝を潰して網袋に入れて、海底に固定しておけばたくさん集まってくる(エサを固定しておかないと「イシガニ」などにエサを持っていかれるので注意)。

(追記:2022年2月10日)何となくアラムシロを飼ってみたくなったので、採集することにした。しかし1年で最も海水が冷たい時期なので、水中にはほとんど生物が見えない。ちょっとタイミングが悪いかと思ったが、取りあえずアラムシロを寄せるために、護岸に付着していた「マガキ」を何個かむしり取って、それを軽く潰して水中に撒いて待つことにした。

そして10分ほど待った後、タモ網でカキごと海底をさらう。………お!いたいた!! 春や秋と比べると数は少ないが、タモ網の中には数匹のアラムシロが。それを何度か繰り返し、10匹ほど持ち帰った。

飼育する①

(写真:「マハゼ」の死骸に群がるアラムシロ。このアラムシロたちの貝殻は黄色味がかった褐色をしている)

三番瀬水槽では、飼育している生物の排泄物や藻類、エサの食べ残しの掃除屋として、ヤドカリや小型のエビ、カニを水槽に入れている。ただ「クロダイ」「メジナ」といった貪食な生物がいると、そいつらに掃除屋がみな食われてしまうことがある。

そこで「「クロダイ」「メジナ」に食われない掃除屋はいないものか…」と思案していたところ(小型のカニ類やヤドカリ類は根こそぎ食われてしまうので…)、「アラムシロなら貝殻も硬いし味も不味そうだから良いかも!!」と思い、市役所水槽に一度入れてみたことがある。…が、水槽に入れるとすぐ砂に潜ってしまい消息不明。エサをあげても出てくる様子もなかった。

水族館ではアラムシロを単独で水槽に入れて、砂から現れるシーンや食事の様子を見せているのを時々目にする(これがなかなか面白い)。

(追記:2021年5月9日)2021年4月下旬に採集したアラムシロを、今度は砂のない環境で飼ってみた。結果、砂がなくても全く問題はないようだ(ストレスとか生理機能的には良くないのかもしれないが)。飼育環境はマーレ水槽内に横幅25㎝ほどの隔離水槽を設置して、その中で「ハオコゼ」「ユビナガスジエビ」「マガキ」「ユビナガホンヤドカリ」と同居させている。隔離水槽はどうしてもエサの残りカスが溜まりやすいので、その処理係となるのを期待してだ。今のところ他の生物に危害を加えたり、逆に加えられたりしている様子はない。

ちなみにこのアラムシロ、個人的にはお気に入りの生物なのだが、やはりというか案の定人気はなく、その存在に気づいてさえもらえないことも多い。

飼育する②

(写真:砂に潜るアラムシロ。水管だけを砂の外に伸ばしている)

2022年2月、ふと「アラムシロをちゃんと飼ってみてぇ」という気持ちが沸いたので、自宅水槽3号で飼育してみることにした。取りあえず近くの海に行って、護岸に付着しているカキを潰して撒き餌にし、採集を試みる。一年で最も水温が低い時期だったので、数を集めるのに苦労したが、何とか10匹ほどを確保。

自宅に持ち帰り、「丈夫な生き物だから大丈夫だろう」と水合わせもそこそこに水槽にぶち込む(ごめんね)。水温は約15℃、混泳生物はおらず、水槽内には紅藻類が数種だけ。水槽に入れられたアラムシロたちは、カベを登ったり、水槽中を這いまわるなど、初めは右往左往していたが、そのうちほとんどの個体が砂の中に潜った。

そして水管だけを砂の上に出してまっすぐ伸ばす(写真)。これによって呼吸とエサの匂いを察知するのだろ。この様子から、飼育にはある程度粒度の細かい砂が必要そうだ。ただ、水管を砂の外に出すことからも、砂の厚さは2cmもあればよいだろう。

みなさんお待ちかねのエサタイム。初めはエサを貪る様子を見たかったので、大きめのクリル(乾燥エビ)を1匹まるまる与えることに。クリルを底まで沈むように水に浸し空気を抜いて、そっと水槽へ落とし込む。

クリルが底に到達すると、まずアラムシロの水管が何かを察知したかのように、ピンと伸びる。そしてすぐさま砂中からアラムシロ本体が出現し、エサを探し始める。その様はまるで、地中から現れるゾンビのようだ。

移動スピードはかなり速い。ちゃんと測ってはいないが、秒速2cm以上はあるのではないだろうか。しかし水槽という狭い空間では、エサの匂いがすぐに水槽中に充満してしまい、エサの正確な位置を補足できないのだろう。エサとは全く無関係な方向へグングン突き進むアラムシロも少なくない(オイ!どっちへ行くんだ!!とツッコみたくなる)。

