トウゴロウイワシ

特徴

(写真:2023年7月下旬、三番瀬で採集。全長約12cm。死直後に撮影。背びれが2基あるのと、大きく剝がれにくいウロコが特徴的。丁度産卵期だったのだろう、この個体はメスで膨らんだ腹にはたっぷりの卵が入っていた(後述)。目盛りは5mm)

レア度:★★★★☆ 脊索動物門 条鰭綱 トウゴロウイワシ目 トウゴロウイワシ科 学名:Hypoatherina valenciennei​ 英名:? よく見られる季節:夏?

2023年の7月下旬、三番瀬で行われた干潟観察会にて、浦安水辺の会の会員が採集。この方は特別生物に詳しいとかそういうワケではないのだが、採集の際にはいつも大き目の魚を捕まえてきてくれる。所謂「もっている人」だと個人的には思っている。ありがたやありがたや。

この個体は少し弱った様子で、岸のすぐ近くをゆっくりと泳いでいたらしい。その周囲には全長1~2.5cmほどのトウゴロウイワシの稚魚が大量におり、やろうと思えばいくらでも捕まえられそうだった。

トウゴロウイワシの稚魚の発見と採集報告は過去にもあったのだが、このようなサイズの成魚を浦安で見たのはこれが初めてかもしれない。イワシ類はなかなか泳ぎが速いし、浦安の場合だと少し岸から離れたところを泳いでいるのか、イワシ類の成魚の群れをはっきりと見ることは少ないように思う(サビキ釣りが成立するところもほとんどないしね)。

 

以下に、『日本大百科全書』の『トウゴロウイワシ』の解説を引用させていただく。

『硬骨魚綱 トウゴロウイワシ目 トウゴロウイワシ科の海水魚。トオゴロイワシともいう。新潟県以南の日本海、青森県以南の太平洋、西太平洋、インド洋に広く分布する。

鱗(うろこ)が粗雑で硬く、体に密着して離れないことから、地方によりトンゴロ、カワイワシ、コワイワシなどとよばれる。ボラに近縁であるが、それより細長く、全長16センチメートルの小魚である。

体側に1本の広い銀白色帯(ホルマリン固定後は黒色)が縦走し、第1背びれが小さく、胸びれが鰓孔(さいこう)上部の後方に位置し、側線がない。日本から5種が報告されているが、肛門が腹びれの基部と後端の間に開くことで他種と区別できる。

日本では6~10月の間、内湾や入り江などに群れをなして泳ぐ。動物性プランクトンを主食とする。ほとんど産業利用価値がない。

北アメリカのカリフォルニア沿岸に生息する同じ科のグルニオンLeuresthes tenuisは、春から夏にかけて夜間高潮時に砂浜へ群遊し、砂の中に卵を産み付けるので有名である。この卵は10日前後砂の中で発育し、次の高潮のときに孵化(ふか)して海中へ運ばれる。[落合 明・尼岡邦夫]』

ちなみにトウゴロウイワシのの卵は「纏絡(てんらく)性沈性卵」といって、纏絡卵とは卵に糸が付いており、この糸が物にくっつく性質をもつ卵のこと(卵自体には接着性はない。下の写真参照)。

産卵期は6~8月頃で、卵は1週間〜10日ほどで孵化し、秋頃には全長3~5cm程度になる。そして翌春には成熟して産卵する。寿命は2年ほどらしい。

(2023年8月)

(2024年4月)

真上から撮影。パッと見「ボラ」の若魚のようにも見えるが、こちらの方が頭部や体が細長い。目盛りは5mm
腹側から撮影。腹側は白く、肛門~臀びれにかけて小さな黒点がまばらに並んでいる(この個体は)。またトウゴロウイワシの特徴として、肛門が腹びれの基部と後端の間に開くことで他種と区別できるとのこと。目盛りは5mm

頭部を拡大。眼が大きくよく目立つ。イワシっぽい顔もしているが、メダカや「ボラ」のような雰囲気もする顔だ。上アゴより下アゴの方が前に出ている

『胸びれが鰓孔(さいこう)上部の後方に位置する』とのこと。またトウゴロウイワシには側線がないらしい
腹部を拡大。ウロコの大きさがよく分かる
体の後半部を拡大。体色は背側が薄緑色で、体側の中心よりやや上に黒とゴールドの細いラインが入っており、腹側は白銀色をしている。とても美しい粋な感じのする色彩だ。また背びれは2基あるのが確認できる
尾柄部周辺を拡大
尾びれを拡大。尾びれの形状はは回遊魚によく見られるような、切れ込みの深いシャープな三角形。尾びれの後縁は黒色をしており、その手前~尾びれの中間ぐらいまでが薄い黄色に染まっている

第1背びれを広げてみる。小さく目立たないが、重要な役割を持っているのだろう

続いて第2背びれを広げてみる
臀びれをを広げてみる
腹びれを広げてみる
内臓の様子を確認してみた。この個体はメスで、腹の中は大きな黄橙色の卵巣で大部分が占められていた。目盛りは5mm
卵でパンパンとはこのことである。肛門も赤くなっていたので、産卵直前だったのだろうか?目盛りは5mm
卵を採取して拡大して見てみる。卵の直径は1.2mmほど。トウゴロウイワシのの卵は「纏絡(てんらく)性沈性卵」といって、纏絡卵とは卵に糸が付いており、この糸が物にくっつく性質をもつ卵のこと(卵自体には接着性はない)。そのためか、海水をかけてかき混ぜても、卵1つ1つがバラバラにならない
採取した卵を自宅水槽の生物たちに与えてみた。さすが栄養満点の卵ということか、水槽にいれた瞬間からスジエビ類、ヤドカリ類が我先に卵に飛びつく。また「干潟の掃除屋」として知られる巻貝「アラムシロ」も食らいついて離さない(写真)。「アラムシロ」がこんなに執着を示し、長時間食い続けるエサは初めてかもしれない。どの生物も満腹まで食らい続けた

採集する

(写真:上の写真の成魚と同時に採集したトウゴロウイワシの稚魚。全長約2.7cm。この日は全長1.5~3cmほどの稚魚を大量に採集できた)

トウゴロウイワシがいる場所でサビキ釣りをすれば簡単に釣れるのだろうが、浦安ではそのような場所はほぼないので、成魚の発見・採集は稀だと思う(岸からの場合)。

ただ写真のようなサイズの稚魚なら、動きもそんなに速くないので、群れにタモ網を被せれば大量に採れる。ただこのようなイワシ類の稚魚は脆弱で、網を被せた際の衝撃や少し手で触れただけでも著しく弱る & 死ぬので、採集の際は優しく扱いたい。

2023年8月下旬、三番瀬で採集。タモ網のひと掬いでこれだけの量が採れた。よく見ると死んだ稚魚が水槽底に沈んでいる。丁寧に扱わないとすぐに死んでしまう。無駄な殺生は避けたいところ
こちらも同時に採集したさらに小さな稚魚。全長約1.7cm。体表の色素やウロコが未発達で体内が透けて見える。目盛りは5mm