アイゴ

特徴

(写真:アイゴ成魚の丁度良い写真が無かったので、後輩に撮影して送ってもらった。これぞ、「ザ・アイゴ成魚」といった体型、体色をしている(ただアイゴの体色や模様は興奮状態などによって急激に変化する)。2024年2月中旬撮影。全長約20cm。撮影場所:”渚の駅”たてやま内 海辺の広場 撮影者:安田真旺)

レア度:★★★★★★★★☆☆ 脊索動物門 条鰭綱 スズキ目 アイゴ科 学名:Siganus fuscescens 英名:Mottled spinefoot よく見られる季節:夏~秋(おそらく)

【この生物の動画はこちらから】

※アイゴの稚魚・幼魚についてはこちらページから

最大で全長35cmほどになるが、それより大きな個体も存在する。「海藻を食べる魚」もしくは「ひれに毒針を持つ臭い魚」として有名で、西日本では「バリ」という通称で呼ばれることもある。

以前知り合いが「羽田沖でよく網にかかる」と言っていたので「たぶん浦安にもいるだろうな…」と思っていたのだが、2019年10月上旬にとうとうその姿を確認することができた。

 

そのときはカメラ片手に浦安南東のテトラポッド帯の水中を観察していた。ふと岸側(テトラポッド側)の方に目をやると、全長15cmほどのアイゴが、数匹の群れで岩と岩の間で休んでいるのを発見。私の姿に気づくとすぐさまサーっと逃げていってしまい、水の濁りも強かったため、追いかけて撮影することはできなかった。

 

アイゴの体はやや体高が高く、フットボールのような形をしてるものが多いが、体高がそれほどでものなく、木の葉を横長にしたような体型のものもいる。また体は側偏し平たい。

体色は黄金色、鮮やかな黄色、黄褐色や緑褐色、褐色などいくつかのタイプがあり、全身に小さな白い斑点が見られることが多い。中には黒っぽい不明瞭な横帯模様がある個体もいる。またエラ蓋のすぐ後ろに大きな黒点があることもある。黄金色や緑褐色の個体では腹側(体の下半分)が銀色っぽいことが多い。

ただアイゴは体色変化の変化の激しい魚で、魚の興奮・警戒状態の度合いや生死により体色は著しく変化する。例として三番瀬水槽で飼育中の個体は、落ち着いているときは黄金色の地にうっすらと白点が見られる体色だが、ストレスを受けたり人間が水槽に手を入れたりすると、瞬時に体色が黒褐色の地に明瞭な白点と黒褐色の帯模様があるものに変化する。

 

口は小さいが厚い唇と門歯状に並んだ歯を持ち、これで海藻を切り抜くようにして食べる。アイゴは海藻を大量に食うが食性は植食が強い雑食であり、海藻以外に小型動物やプランクトン類など様々なものをエサにする。

背びれ、腹びれ、尻びれの棘(きょく)に毒を持っており、刺されると強い痛みが長時間続く(学生時代、後輩が手首の血管に近いところを刺されて病院送りになった。大事には至らなかったが)。

 

 

私はアイゴに対して並々ならぬ想いがある。実は学生時代の研究テーマがアイゴ(の初期生態)だったのだ。約3年間、アイゴ漬けの日々を送った。

毎日研究室で飼われているアイゴたちの世話をし(途中からは後輩に任せていたが笑)、調査のために何度も離島へ渡っては海に潜ってアイゴの行動を観察記録し、アイゴの捕獲も行った。調査は一年中で、水温の高い季節は良かったものの、冬や水温の低い時期の調査は苦行でしかなかった(笑)。

 

研究室に戻れば、採集した何百というアイゴを解剖し、食べているものや、頭部から耳石(魚の頭の中にある平衡器官を司る石のようなもの)を取り出して年齢(日齢)を調べる。

もしかすると私の体からは、サンプルを保存するためのホルマリン溶液(かなり強烈な臭いで毒性も高い)と、死んだアイゴの何とも言えぬ臭いが混ざった臭気が漂っていたかもしれない。

またアイゴのひれの毒針には刺されすぎて耐性が付いたのか、いつの頃からか刺されても平気になっていた(笑)。あと実体顕微鏡を見すぎて目が悪くなったのは研究あるあるかもしれない。 

 

振り返ると素晴らしい日々(笑)であったが、あれだけのアイゴの命を奪っておいて、アイゴに呪われてはいないかとときどき心配になる。学生時代もっと供養の気持ちを持つべきたったと反省している…。

 

私の研究の結果では、生まれてから体長3cmほどまでの稚魚・幼魚は、主にプランクトン類や珪藻類、小型動物などを食べるのだが、体長5cmを越え出したあたりから海藻を食いまくるようになる。

