カワハギ

特徴

(写真:2022年7月上旬撮影。全長約8cm。オスのカワハギ。2020年8月上旬に河口付近で採集した、全長5cmほどのカワハギの幼魚が成長したもの)

レア度:★★★★★ 脊索動物門 条鰭綱 フグ目 カワハギ科 学名:Stephanolepis cirrhifer 英名:Threadsail filefish よく見られる季節:?

最大で全長30cmほどになるが、日本では44.3cmという記録もある(これが全長なのか、そして真実なのかは調べきらなかった)。美味な魚として知名度が高く、このあたりのスーパーでもときどき並んでいるのを見かけるが、浦安で岸から生きたカワハギを見ることは非常に稀。レア度はかなり高めである。

私も8年間浦安で採集を行って、捕獲できたのは2020年8月上旬の一回のみ(2024年2月現在)。河口付近で適当にタモ網を引いていたら偶然採集できたものだ。ただ東京湾奥ではカワハギを狙った釣り船も多いので、岸からアプローチできない場所には意外といるのかもしれない。

体はひし形~横にしたクリスタル型で側偏しており、体色は肌色~薄い褐色、灰白色のものが多く、体全体に暗褐色~黒色の模様が見られる。ただ体色や模様は興奮や警戒状態によりかなり変化する。

私が確認した限りでは、落ち着いている時は肌色の地に暗褐色の模様が薄っすら見られるが、興奮すると暗褐色の模様がより明瞭かつ大きくなって体全体が茶色っぽくみえたり、体全体が赤褐色っぽくなり、その上に白いぶち模様が現れるというケースもあった(下の写真参照)。

体表は厚く硬い皮に覆われており、その表面には小さなトゲ状のウロコ多数あるため、触るとヤスリのようなザラザラした触感。ちなみにカワハギを料理する時にこの皮をベリベリと剥ぐことから「皮はぎ」の名前が付いたという説がある。

眼の斜め後ろ上方には長いトゲ状の背鰭棘があるほか、腹びれも太く短いトゲ状になっている。ちなみに「背鰭棘を折ると即死させることができる」という話が釣り業界では有名だが私はまだ試していない。

また成熟したオスは背びれの前部軟条が1本、糸状に細く伸びる(下の写真参照。未成熟な個体だと外見からオスメスを見分けるのは難しい)。

尾びれは扇形で魚体に対して大きい。背びれおよび臀びれをカーテンのようにヒラヒラと動かし、さらに胸びれを使うことで、前後左右上下自在に泳ぐことができる。またその場に静止することも可能で、この泳ぎの巧みさから、釣り界では「エサ取り名人」の異名を持つ(止まった状態でエサをかじられるとアタリが分からない)。

食性は肉食寄りの雑食性で、小型の甲殻類、ゴカイ類、貝類、クラゲ類、棘皮動物、藻類など様々なものを食べる。硬い歯を持ち、噛む力もなかなか強い。砂中に隠れているエサを捕食するために、口から砂に向かって水を勢いよく吹きかけるという行動もする。産卵期は5~8月頃。

(2020年8月)

(2024年2月)

上の写真と同じ個体を別アングルから撮影。尾びれは広げた状態だと扇形で、その後縁は黄色く縁どられている

2023年6月中旬、マーレ水槽で飼育していた個体を一回り大きな市役所水槽へ引っ越しさせた。この時の全長約10cm。引っ越しによる興奮・警戒のためか、体が濃い赤褐色になり、さらに白いぶち模様が胸びれのあたりに現れている。またカワハギのオスの特徴である背びれ前部の軟条が1本長く伸びている

眼の斜め後ろ上方には長いトゲ状の背鰭棘がある。「背鰭棘を折ると即死させることができる」という話が釣り業界では有名だが私はまだ試していない。硬い歯を持ち、噛む力もなかなか強い。砂中に隠れているエサを捕食するために、口から砂に向かって水を勢いよく吹きかけるという行動もする

尾びれは扇形で魚体に対して大きい。背びれおよび臀びれをカーテンのようにヒラヒラと動かし、さらに胸びれを使うことで、前後左右上下自在に泳ぐことができる。またその場に静止することも可能で、この泳ぎの巧みさから、釣り界では「エサ取り名人」の異名を持つ(止まった状態でエサをかじられるとアタリが分からない)。
こちらは上の写真の個体の採集当時の様子。全長約5cm。2020年8月上旬に河口付近で採集
同個体。よく見ると背鰭棘の前縁がギザギザになっている

採集する

(写真:2020年8月上旬、河口付近で採集。全長約5cm。採集したばかりのカワハギのペア。興奮のためか、暗褐色の模様がより明瞭かつ大きくなって体全体が茶色っぽく見える)

