ヒメケハダヒザラガイ

特徴

(写真:2020年3月中旬、河口付近で撮影。体長約3cm。岩のくぼみにしっかりとはまっている)

レア度:★★★☆☆ 軟体動物門 多板綱 Chitonida目 Acanthochitonidae科 学名:Acanthochitona achates 英名:? よく見られる季節:?

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最大で4cmほどになるらしい。浦安では海沿いの岩にくっついていたり、テトラポッドの表面にくっついてているのをポツポツと見かける。

昼より夜のほうが人の目に付く場所に出ていることが多いので、おそらく夜行性だと思う。動かない生物のように見えるが、じっと観察しているとすご~く遅いスピードで移動しているのがわかる。

体は細長の小判のような形で、体の真ん中に表面が滑らかな8枚の小さな殻板が並ぶ。よく似た「ケハダヒザラガイ」と比べると体は細長く、そのため殻板が大きく見える(というか、体外に見えている殻板自体も「ケハダヒザラガイ」より大きいと思うが)。

また「ケハダヒザラガイ」同様、殻を囲むようにして9対のトゲの束が生えており、これは「ケハダヒザラガイ」と比べるとあまり目立たない。ただ、これらの特徴や体色は地域差、個体差があると思われるので同定には注意したい。

ヒザラガイは貝の一種だが、その中でも「多板綱」という、背中に殻板(かくばん)と呼ばれる殻を持ったグループの生物で、現在世界で800種以上、日本では100種以上が確認されている。また名前の由来だが、岩からはがすと体を丸める様子が、曲げた膝のように見えることから「膝皿」の名が付けられたそうだ。

(2023年8月)

こちらは2022年8月上旬に浦安日の出のテトラポッド帯で採集した個体。体長3.5cm。目盛りは5mm
体の前半部を拡大
体の後半部を拡大。目盛りは1cm
横から撮影。金~オレンジ色をした毛の束が見える

こちらは2020年2月上旬に採集した個体。採集のときに体の表面が少しはがれて、肌色の肉が少し見えてしまっている。目盛りは1mm

殻の表面は滑らかで、その両脇に小さなトゲの束が9対並ぶ目盛りは1mm
腹側から撮影。左の方に円形の小さな口が見える。目盛りは1mm
貝を茹でて殻を取り出してみた。しっかりとした質感で鎧のようだ。目盛りは1mm

飼育する

(写真:カキ殻のくぼみにくっつくヒメケハダヒザラガイ)

飼育しようと思っていたわけではないが、気が付いたら自宅水槽のカキ殻にくっついていた。カキ殻の塊を採集したときに一緒にくっついてきたのだろう。もうかれこれ2か月以上は水槽にいる(2021年5月現在。水温23℃、比重1.023、硝酸塩かなり高めという環境)。

エサは具体的に何を食べているかは分からないが、カキ殻から離れないこと、カキ殻に生えていた「テングサの一種①」の量が減り、カキ殻の表面がツルツルになっていることを考えると、「テングサの一種①」やカキ殻に生えたコケ、微小な藻類を食べているのではと推測される。

混泳生物の攻撃に弱く、攻撃的な魚類やある程度大きなカニなどがいると、あっという間に食べられていなくなってしまうので、混泳には注意が必要。引っぺがされしまうと自力で元の体勢に戻るのが非常に遅く、その間に身の部分を食われてしまう。

ガラス面に張り付くヒメケハダヒザラガイ。左方に肛門のような見た目の口があるのが見える
刺激を与えると、防御のためか写真のように体を著しく丸める

食べる

(写真:茹でたヒメケハダヒザラガイ)

素材本来の味を確かめるため、水のみで5分間茹でて身の部分だけ食べてみた。

小さいので食いごたえはないが、サザエのような風味がして美味しかったと記憶している。

ヒザラガイ類の標本を作製する

(写真:エタノールに漬けた後、乾燥中のヒザラガイ(左)と「ヒメケハダヒザラガイ」(右)体が丸まってしまわないように平らな板に、糸で縛り付けてある)

2022年に浦安で採集した生貝の貝殻標本を作ったのだが、その際ヒザラガイ類の標本作成にもチャレンジしてみた。方法は以下の通り。

①ヒザラガイを生きたまま海水と一緒に、底が平らな容器に入れる

②容器に入った海水を、徐々に水道水に置換していく(これはおそらくヒザラガイに刺激を与えずに(丸まらないように)、ゆっくり殺すためだと思われる)

③完全に水道水に置換して30~1時間ほど置く(どのくらいの時間がベストなのかは不明)

④ヒザラガイが死んで動かなくなったのを確認してから水道水を捨て、容器に消毒用エタノール(今回は濃度70%を使用)を、ヒザラガイが完全に浸かるまで入れる

⑤そのまま1~3日放置する

⑥エタノール漬けになったヒザラガイを平らな木の板に乗せて、太めで伸びない糸を使って縛り付けて乾燥させる(今回は蒲鉾板とタコ糸を使用)

手順は非常に単純なものだが、⑥の工程に注意が必要。ヒザラガイは乾燥すると体が丸まってくるので、それを防ぐために糸で縛り付けるのだが、強く締めすぎればヒザラガイの体に糸が食い込んで糸の跡が残ってしまうし、弱ければ丸まってしまう。

そのため太目のタコ糸を使って、さらに食い込まないよう殻板に力がかかるようにして縛り付けたのだが、それでも乾燥後はいくらか丸まってしまった。もっと良い方法があるのかもしれないな。

⑤の工程(エタノール漬け)後のヒザラガイたち。この際に肉をくりぬいてしまっても良いようだ