カクベンケイガニ

特徴

(写真:2023年7月中旬、河口付近で採集。甲羅の幅約3cm。オスのカクベンケイガニ。トラ柄迷彩のような甲羅の模様が特徴的。甲羅のサイドには切れ込み(歯)が見られない。警戒心がかなり高く、また逃げ足も速い)

レア度:? 節足動物門 軟甲綱 十脚目 ベンケイガニ科 学名:Parasesarma pictum 英名:? よく見られる季節:夏季?

2023年7月中旬に、浦安市内河川の河口部のコンクリート堤防上で採集。この頃は異常なまでの暑さのため(連日最高気温が30~33℃)生物採集に出かける機会がめっきり少なくなっていた。そんなところに「タッチプールで使用するカニを集めて欲しい」との依頼が入る。

暑い時期のタッチプールは生物への負担がものすごいのであまり気乗りはしなかったが、「お互い様だな」と思い直し、暑さが和らぐ夕方に出撃することにした。

場所は河口付近のコンクリート護岸。護岸には亀裂が入っており、ここに多数の「イソガニ」が隠れている。それをステンレス製のステーキナイフを加工した採集道具で追い込み、ほじくり出すように捕獲していく。

13匹…14匹…15匹…。「イソガニ」たちに申し訳なさを覚えつつも、非常に調子良くカニを採集していく。

「あ~これが仕事で、食えるだけ稼げたらな~」などと野暮なことを思いつつ、カニの採集は完了。久々にこの場所に来たので、辺りを観察記録してから帰ることに。

「特に目立った変化はないな~」と思いながら顔を上げ、ふとコンクリート堤防の壁に目を向けると、サササッ!!と大き目の影が動き、壁の亀裂に隠れた。

「あれは…カニだ…!!水から完全に出た場所にいる。ベンケイガニ系か!?」

この場所では過去に「クロベンケイガニ」「フタバカクガニ」が見つかっているが数は少なく、大半は「タカノケフサイソガニ」「イソガニ」である。

一気に狩猟本能的なモノが目覚める(笑) 体の動きを止め、壁をじっと観察すると、例のカニがこちらの様子を伺うようにソロリソロリと動いている。

「もらったぁ!!」 一気に距離を詰め、亀裂の上下を手で塞ぎながらカニを追い込み、最後は指でホジホジしてキャッチ。

「あ、これクロベンケイでもフタバでもないやん!!」 まさかの初採集のカニである。図鑑に掲載するためオスメス1匹ずつ持ち帰ることに。

やっぱりコツコツ定期的にフィールドに行かないといけませんな。帰路、何故か頭の中には井上陽水の「夢の中へ」の歌詞が流れていた。

さて、いつもながら前置きが長くなってすみません。カクベンケイガニの特徴については『日本大百科全書』の『カクベンケイガニ』の解説を、以下に引用させていただく。

『節足動物門 甲殻綱 十脚(じっきゃく)目 イワガニ科に属するカニ。近縁のいわゆるベンケイガニ類中でもっとも陸上生活に適応しており、海から遠く離れた上流域でもみることができる。相模(さがみ)湾から九州までの各地のほか、台湾、中国北部、スラウェシ(セレベス)島から知られている。

甲幅2センチメートルに達し、甲の輪郭はほぼ正四角形。眼窩(がんか)外歯の後方には歯がなく、はさみ脚(あし)の掌部(しょうぶ)上面に黒色の剛毛が並んだ稜(りょう)が2列ある。

また、可動指の上縁に18か19個の顆粒(かりゅう)が並んでいる。これらの特徴の組合せを、分類学上、亜属と考えるか属とするかには異論がある。[武田正倫]』

(2023年8月)

