トサカギンポ

特徴

(写真:2022年7月中旬、河口付近で採集(採集したのは私ではない)。全長約7cm。トサカがよく発達したナイスな個体だ。やはりこの色彩は良く目立つ。個人的には夏の魚というイメージ。目盛りは5mm)

レア度:★★★★★★★★☆☆ 脊索動物門 条鰭綱 スズキ目 イソギンポ科 学名:Omobranchus fasciolatoceps​ 英名:Tophat blenny よく見られる季節:6~9月?

全長9cmほどまで成長する。頭の大きな出っ張り(皮弁)が鳥のトサカ(鶏冠)のように見えることから、「トサカギンポ」の名前がついたという説がある。このトサカに加えて、頭部周辺が黒と黄色のストライプ模様になっており、水中でもよく目立つ魚だ。また体にはウロコがなくヌルヌルとしている。

浦安では海に面した場所より河川の中~下流域などでよく見かける(そこはほぼ海水)。垂直護岸にカキの貝殻がびっしり付いた場所(通称「カキ殻マンション」)に好んで生息しており、そのような場所を注意深く観察していると、ヒョロロロ~と岸壁際を泳ぐ本種を見つけることができる。そのため垂直護岸に付いたカキのかたまりを取るとその中から見つかることも多い。

食性は肉食性で、小型の甲殻類や小動物を食べるそうだ。口が小さい魚なのでエサも小さいと思う。ちなみに上下のアゴに鋭いキバが2本ずつあり、噛まれると地味に痛い。

産卵期は初夏~夏頃で、カキの死殻の中などに卵を産み付け、オスが卵を保護する。

 

個人的にトサカギンポは「イダテンギンポ」と並ぶ浦安最強タフ魚だと思っている。というのもある年の夏、河川の中流域まで真っ赤になるほどの大規模な赤潮が発生した。護岸上には逃げ場を失い打ち上げられた「マハゼ」「マゴチ」の死体がゴロゴロ。もちろんその中にトサカギンポもいた。

護岸上は完全に干上がり、魚の表面は乾燥していて誰が見ても死体だろうという風だったので、せめて海に返してやろうと手に取ると、トサカギンポの魚体がかすかに動いた。もしや!!と思い、バケツに汲んだ海水の中に入れてやると、乾燥わかめよろしく復活し元気に泳ぎ始めた。

周囲にはそのようなトサカギンポがたくさんおり、飼育用に10匹ほど確保した後、護岸上の魚たちを片っ端から水に戻した。あのトサカギンポたちは、また潮が満ちるまであのまま耐えるつもりだったのか。もしかしたら「イダテンギンポ」やトサカギンポは緊急事態のときに生存するための特殊な機能を持っていたりするのかもしれない(クマムシみたいな)。

(2020年1月)

(2024年4月)

上の写真の個体の頭部を拡大。よく発達した立派な鶏冠だ。この鶏冠は小~中型個体だと三角形っぽい形をしているが、このように十分成長したものだと写真のような形になることが多い。目盛りは5mm
同個体の体の前半部を拡大。トサカギンポは頭部に3本、体側に10~12本の暗色横帯があるとのこと。しかしつい黄色い細い横ジマ模様を数えてしまう。口が半笑いになっているように見えるのは私だけ? 目盛りは5mm
同個体の体の後半部を拡大。体表にウロコはなくヌルヌルっとした手触り。頭部より後ろの体色はくすんだ小豆色といった感じ。目盛りは5mm

同個体を腹面から撮影。胸びれ、腹びれはともに薄い黄色をしている。腹びれは、ひれというより皮弁のような感じで、これで体を支えるような動作をよくする。目盛りは5mm

同個体の胸びれを拡大。目盛りは1cm
同個体の背びれにピントを合わせてみた。背びれの前半には褐色の丸い斑が見られる。目盛りは5mm
こちらは上の写真の個体と同時に採集されたメスのトサカギンポ。全長約4.5cm。抱卵しているのだろう、腹が膨れ肛門が赤くなっている。これくらいのサイズのトサカギンポのトサカは三角形をしており、体色も鮮やかな黄色であることが多いきがする。目盛りは5mm
同メス個体の頭部周辺を拡大。目盛りは5mm
同メス個体。トサカギンポのオスメスって抱卵(内臓)以外にどうやって見分けるのだろうか? 目盛りは5mm

