コブヨコバサミ

特徴

(写真:2018年6月中旬採集。約6cm(貝殻の横幅)。浦安で見られるヤドカリ類の中では最大級)

レア度:★★★★☆ 節足動物門 軟甲綱 十脚目 ヤドカリ科 学名: Pagurus infraspinatus 英名:? よく見られる季節:6~9月

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貝殻をいれると大人の握りこぶしぐらいにまで成長する大型のヤドカリ。

正面から見るとハサミが横向きに見えるので「横バサミ」、さらにそのハサミにトゲ状の突起がたくさんあるので「コブ横バサミ」の名前が付いたらしい。しかし私にはハサミの向きに関して他のヤドカリとの違いがイマイチよくわからなかった。

コブヨコバサミの体色には数パターンあるようで、全身赤みが強いもの、くすんだオレンジ色が目立つもの、オリーブ色~暗緑色をしているものなどを見つけたことがある。各体色に共通しているのは、甲の背面が薄い黄土色をしていることと、足に目立つオレンジのラインが走ること。

私が今まで浦安で発見したコブヨコバサミのほとんど全ては「アカニシ」の貝殻を利用していた。この辺りは「アカニシ」の個体数が多いので、宿として利用しやすいのだろう。

というかそれ以外に大型の巻貝をなかなか見ないので、それぐらいしか利用できる貝がないのかもしれない(「ツメタガイ」の貝殻を利用している個体も見時々見るが)。また小型個体だと「アラムシロ」の貝殻を利用している例もあった。別の地域だとどんな貝殻を利用しているのだろう?

雑食性で様々なものを食べるようだが、具体的に何を好んで食べるかまでは調べても分からなかった(飼育下だとフレークや粒タイプの配合飼料、クリル(乾燥オキアミ)、微小藻類、シアノバクテリア、生物の死骸、魚肉など色々なものを食べた)。

そんなに頻繁に見かけるヤドカリではないのでレア度はやや高めだが、時期によっては1箇所に2~3匹かたまって見つかることもある。

(追記:2022年7月27日)たしかに陸上からだとそんなにたくさん見つかることのないヤドカリだが、生息している個体数は思った以上に多いようだ。というのも、2022年7月中旬、浦安市内河川の河口域で軽度の青潮が1週間近く続いたことがあり、その際河口の護岸の上や水深が足首ぐらいの場所に、コブヨコバサミがゴロゴロいるのを目撃した(下の写真参照)。

正確な個体数は数えていないが、本気で集めようと思えば、その河口の一画だけで100匹は集められそうなほどだった。ヤドカリ類というと、いつも浅い場所いるもんだと勝手に思っていたが、そうでもないらしい。コブヨコバサミは水深何mぐらいまで生息しているのだろう?

(2022年7月)

2022年7月中旬に採集した個体。貝殻の横幅約7cm。水槽に一緒に入れていた「イシワケイソギンチャク」(写真左)が、貝殻にくっついてしまった。行動が阻害されるためか、コブヨコバサミは鬱陶しそうにしていた
コブヨコバサミのハサミを拡大。確かに正面から見ると横向きだが、他のヤドカリとそんなに違うだろうか? またハサミにはコブというよりトゲ状の突起が多数ある
コブヨコバサミの顔を拡大。長い第2触角は半透明の薄い黄色、短い第1触覚は橙色をしている。眼柄の両側には細い黄色のラインが入り、その先端にある眼は複眼のような見た目だ
脚はオリーブ色~暗緑色で、太いオレンジの縦のラインが入る。足の先端の関節はオレンジに黄色いラインという感じか
コブヨコバサミのハサミ。トゲ状の突起が多数あり、またその先端から太い毛が生えている
コブヨコバサミのハサミ。殻は硬く頑丈そうだ
コブヨコバサミの脱皮殻。生きている時とソックリな姿のため、これが水槽内に転がっていると「死んじまったか!?」と毎回ヒヤヒヤさせられる

非常に状態の良い脱皮殻で、第4~5?胸脚も残っていた(写真右)。体の背面は薄い黄土色をしている

2021年4月上旬採集。コブヨコバサミの子供。約1cm(貝殻の大きさ)。三番瀬での調査採集中、小型の「ユビナガホンヤドカリ」に紛れて、雰囲気の違う1匹のヤドカリを発見。その後にそれがコブヨコバサミの子供であることが判明した。このようなサイズのコブヨコバサミが見つかることはかなりレアだそうだ。目盛りは5mm
コブヨコバサミの子供。約1cm(貝殻の大きさ)。「アラムシロ」の貝殻を利用している。目盛りは5mm

