ムラサキイガイ

特徴

(写真:2023年4月下旬、三番瀬で採集。貝殻の長さ約3.5cm。生きた状態で撮影。目盛りは0.5mm)

レア度:★★★★★★☆☆☆☆ 軟体動物門 二枚貝綱 イガイ目 イガイ科 学名:Mytilus galloprovincialis 英名:Mediterranean mussel よく見られる季節:春~夏

最大で貝殻の長さが10cmほどまで成長する。別名「チレニアガイ」ともいうらしい。所謂「ムール貝」の一種で、洋食レストランで食べたことのある人もいるかも知れない。

浦安では温かい時期になると、河口域などの護岸に付着しているのを見かけるが、よく見る年もあれば、ほとんど見ない年もあるという印象。三番瀬や高洲の護岸などではあまり見かけず、河口や河川内など栄養が多いと思われる場所に多い印象がある。ちなみに産卵期は冬を中心に秋~早春だそうだ。

ムラサキイガイは地中海沿岸原産の外来種で、1932年に日本で初めて確認された。「ミドリイガイ」などと同様、船のバラスト水(船の浮力や重量を調節するために船に汲み上げる水)に幼生が混入したり、船体に付着してやってきたと考えられている。

繁殖力が強く水の汚染にも強いため、容易に駆除することができず、現在ではムラサキイガイは沿岸生態系の一部として扱われている。またIUCNの「世界の侵略的外来種ワースト100」にも「チレニアイガイ」の名で選ばれている。

ムラサキイガイも「マガキ」などと同様に、水中のプランクトンやデトリタスを水ごと吸い込んで体内で濾し取って食べるため、水質を浄化する作用を持っている。しかも栄養が多い海域ほど、ムラサキイガイは大量、高密度に発生する傾向があるので、その能力を水質浄化に生かせないかという試みもある。

しかし逆に、大量のムラサキイガイの死骸が水を汚染したり、ムラサキイガイが付着することでカキ養殖施設や発電所の取水設備にダメージを与えるという事態も発生している。

 

ムラサキイガイの貝殻は「ムール貝」の形、涙型のようで、殻頂先端は尖りほんの少し曲がる。小型個体では貝殻は扇形に近くなる。

貝殻の色は名前の通り、ほんのり紫がかったた黒色で光沢があり、殻頂付近が褐色に色づく場合もある。また貝殻表面には同心円状の細かな筋が密に並ぶ。貝殻の内側は真珠光沢のある鈍い銀色で、縁辺部は黒色になっている場合もある。また貝殻は薄く、表面が少しはがれやすい。

ムラサキイガイは貝殻の間から糸状の足糸(そくし)を何本も出して、護岸や岩、ロープなどの基質に付着する。黄土色~黄金色をしている足糸はかなり強靭で付着緑も強く、さらに様々な物体に付着できる性質から、ムラサキイガイの足糸の成分を医療用の接着剤に応用できないかという研究もなされているそうだ。

ちなみにムラサキイガイは「クロダイ」釣りの代表的なエサであり、実際に「クロダイ」の胃袋の中を見てみると、ムラサキイガイがパンパンに詰まっていることが多々ある。

(2023年8月)

反対側の貝殻を撮影。貝殻ほんのり紫がかったた黒色で光沢があり、殻頂付近が褐色に色づく場合もある。また貝殻表面には同心円状の細かな筋が密に並ぶ。目盛りは0.5mm
サイド(貝殻が開く方)から撮影。貝殻は紡錘形のような形で膨らみがある。また貝殻の合わせ面には足糸を出した跡が見える
反対サイドから撮影。よく見ると写真中央左に貝殻の蝶番(靱帯)があるのがわかる
正面?から撮影
採集したムラサキイガイを自宅水槽の砂の上に置いてみる。しばらくすると貝殻を開いて呼吸を始めた。外套膜は黒色?
ムラサキイガイの出した足糸に砂や小石がくっついている
別個体の足糸を拡大してみる。黄土色~黄金色をしている足糸はかなり強靭で付着緑も強く、さらに様々な物体に付着できる性質から、ムラサキイガイの足糸の成分を医療用の接着剤に応用できないかという研究もなされているそうだ
貝殻の内側は真珠光沢のある鈍い銀色で、縁辺部は黒色になっている場合もある

採集する

(写真:2022年1月下旬、三番瀬撮影。貝殻の長さ約2cm。階段状の護岸に密集して付着しているムラサキイガイ。よく見るとムラサキイガイの群落内にポツポツと「コウロエンカワヒバリガイ」が混じっている)

春~夏頃に河口域の護岸などでときどき見かけるが、最近(2023年前後)は少ない印象がある。

私はムラサキイガイを狙ってたくさん採ったことはないが、ムラサキイガイは足糸の力が強いので、量を採るなら貝を引きはがすためのノミやナイフといった道具があると良いだろう。

また貝殻の縁辺部がが鋭いので、採集の際はグローブなどをはめた方が良い。

このムラサキイガイ、私が生物採集をする場所ではあまり数が多くない。また割と頻繁に見かける年もあれば、ほとんど見ない年があるように思う。

2020年1月下旬撮影。海中から引き揚げたロープにめり込むようにして付着しているムラサキイガイ。貝殻の長さ約2cm。こちらにも「コウロエンカワヒバリガイ」?の姿が見られる
こちらは2023年4月下旬に、河口付近の垂直護岸に付着していたムラサキイガイ。貝殻の長さは約8cmと、私が今まで浦安で見たものの中では一番大きい。成長不良があったのか、貝殻は歪なハート型のようになっていた

飼育する

(写真:自宅水槽にて、砂に潜るムラサキイガイ。本来は砂に潜る貝ではないと思うのだが、付着できる適当な場所がなかったためか、このような行動をした。潜った後は水槽の壁面や砂に足糸を付着させ、自身を固定していた)

環境の変化に強い生物なので生存させることは難しくないが、長期飼育となると話は別かもしれない。

三番瀬水槽自宅水槽ではエサとなるプランクトンやデトリタスがほぼないため、だんだんと中身が痩せていき1~2か月もすると体力が尽きて死んでしまう。

また直接的なシーンは見たことが無いが、弱った状態だと大き目のカニ類やヤドカリ類、「クロダイ」などの魚類に食われる可能性もある。

長期的に飼育するにはまずムラサキイガイがしっかりと貝殻を固定できる環境を作ってやり、イガイ類を食べる生物との混泳を避け、定期的に餌となるプランクトンや有機懸濁物をスポイトで与えてやる必要があるだろう。

食べる

(写真:2017年4月中旬採集。貝殻の長さ約6cm(貝殻の長さ)。貝殻にはアオサ類や「オゴノリ」などの海藻、カキ殻など様々なものが付着していた)

「ムール貝」と呼ばれるものの代表的な一種で、味が良く、市場にもよく出回っており、ブイヤベース、パエリア、パスタなど洋食の食材としてよく利用されている。

しかし料理店で出されているものなら安心だが、東京湾奥部で採集したものを食べることは、私はオススメしない(ムラサキイガイは貝毒のリスクが高いと言われている)。

夏頃になると外国人の方々が浦安で凄まじい量のムラサキイガイ漁獲していく様子を見ることがある(1人で土嚢袋4~5袋も)。一体どのように利用するのだろう? そしてお腹は壊さないのだろうか…?