キンセンガニ

特徴

(写真:2022年9月中旬、三番瀬で採集。甲羅の幅約1.5cm。これはまだ子供サイズだが、独特な見た目をしたカニで、浦安での発見は稀。ハサミ脚を除く、4対の脚すべてが、ヒレのような遊泳脚になっている。でも泳ぎはあまり達者ではない…と思う。目盛りは1cm)

レア度:★★★★★ 節足動物門 軟甲綱 十脚目 Matutitae 学名:Matuta victor 英名:? よく見られる季節:?

(同定にちょっと自信がありません。他の資料も参照してください)

2022年9月中旬に三番瀬浦安側の南東で採集。この日は一般の方向けに干潟観察会を行ったのだが、その参加者の誰かが採集してくれた(グッジョブ!!)。実は浦安でキンセンガニを見るのはこの時が初めて。

三番瀬浦安側は南東(東京湾方面)に行けば行くほど、底質が砂泥から単純な砂(のみ)になり、砂浜に生息するような生物が増えてくる印象がある。その場所で観察会の参加者たちは、タモ網で波打ち際の海底を引きずっていたので、その際に砂ごと捕獲されたのではないかと推測している。

この日採集されたキンセンガニはまだ甲羅の幅が1.5cmのほどの子供サイズで、成長すると甲羅の幅が4cm程度になる。甲羅はほぼ円形で丸っこく、甲羅の左右にトゲ状の出っ張り(歯)が1つずつある。

またハサミ脚を除く、4対の脚の先端がワタリガニのようなヒレ状になっており、これらを使って泳ぐ?ように移動する(バタバタと脚を動かして、上下左右にすばしっこく動く。ガザミ類のようにスイスイ泳ぐ感じではない)。また普段は砂に全身潜っていることが多いようだ。

以下に、『日本大百科全書』の『キンセンガニ』の解説を引用させていただく。

『節足動物門 甲殻綱 十脚(じっきゃく)目 カラッパ科に属するカニ。甲の輪郭が丸く甲面が平らで、硬貨を思わせるのが和名の由来である。東京湾以南の西太平洋、インド洋に広く分布し、砂浜の潮間帯、とくに河口付近に多い。

甲幅4センチメートルほどになり、甲はほぼ円形で、三角形にとがった歯が左右に一つずつある。はさみ脚(あし)は左右同大、それに続く4対の歩脚は、いずれも前節と指節がワタリガニ類のように板状になっている。これらを巧みに使って、歩くとも泳ぐともつかない方法で移動し、砂に潜る。

甲面にはアズキ色の小点が多数あり、後半部では連なって網目状を呈するが、砂地では迷彩色となっている。甲面全面が濃紫赤色の網目で覆われているアミメキンセンガニM. planipesは、水深数メートルの砂地の海底にすんでおり、やはりインド洋まで広く分布している。

琉球(りゅうきゅう)諸島には、甲面の斑点(はんてん)が小さくて少ないコモンガニM. banksiiが多い。[武田正倫]』

(2023年1月)

甲羅はほぼ円形で丸っこく、甲羅の左右に大きなトゲ状の出っ張り(歯)が1つずつある
はさみ脚(あし)は左右同大、それに続く4対の歩脚は、いずれも前節と指節がワタリガニ類のように板状になっている
これらを使って泳ぐ?ように移動する(バタバタと脚を動かして、上下左右にすばしっこく動く)。目盛りは1cm

正面から撮影。なかなか男前なカニだなと思う。トラを思わせるような顔だ

オスのキンセンガニの腹側
オスのキンセンガニの腹側。ちょっと脚を広げさせてもらった
ハサミは左右同じ大きさで、表面にはいぼ状の突起が見られる
ハサミを拡大。ちょっとカッコいい形状だと思うのは私だけだろうか?

