ユビナガスジエビ

特徴

(写真:2019年4月中旬に三番瀬で採集した個体。体長約3cm(角(額角)の先端から尾の先端までの長さ)。浦安で見つかるユビナガスジエビは半透明の体色をしているものが多い。目盛りは5mm)

レア度:★☆☆☆☆ 節足動物門 軟甲綱 十脚目 テナガエビ科 スジエビ属 学名:Palaemon macrodactylus 英名:? よく見られる季節:初夏~初秋

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最大で体長が4cmほどになるらしい。浦安沿岸で最もよく見られるエビの1つで、特に三番瀬や河口の、転石が多い場所に多い気がする。特に初夏から初秋にかけての浦安沿岸ではたくさんのユビナガスジエビを見ることができ、海底に沈んでいる障害物の側や海藻をタモ網ですくえば簡単に捕まえることができる。

浦安では春~初夏にかけては体長が4cmほどの抱卵した大型個体がよく見つかり、真夏になる頃には世代交代のためか、体長1~2cmほどの小型個体をたくさん見かけるようになる。

ユビナガスジエビは汽水域や河口、干潟など様々な場所で見られるエビで、「ユビナガ」の名前の通りハサミ脚(第2胸脚)が他のスジエビ類に比べるとやや長い(「テナガエビ」ほどではないが)。

基本的な体色は半透明で、背中や腹部が少し褐色に色づくものが多い。ただ中には全身が褐色っぽいものや灰色っぽいもの、さらには真っ黒い個体もいるため注意が必要(下の写真参照)。これらの体色は大型個体で見られることが多い。

「スジエビモドキ」とよく似るが、「スジエビモドキ」では腹部の背面に明瞭な縦スジ模様が入ることなどで見分ける(下の写真参照)。またユビナガスジエビの腹部背面の中心には、薄い黄色い~土色の線が1本走るといった特徴もある(これは小型個体だと少々分かりにくい)。

雑食性で、小魚、小型甲殻類、ゴカイ類、海藻(アオサ類を食べるのを見たことがある)など何でも食べる。また岩やカキ殻についた泥状のデトリタスを非常に好んで食べていた。性格もこのあたりで見られるエビ類の中では獰猛で、弱った小魚を捕らえて食べることもある。

またユビナガスジエビは採集が容易なため、「クロダイ」「スズキ」釣りのエサに使われたり、他のスジエビ類と一緒に佃煮やかき揚げにして食べられることもあるそうな。

(2020年4月)

(2023年11月)

2022年3月下旬に三番瀬で採集した個体。体長約3cm。このような体色のユビナガスジエビが浦安ではベーシックなタイプと言える。目盛りは5mm
2022年5月下旬に河口付近で採集した個体。体長約4cm。腹部に緑色をした卵を抱えている
エタノールで固定したユビナガスジエビ。体長約4cm(角(額角)の先端から尾の先端までの長さ)。生きている時は白色半透明の体色だったのだが、エタノールで固定したら写真のような褐色になってしまった。目盛りは1cm
ユビナガスジエビのハサミ脚を拡大。ハサミ脚(第2胸脚)がやや長く、関節部が黄色く染まっている(関節部が黄色いエビは他にもいるので注意)
ユビナガスジエビの頭部(頭胸甲)。よく見ると側面には黒いスジ模様がある
ユビナガスジエビの腹部。腹部には「スジエビモドキ」に見られるような明瞭なスジ模様は見られない。また腹部全体には小さな褐色の点が密に散らばっているのが分かる
ユビナガスジエビの尾部。こちらにも褐色の点が密に見られる
ユビナガスジエビの角(額角(がっかく))はほぼ水平で、額角の上縁と下縁にはノコ歯状のトゲが並ぶ

ユビナガスジエビの体色について(体験談)

(写真:2022年4月中旬、三番瀬で採集したねずみ色の体色をしたユビナガスジエビ。体長約4cm。おおこれはレアだ!と思ったが…)

先に書いた通り、特に大型個体において、ユビナガスジエビの体色にはバリエーションが見られるようだ。過去確認したものだと、まず普通の白色半透明のもの、褐色っぽいもの、体全体が濃い褐色のもの、全身が真っ黒のもの、ねずみ色っぽいものなどなど。