採集する

(写真:これが所謂「カキ殻マンション」。河口や河川内の垂直護岸にびっしりと「マガキ」が付着し、カキの凹凸やカキとカキのすき間、カキの死殻の中、カキ殻の表面が他種多様な生物の隠れ家となっている)

カキの貝殻が密集して付着している場所(カキ殻マンション)に多い。季節は初夏~夏にかけてが多いだろうか。そのような時期にカキ殻マンションを観察していると、カキ殻の隙間からヒョロロロ~と現れてはまた隙間へ隠れるトサカギンポを見ることができる

ただ危険を察知するとすぐカキ殻の中へ隠れてしまうので、タモ網で捕まえるのはなかなか難しい。カキ殻マンションから離れて、水中を泳いでいる時を狙って採集する必要がある。幸い警戒心はあまり高くないようなので、一度逃げられてもチャンスはまたある。エサでおびき寄せてカキ殻マンションか離れたタイミングを狙うと良いかもしれない。

おそらく一番効率が良いのは、垂直護岸に付いたカキを片っ端からかき落として、その中から探すことかも。でもこれはちょっとやりすぎだと思うのであまりオススメはしない。

あとはタナゴ針など極小の釣り針を使った釣りでも採集できそうな気がする(これは何度も試したが、トサカギンポの口が小さすぎるためかなかなか針掛かりせず難しい)。あとはペットボトルトラップ(びんどう)も有効だと思う。

こちらは2019年7月上旬に河川中流域で採集したトサカギンポたち。全長約5~6cm。これらは大規模な赤潮により護岸上に打ち上げられ、干からびていたのを拾い集めたものだ
2018年6月下旬に撮影。2017年7月上旬に採集した個体が成長したもの。全長約8cm。頭のトサカは山のような形に発達し、体も厚みが増した
同個体を拡大。水槽で飼育しているとシマ模様や体の色が薄くなってくること多いんだよなぁ。水槽の底砂が白くてライトが明るいからだろうか?
こちらは2019年7月上旬に三番瀬の岸近くに水中カメラとエサを設置したところ、どこからともなくトサカギンポがヒョロヒョロ~と泳いできた。周囲には隠れ家となるような構造物はなかったのだが…。意外と長距離を移動する魚なのかもしれない

飼育する

先に書いた通り、最強にタフで配合飼料にもすぐ慣れるので飼育は簡単だと思う。かなり簡易なろ過システムでもエサのやりすぎと水換えに注意すれば十分飼えると思う。カキの貝殻や石に開いた穴などに隠れるのが好きなので準備してあげよう。口が小さい魚なので初めはフレークタイプなどのエサを与えるのがおススメ。

ただ「ナベカ」ほどではないが縄張り意識が強く、トサカギンポ同士でケンカしたり他の魚を追い払ったりするので、狭い場所にたくさん飼うのはオススメしない。

市役所水槽では2017年から2年ほど飼っていたが、2019年に「マダコ」の脱走事件が起こりその「マダコ」全滅させられてしまった…(すまん)。

 

(追記:2024年7月23日)2024年7月中旬に採集した全長約7cmの個体と、4.5cmのメス個体を自宅水槽5号(30cm虫かご水槽)で飼育中。長い間「また捕まえて飼育展示しよう!​!」と思っていたのだが、随分時間が経ってしまった。

水温は28℃で全く心配なし(低水温はどこまでいけるのか)。やはりカキ殻に隠れるのが大好き?なので、水槽にはそのような隠れ家を入れてあげよう。エサは初めの数日だけ冷凍ブラインシュリンプを与えたが、それからはフレーク(ネオプロス)オンリーで大丈夫だった。

食欲旺盛で人に慣れるのも早く、エサの入った瓶を見せるとヒョロロロ~と立ち泳ぎをしてエサをねだって来る。いつも何か言いたげなトサカギンポの表情を見ると、「こいつはやっぱり鑑賞向き、ペット向きな魚だなぁ」としみじみ思う。

ちなみにメス個体の方は採集時に抱卵していたのだが、いつのまにやらお腹がスリムに。こりゃ産んだか?とおもって水槽中を探したが卵らしいものは発見できなかった。

2024年7月下旬撮影。自宅水槽5号にて。最初に紹介した2個体(小さい方は抱卵したメス)

初めは私を怖がってカキ殻の下に隠れていたが、環境に慣れると隠れ家から出てくることが増えた

こちらは別個体。このように石に開いた穴なども住処にする