マメコブシガニ
特徴
(写真:2019年5月中旬に三番瀬で採集。甲羅の幅約1.5cm。オスのマメコブシガニ。この個体は白地にオレンジ~茶色模様の体色をしているが、個体によって色や模様は様々)
レア度:★★★★★★★☆☆☆ 節足動物門 軟甲綱 十脚目 コブシガニ科 学名:Philyra pisum 英名:? よく見られる季節:6~8月
最大で甲羅の幅が2cmほどの小型のカニ。カニのくせに前に歩くことができるという、ちょっと変わったカニでもある。
浦安では三番瀬で初夏~夏にかけてときどき目にする。潮が良く引いた日に、砂上をテクテク歩くマメコブシガニを発見すると、「あぁ、夏がきたんだなぁ」とワクワクした気持ちになる。普段は砂に浅く潜っていることが多いようだ。
甲羅は半球状で、色はベージュや薄い褐色、濃い褐色、グレー、白など色々あり、中にはそれらが組み合わさって、迷彩柄のような模様をした個体もいる。腹側は全体が真っ白な個体がほとんど。また歩脚には白いシマ模様が見られる。
ハサミは薄いニッパーのようになっており、これを上手に使って「アサリ」などの二枚貝の殻をこじ開けて食べることもある。
よく1匹のマメコブシガニの上に、もう1匹が覆いかぶさっている姿(下の写真参照)をよく目にするが、これはオスがメスを後ろから抱き抱えることによって、メスを別のオスに取られないようにしている。
この行動は交尾の前後に行われるので「交尾前(後)ガード」という。このような行動は繁殖期の5~8月頃によく見られる。私も男としてこのオラオラっぷりを少しは見習いたい。
ちなみに交尾は互いに腹側を合わせ、抱き合うような格好で行う。その様子は情熱的だ(下の写真参照)。
浦安には多くの種類のカニが生息しているが、その中でもマメコブシガニは、どこか人間臭いというか、カニらしくないというか、不思議な魅力を持った生物だと私は思う。
(2022年6月)
(2024年5月)
採集する
(写真:2016年8月中旬、三番瀬で採集。甲羅の幅約8mm。小型のマメコブシガニ)
動きが遅いので採集は簡単。三番瀬などの海底が細かい砂の場所で、初夏~夏の潮が引いた時に地面を見ながら歩いていると、のそのそと動くマメコブシガニを発見できる。
砂に浅く潜る習性があるので、タモ網で海底を引きずっていると捕れることもある。
(追記:2022年6月2日)上に「採集は簡単」と書いたが、確かに見つけさえすれば採集は簡単なのだが、最近見ることが少なくなっているような気がする。2022年の3~5月では、一人が2時間ほど採集に出て、1~2匹見つかるといった感じか。単にまだ時期が早いのか、砂に潜っている個体をスルーしてしまっているのか、原因は分からないが、数を集めるのは思ったより大変だという印象。
飼育する①
(写真:「アサリ」の貝殻を開けようとするマメコブシガニ)
水槽に入れると砂に潜ってしまうことが多いので、飼育実態がよく分からない。
エサを水槽に入れるとその臭いに反応してか、砂の中からムクムクと現れる。また写真のように「アサリ」などの二枚貝を入れてやると、一生懸命貝殻を開いて食べようとする。その必死な様子が可愛らしく、笑える。
寿命は3年ほどという情報もあるが、三番瀬水槽ではいつの間にか姿を消してしまうことが多く、どの程度生きたのかよく分からない。頑丈そうな見た目に反して、他生物による攻撃にはあまり強くないような印象がある。マメコブシガニだけを隔離して、1匹1匹にしっかりとエサをあげれば長生きするのかもしれない。
飼育する②
(写真:「アサリ」の身にがっつくマメコブシガニ。色々エサを与えてみたが、やはり貝類が好きなようだ)
上に書いた通り、三番瀬水槽では飼育実態が分からなかったため、「なら自宅でしばらく飼ってみよう!!」と、2022年4月より飼育を開始し、2か月ほどが経過したので、そのまとめを書いてみようと思う。
まず水温は20~25℃の範囲では全く問題なし。比重は1.023付近。環境の変化に特にデリケートということはなく、水の汚れにも弱くはないようだが、浦安でよく見られる他のカニ類(「イソガニ」や「タカノケフサイソガニ」)と比べると、虚弱な印象がある。水槽内に攻撃的な魚類、カニ類がいると、割と早期に餌食になってしまいやすい(硬くて防御力の高そうな甲羅を持っているんだけどね)。
動きは緩慢で、凹凸のある地形だと移動はし辛そう。あと1日の大半を砂に浅く潜る or 完全に潜って動かずに過ごすので、水槽にはある程度粒度の細かい砂を敷いてやった方が良い(私は田砂を使用している)。ただ粒径が5mm以上あるサンゴ砂に潜ることもできる。
