アミメハギ
特徴
(写真:2022年10月下旬、河口付近で採集。全長3.5cm。オスのアミメハギ。最大でも全長8cmほどにしかならない小型のカワハギの仲間で、これで既に繁殖可能サイズのようだ)
レア度:★★★★★ 脊索動物門 条鰭綱 フグ目 カワハギ科 学名:Rudarius ercodes 英名:Whitespotted pygmy filefish よく見られる季節:6~?月
大きくても全長8cmほどまでにしかならない小型のカワハギ。その愛らしい見た目と泳ぎ方からずっと「飼いたいな~、でも浦安にはいないのだろうな~」と思っていた。しかし2018年6月中旬のある日、河口付近で目に留まった海藻を何気なくタモ網ですくったら偶然捕れた。しかも2匹同時にである。6月は丁度繁殖期にあたるので、オスメスのつがいで行動していたのかもしれない(あとでよく見たらやはりオスとメスだった)。
浦安では数は多くなくレア魚であることは間違いないが、2018年の発見以来、毎年1回は採集 or 姿を見かけている(季節は初夏~秋)。海藻の生えた岩礁域や「アマモ場」に多くいるイメージがあるが、私が発見したのは河口付近や三番瀬の砂地などであり、意外と様々な環境に適応しているのかもしれない。
ちなみにオスの尾びれの付け根には太い毛が密集して生えている。
アミメハギは体の白い模様が網目に見えることから「網目ハギ」の名前がついたそうだ。体はひし形で、基本は体色は明るい褐色~黄金色の地に、小さな白点が体中に見られる。ただ体色はアミメハギの状態によりかなり変化する(詳しくは下の写真を見て欲しい)。
オスは繁殖期になると婚姻色を呈する(他の部分も黒くなるかも)。またオスは尾びれの付け根(尾柄部)に透明な毛のようなトゲ状のウロコがある。
体中のひれを巧みに使い(特に背びれと尻びれをカーテンのようにヒラヒラさせる)、その場で静止したり上下左右前後にゆっくりと移動することができる。ただ泳ぎはあまり速い方ではないと思う。また睡眠時には海藻などを口でくわえて体を流されないようすることもある。
繁殖期は6~9月頃。食性は動物食性で、海藻(海草も)についた小型甲殻類などを食べるそうだ。
(2020年2月)
(2024年1月)
こちらは2018年6月中旬に河口付近で初採集したオスのアミメハギ採集。全長6cm。立派な成魚サイズである。採集から2年間以上、マーレ水槽で飼育を行った(写真は2018年12月下旬に撮影したもの)。思い出深い個体である
採集する
(写真:こちらは2018年6月中旬に、河口付近で初採集したアミメハギ。全長約5cm。興奮のためか奇妙な体色になっており、採集時にはアミメハギか分からなかった)
私が知る限りでは浦安で見かけることは稀で、狙って採集するのは難しい。ただレア魚であることは間違いないが、2018年の発見以来、毎年1回は採集 or 姿を見かけている(季節は初夏~秋)。
また今まで採集したアミメハギたちはどこか遠くからやってきたのか、それとも近くにアミメハギが生息している場所があるのかは不明。
海藻や水中に沈んだ障害物に身を寄せているケースが多いので、シーズン中にそのようなものを見つけたら片っ端からタモ網を入れていくしかないと思う。
飼育する①
(写真:2019年5月中旬撮影。当時のマーレ水槽。右に浮いている隔離ケースにアミメハギが入っている。今思うと水槽内の過密さと隔離水槽の狭さに閉口である…。当時は水槽や生物への知識がかなり乏しかった…。)
2018年6月中旬に採集したアミメハギの♂♀ペアをマーレ水槽で飼育していた。アミメハギの飼育はこの時が初めて。自宅に水槽もない状態だったため、何もかもが手探り状態であった。今まで飼育した生物の中で一番手間がかかったのは、この時のアミメハギかもしれない。
