イボニシ
特徴
(写真:2023年9月上旬、三番瀬で採集。貝殻の長さ約2.5cm。生きた状態で撮影。浦安の沿岸で最もよく見られる巻貝の1つ。名前の通り貝殻表面にイボ(結節)が多数見られる。目盛りは1cm)
レア度:★☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 軟体動物門 腹足綱 新腹足目 アッキガイ科 学名:Thais clavigera 英名:? よく見られる季節:初夏~夏(一年中見られるが冬季は少ない)
最大で貝殻の長さが5cmほどになるらしいが、今のところ(2023年)浦安ではそんなに大きなイボニシには出会っていない。よく見るのは殻高が1.5~3cmぐらいのものだ。イボニシは日本全国(北海道南部~九州)だけでなく、朝鮮半島、中国沿岸からマレー半島まで広く分布する。
分布が広大であるが故、昔からイボニシの貝殻の形態やその生態には、地域によって違いがあるという報告が多数ある。しかし現在でもそれについての研究はそれほど進んでいないようだ。これから書く内容は「浦安で見られるイボニシの場合」ということを念頭に置いて読み進めていただきたい。
おそらく浦安で最もよく見られる巻貝であり、海沿い、三番瀬のみならず、河口や河川内など塩っ気がある場所に行けばば必ず出会える!!と言えるほどどこにでもいる。特に暖かい時期~夏にかけては河口の垂直護岸やテトラポッドにおびただしい数のイボニシが付着している。また「マガキ」がいるような場所にも多い。
貝殻は紡錘形で灰白色~淡褐色でイボ(結節)を中心に黒い縦ジマのような模様が入るが、浦安で見られるイボニシは貝殻表面が藻類などによって汚れている場合がほとんどで、そのため野外では貝殻全体が黒灰色や黒に若干緑が混じったような色に見えることが多い。ちなみに水から出て貝殻表面が乾燥した個体は白っぽく見える。
「イボニシ」の名前の通り、貝殻表面には背の低いイボ(結節)が多数見られるが、これは個体や地域によってはイボがほとんど目立たなかったり、逆にイボが目立つ個体もいるそうだ。また貝殻は非常に硬く、大人が踏みつぶしても割れない。
殻口は少し細長な卵型で、殻口の下には水管溝(すいかんこう)と呼ばれる水管が通るための溝が顕著に見られる。蓋は角が丸い横長の歪な台形で、色は薄い半透明の褐色で真ん中に太い暗褐色のシマがある。
貝殻の内側は白色~灰白色をしているが、内唇周辺が淡い橙色に染まっている個体もときどき見かける(「レイシガイ」と紛らわしい!)。また外唇部分は黒色であることが多い。
体(足)は肌色の地に灰色~黒色のまだら模様が入っている。体(足)の腹面は肌色一色。
イボニシは「レイシガイ」という貝と見た目が非常によく似ているが、私個人の見分け方としては、①「レイシガイ」の方が大型になる、②「レイシガイ」貝殻の内側(特に内唇、外唇部分)が橙色に染まり外唇部分は黒くならない、③「レイシガイ」の貝殻はカスカスボロボロだがイボニシはそうではない(これは茹でるとより顕著になる)、④卵嚢の発生が進むと「レイシガイ」の卵嚢は灰黒色っぽくなる(イボニシの卵嚢は薄い黄色→鮮やかな紫色→?)。あくまで専門家でない私個人の経験と、浦安での場合ということで悪しからず(他の資料も見てね)。
イボニシは他の貝を襲って食べる肉食性の巻貝で、穿孔腺(せんこうせん)という酸を分泌する器官を持ち、「マガキ」やフジツボ類などの貝殻に、穿孔腺からの酸と歯舌(しぜつ)の運動で穴を開け、その肉を食べる。
またイボニシは相手の貝殻の合わせ目に微細な刻み目を入れ、そこから毒を注入して抵抗力を奪い、貝殻をこじ開けて中の肉を食らうという方法もとそうだ。
獲物は主として岩に固着する貝類(特にカキ類やカサガイ類など)やフジツボ類を好む。このため同様の生態を持つ「アカニシ」や「レイシガイ」などとともにカキ養殖にとって被害を与えることもある。
繁殖期は初夏~夏で、交尾によって受精する。垂直護岸などに数百から数千個体が群がり、1本が2cmほどの薄い黄色をした細長い卵嚢(らんのう)を大量にぎっちり密集して産み付ける。卵嚢の発生が進むと卵嚢が紫色に変化していく。その様はまるで花畑のようだ(下の写真参照)。
(2023年8月)
実はキレイ!?なイボニシの貝殻
(写真:採集したイボニシの貝殻表面の汚れを落として乾燥させた後、ポリメイトでコーティングした姿。「これイボニシですよ!」と言っても信じてもらえなさそうである。目盛りは1cm)
イボニシというと浦安では「黒っぽくて地味で、何だかたくさんいて、食べられない?貝」というイメージを持つ人が多いかもしれない。かつての自分もそうであった。
しかし2022年に行った「浦安に現在生息する貝の貝殻標本作り」でそのイメージは一変した。
貝殻が予想以上に美しかったのである!!
