ケハダヒザラガイ

特徴

(写真:2019年6月中旬撮影。体長約5cm。潮が引いた河口の岩にくっついていた)

レア度:★★★☆☆ 軟体動物門 多板綱 Chitonida目 Acanthochitonidae科  Acanthochitona属 学名:Acanthochitona defilippii 英名:? よく見られる季節:?

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最大で体長が5cm、幅が4cmほどになり、ヒザラガイ類の中ではやや大型の種だそうだ。宮城県以南の西太平洋の潮間帯に生息しており、岩の隙間や石の下などにくっついている。潮が引いた河口で石を引っくりかえして生物を探していたら偶然見つけた。

写真のように周囲の環境と似たような色をしていたので、よく探さないと見つからないと思う。動かない生物のように見えるが、じっと観察しているとすご~く遅いスピードで移動しているのがわかる。昼より夜のほうが、人の目に付く場所に出ていることが多いので、おそらく夜行性だと考えている。

(追記:2023年8月18日)浦安南東の日の出の海岸のテトラポッド帯を夜間探索していたら、「ヒメケハダヒザラガイ」に混じってポツリポツリと本種がテトラポッドに張り付いているのを発見。やはり夜間の方が発見しやすい。数も結構たくさんいそうな感じだった。

体は小判のような形で、体の真ん中に表面が滑らかな8枚の殻が並び、体が幅広いのでこの殻は小さく見える。また殻を囲んで9対の棘の束がある。よく似た「ヒメケハダヒザラガイ」と比べると、体の幅が広く丸っこい形をしている。また9対の刺の束もはっきりとしている。ただこれらの特徴や体色も地域差、個体差があるようだ。

ヒザラガイは貝の一種だが、その中でも「多板綱」という、背中に殻板(かくばん)と呼ばれる殻を持ったグループの生物で、現在世界で800種以上、日本では100種以上が確認されている。また名前の由来だが、岩からはがすと体を丸める様子が、曲げた膝のように見えることから「膝皿」の名が付けられたそうだ。

(2023年8月)

拡大して見てみる。9対の毛の束がわかるだろうか
こちらは2022年11月中旬に浦安南東の海岸のテトラポッド帯で採集した個体。体長約5cm。目盛りは1cm
体の前方部を拡大。殻板の表面は滑らかそうに見える
体の中間部を拡大
体の後半部を拡大
同個体。この個体毛の束が大き目な印象を受ける
同個体の毛の束を拡大
同個体を腹側から撮影。肛門のような見た目の口があるのが見える

ヒザラガイ類の標本を作製する

(写真:エタノールに漬けた後、乾燥中のヒザラガイ(左)と「ヒメケハダヒザラガイ」(右)体が丸まってしまわないように平らな板に、糸で縛り付けてある)

2022年に浦安で採集した生貝の貝殻標本を作ったのだが、その際ヒザラガイ類の標本作成にもチャレンジしてみた。方法は以下の通り。

①ヒザラガイを生きたまま海水と一緒に、底が平らな容器に入れる

②容器に入った海水を、徐々に水道水に置換していく(これはおそらくヒザラガイに刺激を与えずに(丸まらないように)、ゆっくり殺すためだと思われる)

③完全に水道水に置換して30~1時間ほど置く(どのくらいの時間がベストなのかは不明)

④ヒザラガイが死んで動かなくなったのを確認してから水道水を捨て、容器に消毒用エタノール(今回は濃度70%を使用)を、ヒザラガイが完全に浸かるまで入れる

⑤そのまま1~3日放置する

⑥エタノール漬けになったヒザラガイを平らな木の板に乗せて、太めで伸びない糸を使って縛り付けて乾燥させる(今回は蒲鉾板とタコ糸を使用)

手順は非常に単純なものだが、⑥の工程に注意が必要。ヒザラガイは乾燥すると体が丸まってくるので、それを防ぐために糸で縛り付けるのだが、強く締めすぎればヒザラガイの体に糸が食い込んで糸の跡が残ってしまうし、弱ければ丸まってしまう。

そのため太目のタコ糸を使って、さらに食い込まないよう殻板に力がかかるようにして縛り付けたのだが、それでも乾燥後はいくらか丸まってしまった。もっと良い方法があるのかもしれないな。

⑤の工程(エタノール漬け)後のヒザラガイたち。この際に肉をくりぬいてしまっても良いようだ