エビジャコの一種①

特徴

(写真:2019年4月中旬採集。体長約3cm(角(額角)の先端から尾の先端までの長さ)。ぱっと見エビに似ているが、よく見るとエビとは違った体の構造をしている)

レア度:★☆☆☆☆ 節足動物門 軟甲綱 十脚目 エビジャコ科 エビジャコ属 学名:? 英名:? よく見られる季節:3~5月頃

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どのくらいまで大きくなるかはわからないが、私が今まで見たのは最大でも4cmほど。三番瀬には「ウリタエビジャコ」と「カシオペエビジャコ」の2種類が生息しているらしいが、2種は非常によく似ており、その違いはかなり詳しく見ないとわからないそうなので、ここでは「エビジャコの一種①」として紹介することした。

(追記:2022年4月4日)「ウリタエビジャコ」の見分け方が判明したので、「ウリタエビジャコ」のページを作成した。

三番瀬浦安側では春から初夏かけて大量のエビジャコ類を見ることができる。タモ網で海底の砂をひとすくいすれば、必ず1匹はエビジャコが捕れるというほどだ。エビジャコは生物の死骸などを食べる掃除屋であると同時に、エビジャコ自体が他の生物の重要なエサ生物であり、三番瀬の生態系を支えているのは間違いない。

エビジャコとは「節足動物門 甲殻綱 十脚目 エビジャコ科」に属する生物で、本州北部~九州、朝鮮半島や中国まで幅広く分布し、内湾の水深が浅く、海底が砂泥の場所に生息している。姿はエビによく似ているが、泳ぐこともあるエビとは違って、エビジャコは日中はほとんど砂の中に潜って過ごしている。

体型はエビ類に比べると全体的に上から潰されたように平たく、角(額角(がっかく))は短く目立たない。またハサミ(第1胸脚)も短く不完全な形状で、その先端は鎌形をしている。

三番瀬で見られるエビジャコの体色は薄い灰褐色や、半透明のものが多く、体の表面には黒い小さな点がたくさん散らばっている。また周囲の環境に合わせて、体色や模様を変化させることができる(飼育観察してわかったが、その変化の幅はかなり広い。かなりの隠れ上手だ)。

ちなみに日本ではエビジャコ類は佃煮にして食べられたり、釣りのエサとして細々と利用されているが、ベルギーとオランダではかなりメジャーな食材らしい(そのエビジャコは三番瀬のエビジャコとは違う種類だが)。また最近浦安に長く住む老人から、浦安の人はエビジャコ類のことを「ハンベエ」と呼び、釣りのエサなどに使っていることを教えてもらった。

それにしても「これはエビじゃなくて、エビジャコというんですよ!」という説明をこれまで一体何回しただろうか。普通の人にはどうでもいい事かもしれないが、私は何故かそこに妙にこだわってしまう。

(2020年4月)

エビジャコの一種①の頭部。角(額角(がっかく))は短く目立たない
エビジャコの一種①の腹部と尾部。体の表面には不定形な小さな黒点が散らばっている
こちらは2021年4月上旬に三番瀬で採集した個体。体長約4cm(角(額角)の先端から尾の先端までの長さ)
複雑な顔をしているなぁと思う。「〇イレーツ・オブ・カリビアン」に出てきそうである

採集する

(写真:2019年4月下旬、三番瀬で採集。体長約3cm(角(額角)の先端から尾までの長さ)。この個体は薄い褐色をしているが、これも体色変化の一例だと思う。目盛りは5mm)

3~5月頃に三番瀬に行けば簡単に採集できる。3月中は大型の抱卵した個体がよく採れる。

普段は浅く砂に潜っているので、タモ網で海底を引きずるといい(網の先端が直線になったタイプのタモ網がオススメ)。

水温が上がりきった真夏になるとあまり姿を見なくなる。

飼育する

(写真:真横から見ると、エビ類と比べて押しつぶされたような平たい体をしているのがわかる。目盛りは5mm)

過去に三番瀬水槽でも何度か飼育したことがあるが、すぐ砂に潜って姿を消してしまうので飼育実体がよくわからない。

またエビジャコ類は魚類にとっては格好の獲物のようで、混泳魚がいると早々に食べ尽くされてしまう。混泳させる場合は、砂を浅く敷いた隔離水槽で飼ってやるのが良いかもしれない。

(追記)2020年春に自宅水槽で3~4cmほどのエビジャコを飼ってみた。やはり日中は砂に浅く潜ってじっとしており、水槽にエサを入れても反応せず、ほとんど動くことがない。性格はかなり臆病で、自分より小さなヤドカリが近づいてきただけで逃げる。

泳ぎはお世辞にも上手いとは言えず、よく水槽のカベにぶつかっていた。ピンセットでつついたり外部から刺激があると、目で追えないほどのスピードでビュンっと飛び跳ね、一気に10~20cmほど移動する。また部屋を暗くすると、いつの間にか砂の上に現れるが、やはりじっとしている。

飼育した個体は抱卵しており、水槽に入れてから数日経った頃に卵が孵化した。その際、エビジャコは腹肢を盛んに動かして、幼生を一生懸命水中に放っていた。生まれた幼生はものすごい数で、一時は水槽中が幼生だらけになったが、翌日には水槽内の「アミメハギ」「マコガレイの幼魚」「ユビナガスジエビ」「スジエビモドキ」たちに食べ尽くされてしまった…。そして卵が孵化してから数日後、役目を果たした親エビジャコは静かに息を引き取った。

(追記:2021年6月30日)2021年の4月に再び自宅水槽でエビジャコ(体長4cmぐらいの成長した大型のもの)を飼ってみた。このときは全長約4cmの「ハオコゼ」や全長2cmほどの「マコガレイの幼魚」などと同居させていたが、水槽内に自分を脅かす生物がいないと判断したのか、以前飼育した時よりもエビジャコの行動が活発だった。

具体的にどのように活発だったのかというと、まず日中でも砂に隠れない。そしてエサを与えるとそれを食うために砂上を動き回るなどなど…。「同じエビジャコでも、環境が違うとここまで行動が違うのかぁ」と驚いたものだ。

またエビジャコがかなり高い擬態能力を持っていることも発見した。採集時は灰黒色をしていたが、ある時は褐色がかった半透明、そして砂の上にいる時は砂とほぼ同じ色と模様に体色を変化させていた。

自宅水槽では「田砂」という黄土色をベースに黒や白い砂粒が混じった砂を使用しているのだが、「田砂」に隠れるエビジャコの体色は、その「田砂」の色々な砂粒が混じった様子も再現していた。

2020年4月下旬撮影。抱卵したエビジャコの一種①。体長約4cm(角(額角)の先端から尾の先端までの長さ)。お腹に半透明の灰色っぽい卵をたくさん抱えている
抱卵したエビジャコの一種①。正面から光を当てると、眼が光を反射して光った
卵から生まれたばかりの「エビジャコの一種①のゾエア幼生」。体長約2.5mm。
こちらは2021年4月上旬に採集した個体。体長約4cm(角(額角)の先端から尾の先端までの長さ)。周囲の砂(田砂)とほとんど同じに模様に体色を変化させている。すごい擬態能力だ