写真を見てもらうのが手っ取り早いが、実はあの黒く薄汚れた(失礼)な貝殻は真の姿ではなかったのだ。
標本を作製するにあたり、まず貝が生きた状態で水に晒しながら、歯ブラシや真鍮ブラシを使って貝殻表面の汚れを丹念に落とす。そして茹でて中身を取り出し、必要に応じて、さらに磨きをかけて、最後にカー用品のポリメイトでコーティングを行う。
するとどうでしょう!! あの黒く薄汚れた(失礼)イボニシの貝殻が、ベージュ地に暗褐色~褐色のシマ模様の入った、美しく可愛らしい姿に!!(コンビニにこういうチョコパンよく売ってるよね)。しかも個体によって色や模様に違いがありそうだ。
だが何個も標本を制作していくうちに、この姿になれるイボニシとそうでないイボニシがいることも分かってきた。ポイントは、①汚れのなるべく少ないイボニシを選ぶ、②茹でる前に汚れを落としきる(藻類が貝殻内部にまで浸透?している個体はキビシイ)、③コーティング剤は「これ以上染み込まないよ!!」というまで何回も吹きかける、だ。
材料は無限にある(採り過ぎはダメよ~)。気になった人は試してみて欲しい。
こちらは波当たりの強い海岸で採集したイボニシの貝殻。波により貝殻表面が削られたためか、上の写真とはまた違った色や模様が現れている。表面を削れば、また違った色彩を楽しめる貝なのかもしれない。目盛りは1cm
採集する
(写真:2022年5月下旬撮影。河口付近の垂直護岸に密集して張り付くイボニシたち。取り放題である。野外ではこのように黒っぽい姿をしていることが多い(浦安の場合))
浦安の海沿いには膨大な数がいるので、採集は非常に簡単。見つけて拾うだけ。
三番瀬の護岸・岩の上、海沿いのテトラポッド、河口・河川内の垂直護岸etc…でちょっと目に付く大きさ2cmほどの巻貝を見つけたら、大概の場合はイボニシだ。特に河口付近の「マガキ」が生息しているような場所には、おびただしい数のイボニシが生息している。
また初夏には、繁殖活動のためか、ちょっと引くぐらいの数のイボニシが垂直護岸に張り付いているのをしばしば見かける。そんな時タモ網を使って、垂直護岸をこすり上げるようにすると、大量に効率良く採れる(まぁたくさん採ってもしょうがないのだが…)。
飼育する
(写真:水槽内にいた「ムラサキイガイ」に襲い掛かる?イボニシ。結局この後「ムラサキイガイ」は食べずに去っていった)
飼育と言っていいかわからないが、拾ってきたカキ殻にくっついていたものをそのまま水槽に入れたり、「マダコ」のエサ用として大量に飼っていたことがある。
非常にタフな生物で、水槽に入れておけば特別な世話やエサやりをしなくても、数ヶ月平気で生きている(おそらくもっと長く飼えると思う)。飼育環境も、ものすごく暑い & 寒いとか、淡水にぶち込むとか極端なことをしなければ大丈夫だろう。
混泳生物の攻撃にも強い(ただ「カワハギ」や「カゴカキダイ」、「クロダイ」などの口が細長く硬い魚にはやられてしまうことも)。
ただイボニシは他の貝を襲って食べる習性があるので、他の貝類と一緒に飼うと、あっという間にイボニシに食べられていなくなってしまうので注意が必要。
食べる
(写真:2022年8月上旬に大振りのイボニシが採れたので、茹でて食べてみることに(身だけね)。目盛りは5mm)
採集が簡単なので、地方では茹でたり煮たりして昔から食べられてきたそうだ。内蔵に独特の苦味があるらしく、大人の味だとか。
私も興味があり食べてみようと思ったのだが、たまたま海で会った古くから浦安で暮らしている人に「あぁ、あれお腹壊すヤツだよね」と言われたので、食べることは断念した(貝はあたると怖いので…)。
そういえばイボニシを「マダコ」のエサとして与えたことがあったが、明らかに他のエサより食いが悪く、最終的には食べなくなってしまったなぁ。
(追記:2022年8月5日)浦安市内河川中流域で、大振りのイボニシが採れたので、水で10分ほど茹でて食べてみた。採集場所の水質や暑い季節という懸念もあったので、内臓は食べずに身の部分だけを食べてみることに。
「ん…フツーにイケるやん」。身は「サザエ」のような味と食感だが、「サザエ」ほどの味の濃さや磯っぽさは無い。旨味や味は薄い。淡泊で特徴のない味だ。たぶん塩茹でとかにした方が美味しいと思う。やはりイボニシの本領は内臓か…(食べないけど)。