ユビナガホンヤドカリ

特徴

(写真:2021年5月上旬撮影。約1.5cm(貝殻の大きさ)。自宅水槽で飼っていたものを撮影した。浦安ではこのような体色の他に、褐色っぽいもの、暗緑色っぽいもの、肌色っぽいものなども見られる)

レア度:★☆☆☆☆ 節足動物門 軟甲綱 十脚目 ホンヤドカリ科 学名: Pagurus dubius​ 英名:? よく見られる季節:4~11月

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大きくても(貝殻を入れて)3cmほどの小型のヤドカリ。浦安周辺で最もよく見られるヤドカリで、特に三番瀬にはものすごい数がユビナガホンヤドカリが生息している。その気になればすぐに両手一杯集められるほどだ。また海沿いだけでなく河口部や河川内(やや汽水)の場所でも多く見られる。

ユビナガホンヤドカリは日本全国の沿岸の、砂地が絡むような場所に幅広く生息しているヤドカリで、浦安での本種は「イボニシ」「アラムシロ」、ウミニナ類、キサゴ類の貝殻を宿として利用していることがほとんどだ(「イボニシ」「アラムシロ」が大多数。稀に小型の「アカニシ」「ツメタガイ」の貝殻を利用していることもある)。

「ユビナガ」の名前が表すように、歩脚の指節が(一番先端の節)が前節(指節の1つ上の節)より明らかに長いことが大きな特徴。これによって砂地での移動がし易いというメリットがある。また右のハサミの方が大きく、これはユビナガホンヤドカリなどが属する「ホンヤドカリ科」のヤドカリたちに共通する特徴である。

浦安で見られるユビナガホンヤドカリの体色は写真のように、汚れたようなクリーム色のもののほか、体全体が褐色っぽいもの、薄い緑色をしたのもの、黄色っぽい褐色をしたもの、肌色っぽいものなどいくつかの種類があり、それらの色を地にして、暗褐色の斑、シマ模様が歩脚やハサミ脚に見られる。

食性は雑食性で貝類やカニ、魚などの生物の死骸、小さな藻類、砂中のデトリタスなど様々なものを食べる。場合によっては生きた小動物なども捕食する。

繁殖期は10~3月頃でピークは1~2月らしい。私の感覚でも丁度ピークの頃に護岸から姿を消すので、少し深場に行って繁殖活動をしているのだろうか?

(2021年5月)

(2024年3月)

ユビナガホンヤドカリの歩脚。汚れたようなクリーム色をベースに黒いシマ模様が入っている。歩脚の指節が(一番先端の節)が前節(指節の1つ上の節)より明らかに長いことが大きな特徴

右のハサミの方が大きく、これはユビナガホンヤドカリなどが属する「ホンヤドカリ科」のヤドカリたちに共通する特徴。それにしてもヤドカリの顔は面白い見た目をしている。眼が地球外生命体のような感じ…

こちらの個体は「イボキサゴ」の貝殻を住処にしている。体色は肌色っぽい感じだ

この個体は薄い緑色っぽい体色をしている。暗褐色のシマ模様はあまり明瞭でない

2022年11月下旬、河口付近で撮影。繁殖行動中のユビナガホンヤドカリのペア。大きい方がオスで、自分よりかなり小さなメスの貝殻の入り口を、左のハサミで掴んでキープしている(左右のハサミの大きさが違い利き手のあるヤドカリは小さい方のハサミを使ってメスをキープするらしい)。これを「交尾前ガード」という
オスをつまみ上げても、メスの貝殻をガッチリ挟んで離さない。これは交尾までの数日間続く。交尾を終えたオスはすぐにペアを解消し、新たなメスを探しに行くそうだ
2023年6月下旬撮影。甲長約5mm。飼育中の個体が貝殻から出てしまったので、その姿を撮影させてもらった。よく見ると甲の両脇の後ろの方に、小さな第4、5胸脚が生えているのがわかる。貝殻に入っているとハサミ脚が2本と歩脚が左右2本、合計6本しか見えないが、この第4、5胸脚を入れることで合計10本。ヤドカリもカニやエビと同じ「十脚目」というわけだ
腹部(腹節)はイモムシのように柔らかく渦を巻いている。この部分は脆く外敵にも狙われやすいので貝殻に入れて守っている。またこの写真だと「歩脚の指節が(一番先端の節)が前節(指節の1つ上の節)より明らかに長い」という特徴も分かり易い
この個体は黄色味が強い体色をしている
貝殻から出てしまったユビナガホンヤドカリが「ユビナガスジエビ」に襲われている様子。推測になるが、ヤドカリの腹部からは他生物を誘引してしまう匂いのようなものが出ているのではないだろうか? 釣りでもヤドカリの身は魚を寄せる効果が高いとされている。巻貝の「アラムシロ」(写真手前)も匂いを嗅ぎつけてか、ヤドカリの方へ向かっている

採集する

(写真:2019年8月中旬撮影。ユビナガホンヤドカリの群れ。三番瀬で護岸のすぐ下の水中を覗くと、岩の上にたくさんのユビナガホンヤドカリが群れていた)

採集は非常に簡単。たくさんいるので拾うだけ。季節は真冬は姿がほとんど見えなくなるが、それ以外の時期なら高確率で発見できる。海沿いはもちろん、河口部や河川内にも多い。

特に三番瀬での本種の数は圧倒的で、海に入らなくても護岸上の潮だまりを探せば十分な数を集められる。小さな子供の海遊びデビューにはぴったりの生物だ。また護岸の裂け目から淡水が染み出しているような場所に固まっていることもある(そこに生えた藻類でも食べているのだろうか?)。

2022年7月中旬、河口付近で撮影。写真に写っている貝がらのほぼすべてがユビナガホンヤドカリだ。すごい量である。ここは堤防の裂け目から淡水が染み出している場所でテングサの一種や細かな緑藻類が繁茂している場所だ

飼育する

(写真:引越し中のユビナガホンヤドカリ。非常に無防備な状態で、この時に他の生物に襲われると危険。よく「ヤドカリは現在入っている貝殻が窮屈になると、新しい貝殻に引っ越す」という話を聞くが、私が今まで見た感じでは、貝殻が窮屈という場合以外でも条件の良い貝殻があれば結構に引越しを行う)

三番瀬水槽では特別な世話をしなくても入れておくだけで長期間生きてくれる。他生物のエサの食べ残しや石に生えた藻類、砂中のデトリタスな様々なものを食べているのだろう。飼育下では海藻のアオサ類を食べるのも確認した。

そのため三番瀬水槽では掃除屋として常時10匹ほどユビナガホンヤドカリを入れている。他の生物に悪さをするということもほぼないようだ。

 

ただし混泳には少し注意が必要で、大き目のカニ類や、貪欲な魚類のターゲットにされてしまうことがある。過去に全長10cmほどの「クロダイ」「アイナメ」に水槽中のユビナガホンヤドカリを全滅させられたり(口が小さい魚はヤドカリの中身を引きちぎって食べることができるようだ)、全長8cmほどの「イシガレイ」がヤドカリに食いつくシーンも見たことがある。

このように気性が荒かったり肉食性が強い生物にはエサとして認識されてしまうようだ。そのような生物と混泳させる場合は、石などを組んで外敵が入って来れない隠れ家を作ってやると良い。

アオサ類をちぎって食べるユビナガホンヤドカリ
ユビナガホンヤドカリとは長い付き合いである。存在に慣れ親しみ過ぎたため普段あまり気に留めないのだが、ふとしたときに目が合う。何を考えているのだう?