採集する

(写真:素早く動いているように見えるが、動きは緩慢で、人が近づくとすぐに貝殻に隠れる)

採集はシンプル。見つけたら手やタモ網で捕まえるだけ。季節は6月頃から浅瀬でよく見るようになる。

移動して逃げるようなこともほとんどなく、人間が近づくと貝殻の中に隠れて動かなくなることがほとんど。

水の外に出ていることは滅多にない(私が今まで見た限り)。なので偏光サングラスを使い、水中を見やすくすると発見しやすい。大き目の岩の上で佇んでいたり、何もない砂上でじっとしていたり、垂直護岸にくっついていることも多い。

目が慣れてくると、コブヨコバサミが入っている「アカニシ」の貝殻とそうでない貝殻の違い(雰囲気)が分かるようになってくる。

2022年7月中旬、浦安市内河川の河口域で撮影。ちょっと分かりにくいが、写真の中央に20匹ほどのコブヨコバサミが固まってじっとしている。おそらく青潮から逃れるために、極浅所に集まってきたのだろう。このような光景を見たのはこれが初めてだった

飼育する

(写真:新しい貝殻に引っ越したばかりのコブヨコバサミ。古い貝殻に忘れ物でもしたのだろうか?)

大きな体の割に性格はおとなしく、三番瀬水槽では他の生物を襲ったりしたことはない(今のところ)。特別な世話をしなくても、石に生えた苔やエサの食べ残し、砂の中のデトリタスなどを勝手に食べて生存してくれる。

一時期、市役所水槽に赤いとろろ昆布のような藻類(おそらくシアノバクテリアの類)が大発生して困っていたが、コブヨコバサミがキレイさっぱり食べてくれたこともあった。また水温変化や水質の悪化にもそれなりに強い。水温16~28℃までは生存確認している。

水槽には引越し用の貝殻をいくつか入れておいた方が良いだろう。飼育を続けていると結構頻繁に引越しをし、サイズが合わない以外の理由でも引越しをするようだ。

引越しという行為自体がストレスの発散や、コブヨコバサミ自身に何か良い影響を与えるのかもれない。気になる貝殻を見つけると、内見のごとくじっくり時間をかけて貝殻をチェックする。しかし引越しは一瞬なのには笑った。

大きなヤドカリだが、やはり引越しの際は無防備になるらしく、過去に引越し中に「クロダイ」の餌食になってしまったことがあるので、大型の魚類との混泳には注意したい。また「クロダイ」の他に、同サイズのカニに襲われて死んでしまったもあった。コブヨコバサミ以上の体格の生物が水槽内にいる場合は、虫かごなどで隔離が無難か。

余談だが、ヤドカリ類は脱皮をするのだが、コブヨコバサミの脱皮殻は生きている姿とそっくりなので、脱皮殻を死体と勘違いしてしまうということが過去に何度もあった。個人的にコブヨコバサミはお気に入りの生物なので、脱皮の度にヒヤヒヤさせてくれる。

(追記:2021年6月1日)上に「性格はおとなしい」と書いたが、一概にそうとも言えないようだ。というのも、他の人の水槽で飼っているコブヨコバサミと接する機会があったのだが、そのコブヨコバサミは頻繁に動き回り、人の姿を見ると「エサをくれ!」と言わんばかりに水槽のカベを引っ掻く。

さらに水槽に手を入れると、手に掴みかかり指をハサミで挟まれてしまった。力はなかなか強くかなり痛い。痛さレベルでいうと「イソガニ(♂)」以上、「イシガニ」未満といったところ。軽く血が滲むほどだった(笑)

これは個体差によるものなのか? 飼っている環境や混泳生物、水温などによっても行動は変化するのかもしれない。ちなみにそのコブヨコバサミは女性の握りこぶしほどあり、30cmキューブ水槽で小さめのカニやエビと一緒に飼育されていた。当時の水温は25℃。自分を脅かす生物が水槽内にいないと、あんな風になるのかなぁ。