オスのカクベンケイガニ。個人的にはイケメンっぽさを感じる。目盛りは5mm
オスのカクベンケイガニの顔を拡大。目盛りは1cm
オスのカクベンケイガニの脚を拡大。太く短い黒い毛が生えている。脚の先端は淡い橙色をしている。目盛りは5mm
オスのカクベンケイガニの甲羅を拡大。甲羅は正四角形に近い長方形で、甲羅の幅は2cmほどになる。甲羅の中央前方が大きく窪み、その左右は隆起している。また生体の甲羅色彩はは黒の地に黄褐色の小さな斑点が散在するものとなっている
眼窩(がんか)外歯の後方には歯(切れ込み)がない
他のベンケイガニ類と同様、胴体の側面はメッシュのようになっており、どういう機構か詳しくは忘れたが、これが陸上での呼吸に大きく寄与している
オスのカクベンケイガニのハサミを拡大。顆粒が多数見られ、ハサミ部分は淡い橙色をしている
オスのカクベンケイが二を腹側から撮影。腹側は白色~ねずみ色といったところか?
こちらはメスのカクベンケイガニ。オスに比べてハサミが小さい。目盛りは5mm
メスのカクベンケイガニの顔を拡大。オスに比べて優しいというか、可愛らしい顔をしていると思うのは私だけだろうか?目盛りは5mm
メスのカクベンケイガニの脚を拡大。オスと同様、太く短い黒い毛が生えている
メスのカクベンケイガニのハサミを拡大。オスほど顆粒が多くなく、ハサミも丸っとした印象を受ける
メスのカクベンケイガニを腹側から撮影。大きな半月状の「ふんどし」が目に付く。「ふんどし」の縁辺には毛が見られる
同じメス個体が、飼育開始から2週間頃に抱卵した。卵てんこ盛りでいまにも零れ落ちそうだ
卵は暗い緑褐色をしている。キャビアのようでちょっと美味そうである

採集する

(写真:生物採集道具たち。このような細くて長くて固いものを使って隙間に隠れたカニなどをほじくり出す。上はステンレスの丸カン、下はステンレス製のステーキナイフの刃を削って薄くしヒモを付けたもの。特にステーキナイフが優れモノで、カニの他、イソギンチャク類、固着性生物、海藻類などを傷つけずに上手く剥がすことができる)

浦安で今まで見つけたカニの中ではトップクラスの警戒心の高さと足の速さを誇る。なので姿を見つけたものの捕えるとなると意外と苦労するかもしれない。

私が採集した場所では、コンクリート堤防にできた裂け目にフナムシたちと共に隠れており、外敵が近くにいない場合はそこから出て、護岸上のエサを漁っているようだった。

カニに隠れられてもこちらがじっと動かずにいれば、ソロリ…ソロリ…と隠れ家から出てくるので、その際に手でガッと掴むか、どこか狭い場所に追い込んで、細い棒などを使ってほじくり出すと良いかもしれない。トラップとかが有効なのかな…?

Wikipediaによればカクベンケイガニは『海岸の飛沫帯(波飛沫が掛かる程度の区域)に生息し、潮が引くと潮間帯上部にも進出する。水には入らないが海から遠く離れることもなく、フナムシと同様の生活をする。河口等の汽水域では海水の影響が強い岩場に多い。また改修が加えられた港等の人工海岸でも見られる。本種が見られないのは固い地盤が全くない軟泥干潟くらいである。』とのこと。

飼育する

(写真:自宅水槽4号にて。陸地の上に置いたフレークエサを食べに来たカクベンケイガニ。警戒心高めである)

先に書いたよう、夏場のコンクリート堤防のような過酷な環境でも暮らしていけるタフさを持ったカニなので、飼育は容易な方だと思う。

ほぼ陸地のような場所で暮らすカニだが、海水に浸かりっぱなしでも短期間なら問題ないようだった。ただ長期間だとどのような影響がでるかは分からない。また警戒心の高いカニなので、飼育初めのうちは隠れ家が必要だろう。それと水槽の環境にもよるが、自分より大きな混泳魚がいると活動性が低下し、攻撃されてしまいそうな雰囲気があった。

ちなみに環境は水温25~27℃、比重1.023、気温25~30℃で全く問題なし。暑いのは問題なさそうだが、寒さには強いのだろうか?

あとは飼育するなら、やはり陸地はあった方が良いようだ。自宅水槽4号の水位を下げて虫かごを置いた簡易的な陸地を作ってやると、その上に頻繁に登っていた(というかほとんどその上にいたかも)。

エサを陸地に置いてやると、私がいないときを見計らって、それをこっそりと食べにくる(水が汚れなくて助かる)。しばらく飼育していると慣れたのか、食事中に私が指を近づけても逃げなくなった(笑)

エサは今までにクリル、フレーク(ネオプロス)、「トウゴロウイワシ」の切り身、「アサリ」の身を与えたが、どれも問題なくモグモグ食べていた。元々藻類なども食べる雑食性なので、エサは特に拘らなくて良いのだろう。思ったよりたくさん食べるので、複数個体飼う場合にはエサの量に気を付けたい。

飼育開始当初の様子。警戒心が高く、水槽に近づくだけで、すぐに陸地から水中へ逃げてしまう
水中にいるカクベンケイガニ。比重は1.023。短期間なら水に浸かりっぱなしでも問題は無さそう