採集する

(写真:自宅水槽にて。エサを水槽に入れるとその匂いを嗅いでか、砂から勢いよく現れ、しばらく激しく泳いだ後、写真のように直立不動となる(笑))

浦安では1回しか見つけたことがないので、レア度は高いと思われる。私が採集したワケではないので何とも言えないが、底質が細かい砂(一般的にイメージする砂浜のような)の場所で、タモ網やスコップで砂ごとすくいとる感じでやれば採れるのではないだろうか。

普段は砂に潜っていることに加え、動きもなかなか早く、また砂に再び潜るのが非常に速いことを考えると、目視で発見して捕獲するのは難しいかもしれない。

そういえば昔、九十九里浜あたりで、専用のカニ網を使った「ヒラツメガニ」(通称「Hガニ」)採りをやっていたのだが、その際に「ヒラツメガニ」に混じってキンセンガニがポツポツ採れたことがあったのを、このページを書きながら思い出した。

飼育する

(写真:砂に潜るキンセンガニ。普段は全身が見えなくなるぐらいまで砂に潜っていることがほとんど)

私にしては珍しく、「飼ってみたい!!」と思ったので、自宅水槽5号で飼うことに。

水温は~28℃ぐらいまでは問題ない。低水温についてはどのくらい耐えられるのかわからない。水槽にはキンセンガニの体が完全に隠れられる深さの砂を敷いてやった方が良いと思う(普段はほとんど砂に潜っているので)。

エサは動物質のものなら何でも良さそう。ゴカイ類、クリル(乾燥エビ)、貝類の身を食べるのは確認できた。ただエサを捕るのが上手くない…というか狭い水槽の中ではエサの匂いが充満してしまって、エサの位置を補足できない感じ。なので、ピンセットでキンセンガニの鼻先までエサを持って行ってやると、ガバッとエサに食らいつく。

キンセンガニの大きさにもよるだろうが、混泳には少し注意が必要。キンセンガニより大きく、性格が強めの生物がいると、キンセンガニが攻撃を受ける可能性がある。私の感想になるが小型のキンセンガニはちょっと弱気な印象。

また先に書いたようにエサを捕るのが上手くないので、すばしっこい混泳生物がいると、エサがキンセンガニに行き渡らない可能性がある。

以上の理由から、水槽に魚類は入れず、混泳生物は「マメコブシガニ」とスジエビ類、「ユビナガホンヤドカリ」、そして巻貝の「アラムシロ」とウミニナ類という攻撃力低めのメンツにして順調に飼育できていたのだが、ある日事件が起こってしまった。

それは脱皮である。私の飼育中にキンセンガニは2回脱皮をしたのだが、2回目の脱皮で事件が起きた。

自宅に帰って水槽を見ると、水槽の中にキンセンガニの形をしたものが2つあった。片方は損傷が激しく食われたような跡があり、もう片方はいつものキンセンガニの姿をしていた。「あぁ脱皮をして、脱皮殻が食われたんだな」と思ったのだが、どうも様子がおかしい。

キレイなキンセンガニの姿をした方が微動だにしない…まさか!! よく確認すると、損傷の激しい方が本体で、キレイな方が脱皮殻だったのだ。

私は釣りや銛突きをして自分で魚を殺して食べるし、「自宅外にある水槽の管理」ということをやっていると、残念ながら飼育生物の死にもよく立ち会う。なので非情なようだが、私は海洋生物に対してあまり感情移入をしない。しかしこのキンセンガニの死には狼狽しうなだれた。それほど可愛かったのだ…。

脱皮が上手くいかず死んだのか、脱皮直後に他生物に襲われたのか今は知る由もないが、次回もし飼育することがあれば、単独飼育かそれに近いかたちをとるだろう(スジエビ類が良くなかったかも)。

その後、脱皮殻は大事に標本として保管することとした。

クリル(乾燥エビ)を食べるキンセンガニ。ピンセットで鼻先までもって行ってやらないと食べてくれなかった
「シマメノウフネガイ」の肉を貪るキンセンガニ。手前の「マメコブシガニ」と奪いあっている。やはり生エサは食いが良い