性格は温厚…というかほぼ動かない(笑) ときどき何の前触れもなく、砂から出てしばらく移動し、その後直立不動のまま長時間いることもある(何の意図があるのかは不明)。また弱った貝類に興味を示すことはあったが、他生物を攻撃するということはほとんどない。
ただオスのマメコブシガニ同士だと、メスを争ってかケンカをすることが時々見られた。あと水槽内にメスがいる場合は、動きがやや活発になり、前に書いた「交尾前(後)ガード」と交尾をよく行う。
多くの個体を飼育したわけではないので断言はできないが、メス個体は繁殖活動を終えると、しばらくして死んでしまうようだ。オスは交尾後も健在。
エサは水槽に入れたばかりだと、生っぽいものしか食べなかった。最も反応が良かったのは、冷凍アサリのむき身。他の貝類もよく食べる。ハサミを器用に使って、身をちぎりながら、(体の大きさにしては)大きな口でむしゃむしゃと食べる。
また慣らしていくことで、クリル(乾燥エビ)も食べるようになる。残念ながら今回はまだ、配合飼料を食べるかは確認できていない。
ただエサやりには注意が必要で、エサをマメコブシガニの至近距離に置いてやらないと、マメコブシガニがエサを認識できない、エサまでたどりつけない、動きが遅いためエサを他の生物に奪われる、といった事態が多々発生した。つぶらな瞳をしているが、視力はかなり悪い?ようで、主に匂いを頼りにエサを見つけている感じだ。
そのことから考えると、動きが素早く、貪欲な生物(魚類全般、スジエビ類)などとの混泳時には、「しっかりとマメコブシガニがエサを食うのを見届ける」という行為が必要(マメコブシガニのみを隔離してエサを与えるのもアリ)。
それとあまり動かないため腹が減らないのか?、エサを食う時と食わない時がある。食わないときは、エサを水槽に入れても、身動きひとつしないし、大好物の「アサリ」の身を鼻先に持って行ってやっても、全く反応しない。
以上のことから、マメコブシガニはあまり展示向きの生物ではないが、動きや仕草が独特で面白いので、自宅でのんびり飼うのにおススメの生物だと思う。飼育設備はこのページの自宅水槽のところを参考にして欲しい。
マメコブシガニの抱卵、孵化
(写真:2023年6月下旬に三番瀬で採集したメスのマメコブシガニ。どうやら抱卵しているようで、「ふんどし」の内側がオレンジ色になっている。まさかこの後あんなことが起きようとは…)
2023年6月下旬のある日、ふと自宅水槽4号(デカい虫かご)を眺めていると…
「なんかちっさい黒い粒がたくさん浮いてる!! しかもよく見ると泳いでるわこれ!!」
と異変に気が付く。初めて見た姿だったので一瞬戸惑ったが、何かしらの卵が孵化した幼生だと思い、水槽内の生物に目をやる(ちなみにこの時の水温20~23℃ぐらい)。
「スジエビ類達で抱卵していた個体はいないし、「ユビナガホンヤドカリ」も季節的に違うだろう。形態的に貝類(ウミニナ類)のでもないなぁ………あ!! マメコブシガニ♀が抱えていた卵が無くなってる!!」
状況証拠による推理になってしまったが、おそらくこれはマメコブシガニのゾエア幼生だろう。それにしてもすごい数である。加えてかなり小さい(大きさは0.5mm程度)。
取りあえずサンプルとしていくらかスポイトで採集し、マイクロスコープで撮影してみた。マイクロスコープの性能が悪く(7000円中華製)画質が残念であるが、丸い?頭部とそこから伸びる細い腹部、そして扇形?の尾が確認でき、腹部とを丸めては伸ばすを盛んに繰り返して、水中を泳ぎ回っている姿を撮影できた(下の写真参照)。
うん、ゾエア幼生で間違いないだろう。そういえば私が師匠と仰ぐ人が、「マメコブシガニは稚ガニと稚ガニになるまでの発生過程のサンプルがほとんど採集されていないので、育てられたらレアですよ」と言っていたのを思い出す。やってみるか…?
自分は稚魚や幼生の飼育の経験はほぼ無い。なのでダメ元だ。まずは小さな虫かごに海水を張り、幼生を50匹ほど入れ、弱めのエアレーションで軽く水流を作ってみた。
エサは粒タイプの配合飼料(おとひめ)を粉上に砕いたもの、市販の殻無しブラインシュリンプ(粉末状)をあげてみる。
………小さすぎて食ってるか食ってないか分からねぇ!!!!
もうこの時点でダメな雰囲気が漂う。やっぱ植物プランクトンとかが必要なのだろうか。上記のエサだと残餌もけっこー出るしその回収もしにくい。加えて気温が高い時期に突入したので、虫かご程度の水量+ろ過装置なしだと水温と水の劣化が激しい(一応毎日水替えしたけど…)。
結局3日目にして諦めることに。舐めててスミマセンでした。
生き残った幼生たちは元居た水槽に戻し、それからしばらくすると水槽内の別の生物たちに食いつくされたのか、自宅水槽4号からゾエア幼生の姿は消えていた。