まず配合飼料に慣らすのに結構時間がかかった。そして体が薄っぺらく食い溜めができないため痩せやすい(痩せすぎると体力が落ちて死んでしまう)。さらに口が小さく泳ぎもそんなに速くないので、混泳魚がいるとエサを上手くとれないことが多々ある。そのため強烈な混泳魚たちがいるマーレ水槽ではかなりの長期間、隔離水槽内での飼育となった。
自宅で毎日様子を見れる環境であれば大した問題ではないかもしれないが、自宅外にあり、生エサを保存する冷凍庫もないマーレ水槽での飼育は非常に苦労した。毎日自宅から冷凍のブラインシュリンプを持って行っては、箸でつまんでアミメハギの口元まで持っていってやる日々が2か月ほど続いた。
飼育開始から9ヶ月後、採集した2匹うちの1匹(メス個体)が死んでしまったが(他の魚にエサを奪われていたようで、体力の低下に気づくのが遅れた)、もう1匹は粒タイプ配合飼料(おとひめ)もよく食べるようになり、採集から2年以上生存した。
痩せやすい魚であるのは間違いないが、振り返ってみれば週に3~4回のエサやりで調子を崩すことなく飼育できていた。また水の汚れや硝酸塩の蓄積にも強いように思う。飼育時の水温は通年22℃。
飼育する②
(写真:2020年3月下旬に河口付近で採集したアミメハギを自宅水槽で飼育して見た。全長約3cm。)
2020年3月下旬から自宅水槽1号(30cmキューブ水槽)で3cmほどのアミメハギを飼ってみた。アミメハギの飼育は今回が2回目である。
まず可愛い見た目に反して、けっこう獰猛な性格で驚いた。動物性のエサで口に入るものなら何でも食べる。生きた小魚、ゴカイ類、カニ、プランクトン、貝類の肉…。特に稚魚をじゅるじゅるとすするように食べる姿にはちょっと引いた。
またヨコエビ類への執着は凄まじく、ヨコエビを発見すると、それまで食べていたエサをほっぽり出してすごい勢いで食いつく。おそらくアミメハギが暮らす場所の海などにヨコエビ類がくっついていて、常食しているエサなのだろう。
印象としては高水温や水質の悪化にそこそこ強いようで、水温が25℃を上回ってもピンピンしている(食事量がやや低下したような気がするが)。
(追記:2020年10月)夏を乗り越え、高水温にもかなり強いことがわかった。水温が28度を越えても、調子や食事量もあまり変化がない。見た目に反してなかなかタフな魚である。現在は2020年8月に捕獲した「カワハギ」の幼魚(全長約6cm)も同じ水槽で飼育しているのだが、それと比較すると、アミメハギの新たな特徴が見えてきた。
まず泳ぐのが遅い(「カワハギ」と比べて)。そして性格はやや気が弱い~温厚。あとはエサを食べるのが下手…というか、咀嚼力と飲み込む力が弱い。同じ粒タイプの配合飼料を与えても、カワハギはバクバクと食うのに対し、アミメハギはエサを一度飲み込んで吐き出したり、かじったりしてエサ柔らかくしてから食べることが多い(これは個体差もあるかもしれないが…)。
なので動きの素早い混泳魚がいると、上手くエサにありつけない。現在「カゴカキダイ」、「カワハギ」、「マゴチ」(幼魚)という、気が強く貪食な魚たちと同居中なので、アミメハギが栄養不足にならないように、スポイトやピンセットで飲み込みやすいエサ(冷凍ブラインシュリンプやアサリのミンチなど)を与えている。
(追記:2020年10月16日)10月に入った頃から、自宅水槽1号で飼っているアミメハギの体に変化が起きた。下の写真のように、腹部がだんだんと膨らんできたのだ。産卵期とは少しズレているので、もしかして「肝パン」だろうか? 「肝パン」とは主に釣り人が使う言葉で、秋~冬にかけて栄養を肝臓に貯め、肝臓が肥大した「カワハギ」ことを「肝パン」と呼ぶことがある。
それにしてもスゴい膨らみ様だ。膨らんだ肝臓が胃や消化管を圧迫しているせいか、この状態になってから明らかにアミメハギの食欲とエサを吸い込む力が落ちた(あんなに食いしん坊だったのに)。なので今は飲み込みやすい、冷凍ブラインシュリンプを主に食べさせている。
