アカニシ
特徴
(写真:2022年6月下旬、三番瀬で採集。貝殻の長さ約7cm、幅約5cm。貝殻の内側が鮮やかな朱色をしている)
レア度:★★★☆☆ 軟体動物門 腹足綱 新腹足目 アッキガイ科 学名:Rapana venosa 英名:Rapa whelk よく見られる季節:春~秋?
最大で貝殻の長さが15cmほどになる大型の巻貝。貝殻の内側が赤色(朱色)をしているため「赤ニシ」の名前が付いたそうだ。
浦安の海沿いの様々な場所に生息しており、春~初夏頃になると河口近くの垂直護岸にくっついていたり、三番瀬の砂の上でのそのそ動いているのを見かける。砂に潜る習性もあるので、潮干狩り中に見つかることも多い。
また浦安で見つかるアカニシの貝殻の表面には「シマメノウフネガイ」という別の貝がよく付着している。
肉食性で他の貝を食べる貝であり、時に「マガキ」や「アサリ」漁業にダメージを与えることもある。「貝を食べる貝」と聞くと驚くかもしれないが、浦安には他にも「イボニシ」や「ツメタガイ」など貝を食べる貝がいて、この貝を食べるという習性は特に珍しいものではないようだ。
味がよく食べごたえがあるので、この貝を専門に狙う人も多い。またアカニシは昔は「サザエ」の代用品として利用されたり、現在でも刺身や加工品となったものがスーパーでおつまみとして売られているのもしばしば見る。
浦安では毎年水温が高い時期になると、泳いでアカニシを網袋いっぱいに獲っていく常連セミ海師?の姿をよく目にする。最近(2020年頃)はそこに外国人が参入し出し、殻長5cmにも満たない小さなアカニシまで根こそぎ漁獲していく…。このあたりで主にアカニシの貝殻を住処にするヤドカリの「コブヨコバサミ」の生態系に影響が出ないか心配になる。
産卵期は初夏~夏で、岩や岸壁に細長く先端が紫色をした卵嚢(らんのう)を多数産み付ける。その姿は花束のようで、また1本1本の卵嚢が薙刀(なぎなた)のような形をしていることから「ナギナタホウズキ」と呼ばれる。
(2020年2月)
アカニシの貝殻の色彩は浦安では3パターンほどあって、赤みが強い褐色のもの、暗い褐色のもの、白地に黒や褐色の模様が入るのものが見られる。ちなみにこれは暗い褐色タイプのものだが、水から出して乾燥してしまうと違った風に見えてしまう(水に入れて観察するとよくわかる)。目盛りは5mm
シマメノウフネガイによる寄生
(写真:多数の「シマメノウフネガイ」に寄生されたアカニシ。貝殻表面に付着している、黒い楕円形の物体が「シマメノウフネガイ」。これだけたくさんの「シマメノウフネガイ」に寄生されたアカニシはなかなか見ない。ちなみに2022年9月上旬に三番瀬で採集。貝殻の長さ約6cm)
浦安でアカニシを採集すると、90%以上の確率で、貝殻に「シマメノウフネガイ」が付着している。それも1匹や2匹ではなく5匹ぐらい付着していることも多い。
「シマメノウフネガイ」とは巻貝の貝殻に付着して、その排泄物や水中のデトリタスを食べる、「ヒモ的生活」をしている巻貝(語弊があるか)。ただ付着されたからといって、栄養を吸い取られたりするわけではないため、宿貝の生存に関わるほどの被害はないが、成長が阻害されたり移動の邪魔になったり、あと見た目っがよろしく無くなる(これは貝養殖においては重要な問題)。
それにしても、浦安ではなぜアカニシにばかりに付着しているのだろう? アカニシの貝がらに付着しやすい特徴や、付着することで得られるメリットがあるのだろうか? 浦安にはアカニシ以外に大型の巻貝があまりいないというのもあるが…。
採集する
(写真:2022年10月上旬撮影。海底に佇むアカニシ。貝殻表面が付着物でかなり汚れている。こいつにも「シマメノウフネガイ」が付着している)
採集方法は見つけたら手でむしり取る。
浦安では河口の垂直護岸や転石にくっついていたり、日の出、高洲の海岸のテトラポッド帯、三番瀬の海底などでときどき目にする(砂中に潜っていることもある)。三番瀬では何か障害物がある場所の近くを掘ると出てきたり、障害物にくっついていることが多い。