しばらくすると大半のアラムシロが1粒のクリルに群がった(写真)。まさに「貪る」という表現がふさわしい光景だ。食べている様子をよく観察すると、どうやら伸縮するスポイト状の、口(吻?)と思われる部分でエサを吸いながらつつくように食べている。うーんさすが干潟の掃除屋と呼ばれるだけあるな…。

感心していたのも束の間、アラムシロが1匹、また1匹とクリルから離れ始めた。え?もう満腹なのか? 全てのアラムシロが去ったそこには、7割ほど食べ残しをされたクリルの姿が(写真)。1匹のアラムシロが食べる量は思っていたより少ないようだ。

まぁたしかに体の大きさを考えればそうなのだが、どうやら私はアラムシロの「掃除能力」を過大評価していたらしい(別日に小さめの生きたアサリのむき身を与えたところ、こちらはキレイに平らげた。エサに好き嫌いがあるのかもしれない。食べやすさとか)。

先にも述べたが海には膨大な数のアラムシロがいるので、物量で攻める作戦なのだろう。食事を終えた後は砂の中に再び戻る個体もいれば、水槽のカベにくっついてじっとしている個体もいた(写真。あれは何をしているのだろう?)。

クリル以外のエサも与えてみた。動物質のものなら何でも良いようで、粒タイプの配合飼料も問題なく食べる。また死肉を漁るイメージが強かったが、生きてる or 弱った生物も襲うようで、同時期に水槽に入れた「ホトトギスガイ」「ウスカラシオツガイ?」に襲い掛かっていた(「ウスカラシオツガイ?」は貝殻をこじ開けられて食べられてしまった)。

まだ飼育は始まったばかりなので、水温や混泳生物の変化によって、行動がどう変わるのか楽しみだ。

 

(追記:2022年2月24日)自宅で飼育中のアラムシロが産卵した。何気なく水槽を眺めていると、ガラス面に大きさ2mmほどの楕円形の白カビのようなものがポツポツとくっついているのを発見(2月22日のこと)。この時の水温は約20℃。

「まさかな…」と思い、アラムシロの産卵についての論文を見てみたところ、その中に描かれていた卵(卵嚢)のスケッチがまさにこれ同じだった。またその論文の中には「産卵期は4~8月頃」という記述があり、20℃という水槽の水温がアラムシロに、「繁殖時期が来た!」と誤解させたのかもしれない(水温20℃は浦安では初夏の水温)。そういえば、卵を発見する数日前にやたらまとわりつき合う2匹のアラムシロがいたが、あれが繁殖行動だったのか…?

卵嚢は長径2mm、短径1.5mmほどの少々いびつな楕円形で、側面からみると低い山のように膨らんでおり、凸レンズのような形をしている。卵嚢の縁の方には気泡のように見えるものが1つあり、これは卵が孵化したとき、幼生が卵嚢の外に出ていくときの「幼生孵出口」というらしい。

卵は白~クリーム色で、直径0.1~0.2mmほどだろうか。形は…何といっていいかわからない。下の写真を見てくれ!! それが1つの卵嚢内に30個ほど入っている(以上、下の写真参照)。また卵嚢内に卵を産み付けると、その卵をかき混ぜる(揉み混ぜる…と言った方がよいかもしれない)ような面白い行動をとる。

 

(追記:2022年6月24日)6月に入り、水温が25℃前後で一定するようになると、卵を産む頻度がグンと少なくなった。ちょっと暑すぎるのかな?

 

(追記:2022年8月5日)夏になり、水温が27~28℃で一定するようになると、卵を産むことはほぼなくなった。卵を産まないどころか、水槽にエサをいれても反応がかなり鈍い(砂から全然出てこないこともしばしば)。やっぱり暑いのだろうな~。

 

(追記:2023年8月25日)自宅水槽3号でアラムシロを飼い始めて約1年半。アラムシロを水槽から出すことにした。これまで死亡した個体は1匹もいなかったんじゃないか? というほど丈夫で、飼育が容易な生物という印象。このアラムシロたちは市役所水槽で掃除屋として頑張ってもらうことに。1年半、毎日毎日何時間もアラムシロの姿を見続けた人間もなかなかいないのではと思う(笑) おれもアラムシロもお疲れ!!

