アイゴの稚魚・幼魚

特徴(アイゴの稚魚)

(写真:2022年8月中旬、三番瀬で採集。全長約2.5cm。「稚魚」としているが、実際は「稚魚~幼魚」といったところか。まだ体表の色素がしっかりしておらず、体内が透けて見える。地域や環境によって異なるだろうが、このサイズは孵化してから大体20~30日ぐらいだろう(私の学生時代の研究結果より))

レア度:? 脊索動物門 条鰭綱 スズキ目 アイゴ科 学名:Siganus fuscescens 英名:Mottled spinefoot よく見られる季節:夏~秋?

2022年8月中旬、三番瀬浦安側の南東のテトラ帯周辺で、「浦安市三番瀬環境観察館」のスタッフさんの誰かが採集してくれた。過去の水中観察でこの辺りに「アイゴ」の幼魚・若魚(全長5~10cm)がいることは知っていたのだが、写真のような稚魚サイズの「アイゴ」を見るのはこの時が初めて。

この辺りで生まれたものなのか、それとも仔魚の状態でどこからか流されてきたのかは謎だが、この辺りで繁殖活動が行われていてもおかしくはないなと個人的には思う。ちなみにこのサイズの「アイゴ」でも背びれ、尻びれ、腹びれの毒針は健在なので、取り扱い注意だ。

「アイゴ」のページに詳しく書いているが、私は学生時代「アイゴ」初期生態を研究テーマにしていた。その時得たデータから推測するに、写真の稚魚は卵から産まれて20~30日といったところだろうか(地域や環境によって変わる場合あり)。

魚の年齢や日齢を知るにはいくつか方法があるが、よく使われるのが「耳石(じせき)」を利用する方法。簡単に説明すると、まず耳石とは魚の頭の中にある平衡感覚を得るための石みたいなもので、耳石は魚の成長と共に木の年輪のような模様を残しながら大きくなる。なのでその模様を分析すると、その魚が何年前、何日前に生まれたのかが逆算できる(さらに分析手法を変えることで、どのような環境にいたかや、成長の速度がわかったりもする)。

参考資料として、下に全長約2.5cmのアイゴ稚魚から取り出した耳石(平衡石)の断面写真を載せておく。

(2023年3月)

アイゴ成魚や幼魚と比べると、体高が低い。「アイゴ」は体色変化が激しい魚であり、これは警戒状態の体色だろう(このサイズだと平常時は朱色っぽい黄色~山吹色)

写真は、アイゴ稚魚(全長約2.5cm)から取り出した耳石(平衡石)の断面を顕微鏡で見たもの。大きさは横幅が約0.4mm。よく見ると木の年輪のような同心円状の線が見える。この線1本が1日を表しており、これを中心から数えることで、この稚魚が何日齢で、いつ生まれたのかが分かる。

ちなみにこのようなキレイな断面を見るまでには結構な作業工程が必要で、それを数百匹分行う…。作業は基本的に実態顕微鏡下で行うので、私は研究期間中にかなり眼が悪くなった(笑)

特徴(アイゴの幼魚)

(写真:こちらは2022年8月下旬に三番瀬で採集されたもの。全長約5cm。このくらいのサイズになると、見た目は「アイゴ」の成魚にかなり似てくる)

レア度:★★★★☆ 脊索動物門 条鰭綱 スズキ目 アイゴ科 学名:Siganus fuscescens 英名:Mottled spinefoot よく見られる季節:夏~秋?

特徴や詳しい生態については「アイゴ」のページを見ていただけると助かる。

浦安では夏から秋にかけて、写真のようなサイズから全長10cmぐらいアイゴ若魚を日の出や高洲でときどき見かける。観察回数が少ないので確かなことは言えないが、今まで見てきた感じだと、少なくとも岸近くには”たくさんいる”という感じではない(群れも大きくても~30匹)ぐらい。

このアイゴ達はどこから来て、どこへ行くのだろうか? この辺りで繁殖活動が行われているのか、それともどこからか流れてやってくるのか。

アイゴは水温が14℃を下回るとあまりエサを食べなくなり、さらに10℃近くまで低下するとほとんどエサを食べなくる。また水温が10℃以下になると低水温に耐えられなくなって死亡する個体も出てくる。これは成魚の場合の数字なので、体の小さなアイゴ幼魚だと、水温低下に対する耐性はもっと低くなるだろう。

浦安沿岸は真冬には水温が11℃近くまで低下する。他の多くの魚のように水温が高く安定した場所へ移動するのか、その場で死を迎えるのか。

(2023年3月)

ウサギのような顔をしていることから「ラビットフィッシュ」と呼ばれることもあるとか。口は、海藻などを嚙み切って食べるのに適した形状をしている(海藻以外も食べるが)。目盛りは5mm
体の後半部。目盛りは5mm
上の写真と同じ個体。体色変化が迅速かつ激しく、警戒しているときや何かに怯えているときには、写真のような体色になる。また写真はないが、「うりぼう」(子供のイノシシのこと)のように、体側に太い褐色のシマ模様(縦縞)が現れるバージョンの体色になるときもある
飼育開始から45日後の姿。全長約6cmほど。落ち着いているときの体色は黄金をベースに小さな白い斑点が入る。どことなく穏やかな表情をしているようにも見える
正面から顔を撮影してみた。ウサギ…には見えないが独特な顔をしていると思う
飼育開始から75日後の姿。全長約7cm。成魚と比べるとまだ体高が低くスマートな印象を受ける。だが体色やその雰囲気は「ザ・アイゴ」(主観です)。巷では敬遠されることの多いアイゴだが、私はなかなかに美しい魚だと思う