私の知る限りでは、浦安の陸から人が近づける場所では滅多に見ない。今回も本当にたまたま採集できただけだ。釣りで釣っている人もいるのかもしれないが、そういう話もほとんど聞かない。ただ小型のカワハギなら地方の漁港などでは比較的よく見かけ、特段珍しいというわけではない。

なので浦安でカワハギを採集したいなら、カワハギが産卵期に入り浅場に移動する5~8月頃に頻繁に海に通って探すしかない。障害物や海藻などに寄り添い隠れる習性があるので、そういう場所を見つけたらしらみつぶしにタモ網で掬っていこう。

あとこれは全くの想像だが、高洲や日の出の海岸で、カワハギ用の針を使って根気よく投げ釣りをしてればいつか釣れるかもしれない…(海底は砂泥なので、沖に岩などの障害物があればその側にいる可能性があるかも)。

 

余談だが、「カワハギ釣り」というのは釣り業界内でも人気の高い釣りで、専用竿や専用の仕掛けも豊富にラインナップされている(岸からでも釣れるが数。大型が狙える船釣りが主流か)。

カワハギは好奇心が強くキラキラ光を反射するものやカラフルなものに興味を持つとされていて、専用の仕掛けには光を反射するシートやビーズがたくさん取り付けられている。この仕掛けを自作するマニアも多い。ちなみにエサは「アサリ」のむき身が主流。

こちらは同時に採集したメスと思われる個体(もう片方がオスだったので)。全長約4cm

飼育する①

(写真:上の写真と同じオス個体。少し落ち着いたのか、体色が薄い褐色になりまた暗褐色の模様が薄くなった)

まだ2週間ほどしか飼っていないが、その中で発見したことを記録しておく(2020年8月8日)。

まず飼育環境だが、水槽は30cmキューブ、水温25℃前後、比重1.023、硝酸塩高めの自宅水槽1号でも、今のところ調子を崩すことなく飼育できている(ある論文でカワハギの成長における最適水温は20~25℃という記述を見たことがある)。

ただ水槽に入れてしばらくすると、尾ぐされ病のように、背びれと臀びれの縁が白くボロボロになってしまったので、水換えをしたところ回復した。水質の悪化にはあまり強くないのかもしれない。

個体差もあると思うが、全長5cmほどの小型個体の餌付きは非常に良く、水槽に入れた翌日には生アサリのミンチを、3日目にはクリルを食べ、5日目には粒タイプの配合飼料(おとひめ EP2)を口に入れたり吐き出したりするようなった。現在はその粒タイプの配合飼料をモグモグと食べている

これも個体差があると思うのだが、基本的には気が強く、大きなカワハギが小さなカワハギを追い掛け回したり、カワハギが小さなエビやカニをつつくといった行動をよくする。

なので狭く隠れ家の少ない水槽にカワハギを複数匹入れるのは良くないのかもしれない。事実、私が採集した2匹のカワハギのうち小さい方(メス個体)は、大きい方のカワハギ(オス個体)に追い掛け回され、その後隔離したがストレス等で拒食になり衰弱死してしまった(本当に申し訳ない…)。

また硬いニッパーのような歯を持った魚なので、混泳させる魚によってはひれをかじられるといったトラブルが発生するかもしれない。

飼育する②

(写真:2022年7月上旬、マーレ水槽にて撮影。全長約8cm。上の写真の個体が成長したもの。この個体は何だかんだで3年以上飼育した)

時が経つのは早いものである。

前述のカワハギの飼育を開始してから3年と半年が経過した。やっぱりというか、案の定、あのカワハギ君は暴れん坊将軍、ジャイアン化してしまったため、現在(2024年2月)は「浦安市郷土博物館」の大水槽で暮らしている。大型の「クロダイ」「ボラ」「マアナゴ」などがひしめくあの水槽では、さすがのカワハギ君も大人しくしているようだ。

 

さて、今までの飼育の記憶をたどって書いてみよう(ちゃんと記録を取っていない)。

2020年中だっただろうか? 自宅水槽1号では飼い切れなくなったので、マーレ水槽に引っ越しさせることにした。環境は90cmオーバーフロー、水温通年22℃、比重1.023、硝酸塩超多め。プロテインスキマー、オゾンあり。エサはずっとおとひめ(EP2)で大丈夫だった。

マーレ水槽に入れるにあたり正直カワハギ君の心配は全くしていなかった。だってめちゃくちゃ気が強くて、貪欲で、タフなのは分かっていたから。それより他の混泳生物たちの方が心配であった。しかし、カワハギは浦安では貴重な「中層を泳ぎ水槽映えするタフな魚」であったため、飼育展示に踏み切ることにした。