エサ(クリル)に群がるアラムシロ。エサを水槽に入れるとすぐさまアラムシロたちが砂中から現れ、1分足らずで写真のような様子となる
10匹のアラムシロに食べられたクリル。(左)食べられる前、(右)食べられた後。イメージとは裏腹に、アラムシロ1匹が食べる量は少なかった。10匹のアラムシロが食べても、写真のように大半を食べ残す。満腹になるとそそくさとエサから離れていった。食べられた後のエサには粘液と砂粒が付着していた

「ホトトギスガイ」に襲い掛かるアラムシロ。死骸だけでなく、生きた貝も襲うようだ。この「ホトトギスガイ」は無事だったが、少し弱っていた「ウスカラシオツガイ?」は貝殻をこじ開けられ食べられてしまった

食後の様子。砂の中に戻る個体もいたが、写真のように水槽のカベに張り付いてじっとしている個体もいた。何をしているのだろう?
2022年2月24日撮影。水槽の壁に産み付けられたアラムシロの卵嚢。横から見ると凸レンズのように盛り上がった形状をしている。目盛りは0.5mm
卵嚢の縁の方には気泡のように見えるものが1つあり、これは卵が孵化したとき、幼生が卵嚢の外に出ていくときの「幼生孵出口」というらしい。卵は白~クリーム色で、直径0.1~0.2mmほどだろうか。形は…何といっていいかわからない。

飼育する③

(写真:交尾?のような行動をする2匹のアラムシロ)

自宅水槽3号でアラムシロを飼い始めてから2週間余りが経過した。そうするとある行動パターンと飼育に関する問題が見えてきた。

行動パターンだが、普段は砂に潜っていることが多いアラムシロはエサの匂いを感知すると、すぐさま砂から這い出しエサに群がるというのは前に書いたが、食事が終了すると、別個体と交尾らしき動きをし、その後水槽の壁面などに産卵をするという一連の行動をしばしば確認した(実際は交尾から産卵までもっとタイムラグがあるのかもしれない。交尾をせずに壁面に張り付いて産卵するシーンもよく見た)。

これは私の推測だが、干潟という広大かつ変化の少ない環境で、アラムシロのように普段は砂に潜り移動能力も低い生物が(実際には砂の外に出ている個体もかなりの数がいるのだが)、交尾相手と出会うということはなかなか難しい。そこで大量のアラムシロが集合する「食事」という行為の”ついでに”、繁殖活動も行っているのではないかということだ(私の仮説です)。

次に飼育に関する問題とは、アラムシロは水槽内(特に自身が住処としている砂地)に攻撃的または動きの激しい生物がいると、エサを十分取れなかったり、活動量が低下し砂からあまり出てこなくなるということだ。

これはアラムシロがいる水槽に全長5cmほどの「マコガレイ」の幼魚を入れた際に気が付いた。アラムシロがエサを食べに砂から出てくるのだが、そのアラムシロが「マコガレイ」にひっくり返され、アラムシロが身動きが取れなくなっているシーンを何度も目撃した。しかもひっくり返されえるとかなりの時間そのままえ動かない。

またエサにありつけても、「マコガレイ」が近づいてエサをついばむと、アラムシロはエサを食べるのを止めて砂の中に潜ってしまう。そしてそれが続くと、エサを水槽に入れても、なかなかアラムシロが砂から出てこなくなってしまった(「ヒメハゼ」の幼魚とは相性が良く問題はなかったが)。そしてさらにその後、アラムシロ達は砂には潜らず、砂地以外の場所で過ごすことが多くなった。

以前、三番瀬水槽にアラムシロを入れた際は、早々にその姿を消してしまったと書いたが、三番瀬水槽は、多種多用な生物が高密度で暮らす戦国時代のような水槽…。そんな環境ではアラムシロは上に書いたような理由で長期生存できないのかもしれない。

産卵中のアラムシロ。体のかなり前方から卵産むようだ
産卵中のアラムシロ。この後、卵嚢内の卵をかき混ぜる(揉み混ぜる…と言った方が良いかもしれない)ような行動をとる
2022年2月24日撮影。水槽のカベに産み付けられたアラムシロの卵嚢。卵嚢の直径約1~2mm。まだ産み付けられたばかりと思われる
2022年3月2日撮影。産み付けられてから6日ほど経過した卵嚢。卵内部に黒色の物体が現れだした
2022年3月3日撮影。産み付けられてから7日ほど経過した卵嚢。卵内部の黒色の物体が大きくなってきた
2022年3月4日撮影。産み付けられてから8日ほど経過した卵嚢。卵内部の黒色の物体が大きくなってきた
2022年3月7日撮影。産み付けられてから11日ほど経過した卵嚢。孵化直前の状態なのかもしれない
2022年3月7日撮影。上の写真の卵嚢と同時期に産み付けられた別の卵嚢。孵化後のようで卵嚢内は空になっていた
2022年3月12日撮影。水槽の水温約21℃。水槽のガラス面に付着している小さな白い点すべてが、アラムシロの卵嚢。産みまくりである
水槽内の砂地を「マコガレイ」の幼魚に支配され、アラムシロの活性が明らか落ちた。その後アラムシロ達は砂地ではない場所で過ごすことが多くなってしまった