陸の上からだとそんなに多く発見できないが、水中をのぞいてみると意外とたくさんいるのが分かる。夏場になると泳ぎながらアカニシを採集している地元人もときどき見かける。
飼育する
(写真:2020年1月中旬撮影。貝殻の長さ約7cm。「イボニシ」という巻貝に覆いかぶさり、食べようとしているところ(ちなみに「イボニシ」も貝を食べる肉食性の貝である))
飼育…といっていいのか分からないが、三番瀬水槽では過去に何度かアカニシを水槽に入れている。三番瀬水槽は底砂を厚く敷いてあるので、その砂を耕してもらうためだ。水槽に入れると狙い通りすぐに砂に潜ってくれる…が砂に潜ると何ヶ月も姿を見せない。
現在(2020年2月)も市役所水槽とマーレ水槽それぞれに2匹ぐらいずつ入っていると思われ、少なくとも水槽に入れてから半年以上生存している。アカニシのエサとなるような貝類は水槽にいないはずなのだが、一体何を食べて生きながらえているのだろうか? 肉食性なので底砂中のゴカイ類でも食べているのだろうか? 謎である。
ちなみに三番瀬水槽で飼育したアカニシは時間とともに貝殻が白っぽくなっていった。
(追記:2022年4月29日)自宅水槽で2022年3月下旬から「アカニシ(白色個体)」を飼っているのだが、その生活パターンが少しわかってきたような…。水槽で飼う場合は砂に潜るか、構造物の裏側など目立たないところにくっついてじっとしていることがほとんど(「マガキ」が水槽内いるとその貝殻の下側にくっつくことが多い)。そしてときどき水槽内を移動したり、壁をのぼったりする。じっとしているのと、活動しているとの割合は7:3といったところか(水温20~23℃の範囲では)。
高水温にはかなり強いようで、水温28℃でも活性は著しく落ちたりはしない。
水槽内では何を食うのかよく分からなかったので、特にアカニシ用のエサやりはしていなかったのだが、それでも1か月以上は余裕で生存する。さすがに何か食べて欲しいと思ったので、アカニシが活動しているときに、「アサリ」のミンチをピンセットでアカニシに近づけてみた。そうすると、しばらく間があった後、体の前方から筒状の吻(ふん)?を伸ばし、「アサリ」のミンチを吸いつくようにして食べ始めた(下の写真)。
アカニシが何かを食べるのをはっきりと見たのはこの時が初めてであった。以前与えたクリルには見向きもしなかったが、やはり新鮮な「アサリ」だと違うのだろうか(ちなみにこの「アサリ」も三番瀬産)。
(追記:2022年8月9日)飼育して分かったことだが、エサのタイプによって食い方は様々で、また食事にはかなりの時間をかける。まず上に書いた通り、「アサリ」の身のように柔らかいものはそのまま食う。
貝類の中でも「マガキ」は好むようで、水槽内にマガキを入れると、いつの間にかマガキの下側の貝殻にへばりつき、そのままかなりの長時間動かない(数時間~1日間?)。その間何をしているかというと、「マガキ」の貝殻に直径2mmほどの穴を開け、そこから吻?を貝殻内部に突っ込んで中身を食っている。
そして中身を食いつくす or 満腹になると、人知れず姿を消す。サイレントキラーである。食われた「マガキ」は貝殻が大きく開くわけでないので(貝柱が残ることが多いため)、注意していないと貝殻内に残った「マガキ」の身が腐り水が汚れる。見事な食い方だが迷惑である。
他には「イボニシ」などの殻口が割と大き目の貝の場合は、貝殻には穴を開けず殻口に吻?を突っ込んで中身を食うこともある。
食べる
(写真:茹でたアカニシの貝殻と蓋と身)
私も実際に浦安で採れたものを茹でてたべてみた。
身が大きくて食べごたえがあり、味は「サザエ」をちょっと薄味にしたような感じか。サザエのような「磯の良い香り」的なものはほとんどない。
刺身でも食べられ非常に美味いそうだが、私はまだ試していない(貝はあたると怖いので…)。刺身で食べる場合は貝殻をハンマーでカチ割るといいそうだ。
またアカニシの貝殻には汚れや付着生物が付いていることが多いので、調理する前にはタワシでこすって洗い流した方がいい。