マーレ水槽に入れた当初は先入居者の「カゴカキダイ」とよく喧嘩をしていたが、ある時から和解…とまではいかないがライバル?のような感じで喧嘩はしなくなり、その後は共に水槽を盛り立ててくれた。両者とも同じようなサイズで、同じように中層を泳ぐ者同士だったので、何か通じるものがあったのかもしれない。

その他に「ナベカ」「イダテンギンポ」「マゴチ」「メバルの一種」「アゴハゼ」などがいたが、特に問題らしい問題は起きずに長いこと上手くやっていたように思う。ただカワハギ君より後に入ってきた生物に対しては容赦なかったような…。

カワハギは尖った口と強靭な歯を持つので攻撃力が地味に高い。また頭が良い…というか狡猾かつ執拗な感じがある(個体差、環境差あると思います)。そのためターゲットにした生物は再起不能にまでボロボロにされることも多々。そういえば「シロボヤ」やフジツボ類、イガイ類なんかも齧ってたな。

あと口が尖っているお陰でエサを食べるのが上手い。それでいて貪欲で食べる量も多い(残餌を食ってくれるという点ではありがたい)。結果、早くデカくなる。三番瀬水槽では「体の大きさ=強さ & 権力」なので、カワハギ君がマーレ水槽生態系の頂点に君臨するのにそう時間はかからなかった。

ただ幸い、「カゴカキダイ」という同じく口の尖った気の強いライバルがいたため、カワハギ君の一人天下とはならず、良い感じににぎやかな水槽が長期間続いた。

 

しかしそれもある日突然終わりを迎える。

2022年内のことだったか…。「カゴカキダイ」が何の前触れもなく死んでしまったのである。とにかく派手な見た目な魚だったので、一気に水槽が寂しくなってしまった。それに残されたカワハギ君は元々ちょっと人間見知りなとこがあり、人が近づくと物陰に隠れる癖があった。

水槽を訪れる人からも「寂しくなっちゃったね~」「魚いなーい」という声チラホラ(隠れてるだけで結構な数入ってるんだよぉ~探せ~)。増やそうにもジャイアンカワハギ君がいると、他の生物を入れることがほぼできないのだ。

「潮時か…」

マーレ水槽から出し、さらに大きな市役所水槽(120cm水槽)へ引っ越しさせることを決心した。2023年内のことだった。

 

市役所水槽でも似たような感じだったので詳細は省くが、自分より大きな「コショウダイ」「メバルの一種」「イシガレイ」にも臆せず、むしろ逆に攻撃してダメージを与えていたため、割と早めに「これはダメだ」と「浦安市郷土博物館」に引き取ってもらうこととなった(泣笑)

 

色々なこと体験、学ばせてもらった魚で印象深い1匹だったな。また小さな個体が手に入ったら飼ってみたいと思う。

食べる

(写真:学生時代に海に潜って銛で突いたカワハギ(写真奥。既に皮がむかれている)。他の魚は「マハタ」と「クロメバル」だったかな?)

ハッキリ言って滅茶苦茶美味い。みんな一生懸命釣るわけだ。1年中美味い魚だが、旬は夏季らしい。肝が大きくなるのは秋~冬で、こちらを旬と考える人もいる。

どんな料理にしても美味いらしいが、一番のオススメは刺身(というか私は他の料理をあまり知らない)。美しい白身で、しっかりとした歯ごたえに強い甘みと旨みがある。ポン酢に薬味を添えて食べても美味しい。もちろん肝醤油も外せない。

何故だか分からないが、カワハギは活け造りのような超新鮮な刺身でも味がちゃんとある。というのも、死んですぐの白身魚は旨み成分が十分生成されていないため味が薄く、あまり美味しくないものも多いのだ。

過去、地方で暮らしていた時には月に1回ぐらい行きつけの居酒屋で、生簀に入っているカワハギを刺身にしてもらっていた。あんな美味いカワハギはもう何年も食べてない…(贅沢していたなぁ)。

 

余談だが、私は学生時代から海に潜って銛で魚を突くのが趣味で、カワハギもよく突いて食べていた。その当時のカワハギの通称が「的(まと)」。つまり、カワハギは動きが遅く、さらに魚体が平たいので狙い易く、銛で突くのが簡単という意味だ。何とも失礼な呼び名である(ただ本気を出して逃げるカワハギはけっこう速い)。

簡単にたくさん獲れるので、常に金欠の学生にとっては良い食材であった。皮をはいで内蔵を取り除き(もちろん肝は別に取っておく)、丸ごとそのまま野菜などと一緒に鍋にブチ込む。カワハギ鍋の完成だ。当時は意識していなかったが、振り返れば贅沢なものを食べていたと思う。