そのような個体を見つける度に、「お!ラッキー」と捕獲し展示を行っていた。

2023年の夏だっただろうか…。三番瀬で体長3~4cmほどの大型個体で白色半透明、褐色の強い個体、黒色の個体を同時に採集する機会があった。それらを自宅に持ち帰り、別の場所に持っていくまでクーラーボックスに入れて保管。

そして翌日、クーラーボックスの蓋を開けると…何ということでしょう!! 全ての個体が白色半透明もしくはそれに近い体色に変化していたのだ。いや、正確に言うと、もともと白色半透明のものはもちろんそのまま。褐色の強い個体はほぼ白色半透明に。そして黒色の個体もかなり色が抜けて、薄い褐色になっていたのだ。ちなみにクーラーボックスの色は白色である。

これだけで断定することはできないのだが、この出来事から、今まで見てきた体色バリエーションは、殻に色素が沈着していたのではなく、ユビナガスジエビ自身が体色を変化させていたものだったようだ。

うーんなんというか、残念な気持ちである…(このニュアンス伝わるだろうか?)。​

それはそうと、ユビナガスジエビたちは何故こんなにもバリエーション豊かに体色を変化させているのだろう? ほとんど同じ場所(水深、底質も同じ)に暮らしているのにも関わらずだ。これについて誰か論文とか書いてないだろうか。

2020年6月下旬に河口付近で採集した個体。体長約4cm(角(額角)から尾の先端までの長さ)。体色が真っ黒で、何やら所有欲をそそる姿だ。背中の中心に1本走る土色のラインがよく目立つ。このような体色は大型個体で見られることが多い
こちらは2022年3月下旬に三番瀬で採集した個体。体長約4cm(角(額角)から尾の先端までの長さ)。こちらは体全体が茶色っぽい。目盛りは5mm

採集する

(写真:抱卵したユビナガスジエビを腹側から撮影してみた。なかなか新鮮なアングルではないだろうか?)

浦安では春~晩秋まで姿を見ることができ、特に初夏~初秋(5~9月ぐらいまで)に多い。真冬には人が歩いては入れるような浅場ではほとんど見なくなる。初夏には繁殖を控えた大型個体が多く、夏になるとその年生まれの小さな個体がメインとなるようだ。

色々な採集方法があると思うが、私が行うのはタモ網を使った方法。方法というほど大したものではないが、タモ網で垂直護岸やテトラポッド、砂上の岩の側面などを擦りあげると、たぶん高確率で採れるはずだ。

基本的には障害物に付いている生物なので、海底に沈んだ漁網や桟橋、海藻などを発見したらそれごと掬いあげるぐらいの気持ちでタモ網をふるうと良い。ちなみにタモ網は頑丈で先端が直線状(丸いやつじゃなくて)のものが使いやすい(これは他の生物を採集するときにも言える)。

あとは大きな岩がゴロゴロ沈んでいるような場所なら、タモ網を岩にくっつけて逃げ場を塞ぐようにしてから、足で岩の間に隠れたエビをタモ網の中に掻き込むようにするとよく採れる。

飼育する

(写真:2020年4月中旬撮影。腹部に卵を抱えたユビナガスジエビ。卵は暗い緑色をしている)

見た目や動きの面白さから三番瀬水槽でも人気が高い。飼育は容易で、特別な世話をしなくてもエサの食べ残しや石に生えた藻類など、何でも食べて勝手に成長してくれる。とにかくありとあらゆるものを大量に食べてくれるので、水槽の掃除屋にも最適。

ただエビ類は魚類にとってはご馳走なので、一緒に飼育するとあっという間に食べられてしまう。なので一緒に飼う場合はエビを隔離ケースに入れたり、魚が侵入できない隠れ家を用意してやる必要がある。

また実はユビナガスジエビ自身も中々獰猛な性格をしており、弱った魚などがいると泳いで捕まえて食べてしまうこともある。

弱ったヨコエビ類を捕食するユビナガスジエビ
2020年4月中旬撮影。卵から生まれたばかりの「ユビナガスジエビのゾエア幼生」。体長約3mm。目盛りは0.5mm