採集する

(写真:アイゴ稚魚~幼魚の群れ。「アイゴ」は稚魚~幼魚期に何百、何千匹という大規模な群れを作り行動する。成長に従い、群れのサイズは小さくなっていく傾向がある。ちなみにこれは中国地方の離島で撮影したもの。浦安では今のところこのような大きな群れは見たことがない)

今まで色々書いたが、実は私は浦安で「アイゴ」を採集したことがない(姿を見たことは何度かある)。今まで手に入れたアイゴ稚魚・幼魚は全て、他人が採集したものである。そのいずれも三番瀬の波打ち際でタモ網を引いていたら偶然網に入ったものらしい。

浦安で採集できるかは運によるところが大きいかもしれない。というのも、たとえ水中で「アイゴ」を見つけても、彼らは泳ぎがそこそこ速く、人間が近づくとすぐに敷石の間などに隠れてしまうため、タモ網で狙って採集するのはかなり難しいのだ。

もっと海藻が多いエリアなら(例えば高洲のテトラ帯など)、多少は捕まえ易いかもしれないが…。他には釣るという手もあるが、浦安で釣れたという話も噂程度にしか聞いたことがないし、そもそも浦安エリアでどんな仕掛けが適しているかが分からない(地方だと中~大型の「アイゴ」「クロダイ」やメジナ類狙いのフカセ釣りの外道として釣れるのを良く耳にする)。

ちなみに写真のように、岩などの障害物が少ない場所で稚魚・幼魚の大群がいる場合は、両手に網を持って潜り、群れの死角から近づいて、射程距離に入ったら一気に網を被せるとかなりの量が採れる。それこそ投網や設置型の網を使えばものすごい数が採れるんじゃないだろうか。

飼育する

(写真:水面に浮いたエサを食べるために立ち泳ぎのような姿勢をとるアイゴ幼魚。これ以外にも水面に浮いた泡を食うような動作をよくしていた)

2022年8月~2023年2月にかけて、自宅水槽4号(45cm水槽、投げ込みフィルター3つ)で全長約5cmの幼魚を2匹飼育してみた。この期間の水温は約26~19℃。比重は1.023。「アイゴ」は低水温にやや弱いので、水温は最低でも16℃以上をキープしたい。

かなり飼いやすい部類に入るというのが率直な感想。まず餌付きがとても良い。「海藻を食う魚」というイメージが強いが、実際は植食性の強い雑食性で、様々なものをエサとする。また海藻を全く与えなくても健康に成長する。

水槽に入れて間もない頃は冷凍ブラインシュリンプやオキアミなど嗜好性の高いエサを与えていたが、飼育を開始してから2週間もしないうちに、粒タイプの配合飼料(おとひめC2、EP1)をバクバク食うようになった。

注意としては体が薄いため、食い溜めができず痩せやすいこと、食べる→消化→排泄のサイクルが速いため(配合飼料の場合)空腹になりやすいことが挙げられる。そのためエサを頻繁に与えたくなるが、底に落ちたエサは追わないこともあるので、残餌と水の汚れには気をつけたい。

自宅水槽4号の設備だと、1日1回満腹までエサをやると、2週間に一度1/4水換えで維持できるといった感じか。ただし水の汚れには少し弱い印象があり、水換え前だと水換え直後に比べてエサの食いがかなり落ちた。

混泳については、今回のケースではアイゴ同士が追いかけまわすシーンが頻繁に見られたが、ダメージを与えたり殺し合ったりするほどではない(ただし、サイズ差がある場合は注意)。ギンポ類、ハゼ類など底の方で暮らす魚類とは上手くやっていける感じだが、同じ中層を泳ぐ魚は相性をよくみてやる必要があると思う。

また自分より弱いと思った生物に対してはつついたり、齧ったりという行動を行うことがある。当初はスジエビ類や小型のヤドカリ類と混泳させていたのだが、私の見ていないところでそれらの触角を食べてしまっていた(そのため後にアイゴ幼魚は単独飼育とした)。

アイゴ幼魚の性格だが、貪欲さはあるものの基本的にはビビりで気弱な印象を持った。特に人間の姿には敏感に反応し、急に人影が水槽に近づいたりすると、慌てて水槽中を泳ぎ回って、体を水槽にぶつけてケガをしたり、水槽を飛び出しそうになったりする。また何か異常を感じると、体色を黒褐色(と白い斑点)に変えて、物陰に隠れてじっとする。

大き目の水槽で群泳させると綺麗なんだろうなぁと思う。浦安では貴重な「飼い易いかつ中層を泳ぐ魚」なので、機会があればチャレンジしてみたい。

何か異常を感じると、体色を黒褐色(と白い斑点)に変えて、物陰に隠れてじっとする。かなりビビりである
飼育終了後、マーレ水槽に入れることにした。この後、写真左下にいる「カワハギ」からかなり激しい攻撃を受けることとなる…(現在は「カワハギ」を違う水槽へ移しました)