(追記:2020年11月24日)11月中旬、一日の寒暖差が激しくなってきたある日の朝、突然アミメハギが死亡した。いや、突然ではなく「肝パン」だと思っていた腹部の膨らみは、おそらく腹水病か何かだったのだろう。自分の無知が故に対策を怠ってしまった。亡骸は海に還そうかと思ったが、ベランダのプランターに埋めた。喪失感が漂う。
アミメハギの繁殖行動
(写真:2023年1月下旬撮影。自宅水槽4号で飼育していたアミメハギのペアが、産卵・放精をしているまさにその瞬間を撮影することができた。奥側にいるのがメスで、すぐ手前側に寄り添っているのがオス。水槽の角に見える白いモヤのようなものが卵。水温は20℃ないぐらいだったかな)
2022年10月下旬に河口付近で採集したオスメスのペア(全長3~4cm)を自宅水槽4号で飼育したところ、同年12月に繁殖行動~産卵~孵化までを観察することができた。それを記録として以下にまとめてみる。
最初に異変に気が付いたのは2022年の12月中旬。水温は20℃ないぐらいだっただろうか。
「最近何か体の縁が黒っぽいなぁ…?」
オス個体の口と頭部上方にある棘、腹びれと尻びれの付け根周辺、尻びれ、尾びれが黒ずんでいるのだ。また時折、尾びれを大きく広げ、体を上方向に反らせながら小刻みに震わせるような動きをしていた。さらにメス個体を、ちょっと当たり強めに追いかけることも(あとから知ったことだが、これがオスのアミメハギの婚姻色と求愛行動らしい)。
その際はあまり深く考えず、また調べることもせず放置。そして12月下旬に衝撃の光景を目の当たりにする…!!!
時刻は午前11時頃。ふと水槽に目をやると、何だか2匹のアミメハギの距離が異様に近い。これはもしや!! と思い急いでカメラを手に構えると、そのままオスに体を押されるようにして2匹は水槽の右前カドの方へ。
そして2匹とも体を縦にしメスの腹部をオスが自身の腹びれで圧迫しながら上方向へゆっくり移動し始める。
「モリ…モリモリモリモリ」
メスの肛門から白い半透明の卵の塊が、まるでつまんだチューブからあふれ出る接着材かのように絞り出されたのだ!!
その間わずか10秒。オスもこの際に放精したのだろうがしっかりとは見えなかった。そしてすぐさまメスは保育モードに入ったようで、卵にフーフーと口で海水を吹きかけ、さらに口先でつつくようにして卵を水槽のカドに押し固めるような動作を始めた。オスもしばらくは近くでその様子を伺っていたが、翌日にはどこ吹く風な感じであった(笑)
その後メスは片時も卵の側を離れず(深夜はわからんが)、卵に近づこうとしたスジエビ類やオスを追い払う。卵をよく観察してみると、卵は透明で形はほぼ球形。大きさは0.5mmほど。卵自体が粘着性を持っているようだ。
1日ほど経った後に再び卵を観察してみると、早くも卵内には仔魚の眼と卵黄嚢?らしきものが形成されている。それからさらに半日ほど経つと卵内の仔魚に黒い色素が見られるようになった。魚類の卵の発生のアベレージ時間は知らないが、「速ぇ…」と思ってしまった。
そしてとうとう産卵から2日間ほど経過したあたりで、水槽内に孵化仔魚が泳いでいるのを発見!! 全長は1.5mmほどで眼と卵黄嚢?が黒く、それ以外の体は透明をしている。頭部と卵黄嚢?が重いのか、頭を下にして沈んでは、ピョピョピョッっと上方に向かって泳ぐ動作を繰り返していた。
う~ん生命の神秘である(意味不明)。ただ悲しいかな私には稚仔魚を育てるノウハウもなければ稚仔魚用の水槽も持っていない。非常に申し訳ないが産まれた仔魚は水槽内の生物のエサになってもらった…。
ちなみにこのペアは繁殖行動は2023年3月上旬まで見られ、その中で3回の産卵を確認できた。