食べる海藻の量は膨大で、アイゴによる海藻の食害が「磯焼け」(海岸に海藻が著しく減少もしくは全く無くなり、代わりにサンゴモと呼ばれる、薄く硬い殻のような海藻が海底の岩の表面を覆いつくす状態。それはまさに海の砂漠)の一因になることが問題視されている(ただ海藻を食べる魚はイスズミ類やブダイ類、「メジナ」「クロダイ」など他にもいる)。

 

ちなみに食べる海藻には好みがあり、「ジョロモク」や「ヤツマタモク」など比較的柔らかい大型褐藻類を好み、逆に「アラメ」といったタンニンなどの忌避物質を含む海藻はあまり好みでないようだ(しかしそれも食べる)。

ではなぜ海藻を食べるのか? 実はアイゴは海藻を全く食べなくても、海水魚用のペレットやオキアミなど動物質のエサだけでも生存は可能なのだ。さらにそれらのエサだけを与え続けても順調に成長し、長生きもする。しかし野生のアイゴは間違いなく大量の海藻を食べている。

 

これについては近年の研究によって、アイゴが大量の海藻を食べることで栄養素を摂取できるメカニズムを持っていることや、アイゴが捕食が容易である海藻類をメインターゲットとする生存戦略をとっていることなどが分かってきたらしい。私は研究を離れて随分経つので、これらの理論についての詳しい言及はできないが、とにかく野生のアイゴにとって「海藻を食う」ということは非常に重要なのだ。

ちなみに海藻からエネルギーを得るためか、アイゴの消化管は非常に長く、体内で渦を巻く様な格好になっている。

 

 

(追記:2024年1月15日)2019年10月に浦安沿岸でアイゴを初発見してから4年と9か月が経った。それからも野外での観察を続けた結果、定番メンバーとまではいかないまでも、毎年1回以上は小型のアイゴを岸近くの浅い場所で発見している。

2022年8月には全長約2.5cmのアイゴの稚魚も発見しているので、東京湾奥で越冬と再生産が行われているのかもしれない(ちなみに実験下では、アイゴ成魚は水温が14℃を下回ってくると活動が低下し、さらに10~11℃以下になると死亡する個体が現れてくる)。

(2020年7月)

(2024年1月)

(2025年7月)

2024年1月下旬撮影。全長約12cm。2022年8月下旬に三番瀬で採集したアイゴ幼魚が成長したもの。落ち着いている時はこのような鮮やかな黄色い体色をしている。ただアイゴの体色は急激に著しく変化する(以下写真参照)
こちらは同じ個体を別のタイミングで撮影したもの。少し警戒、興奮している時の様子。体にうっすらと褐色の帯模様が現れている
こちらも同じ個体。さらに警戒度が上がった状態
そしてこれも同じ個体。警戒レベルが高い、戦闘モード?の時はこのように薄い褐色の地に黒褐色の帯模様の体色に変化する。また毒針を備えたひれをビシッと立てる(でも自分から積極的に攻撃するという感じではない)
こちらは緑褐色の体色のアイゴ成魚(写真:(独)水産大学校 生物生産学科 水族行動学研究室撮影 本画像の転載・引用を固く禁じます)
こちらは褐色が強く、黒褐色の帯模様も見られるアイゴ成魚(写真:(独)水産大学校 生物生産学科 水族行動学研究室撮影 本画像の転載・引用を固く禁じます)
こちらはエラ蓋のすぐ後ろに大きな黒点あり、体中の小さな白点も良く目立つ個体。2020年7月撮影。撮影場所:越前松島水族館  撮影者:植田宏伸

こちらはアイゴ成魚(全長30cmクラス)の消化管。上の「つ」の字型をしたのが胃で、下の長いものが腸。腸の長さは1m近くある。消化管の中には食べた海藻がパンパンに詰まっている

こちらは2022年8月中旬に三番瀬で採集したアイゴの幼魚。全長5cm。このサイズでもひれの毒針は発達しており、刺されると痛い
こちらは2022年8月中旬に三番瀬で採集されたアイゴの稚魚。全長約2.5cm。このサイズでもひれの毒針は有効なので注意

アイゴの毒針について

(写真:飼育していたアイゴが死んでしまい、同居していたカニなどに体表の皮が食われて、各ヒレの毒針(棘)が観察し易くなっていたので、撮影させてもらった。合掌)

先に書いた通り、アイゴの背びれ、尻びれ、腹びれの棘(硬く尖った部分)は毒針となっている。それらについて詳しく見てみたいと思う。

まずは背びれ。これは皮や鰭膜が取り除かれ、棘だけになった状態だ。魚体に対して長めの棘だと思う。棘が生えている範囲も広いので、背びれに刺されるケースも多いのではないだろうか
背びれの棘を拡大。棘の先端は非常に鋭い。棘は軽く弓なりになっていて、棘1本1本の形状が微妙に異なっている。また棘の表面には筋のようなものが見られる。触っても簡単には折れない丈夫さがある
お次は尻びれ。こちらも背びれ同様、長くて生えている範囲も広い
尻びれの棘を拡大。こちらの棘は背びれに比べると真っすぐな感じ。毒針として有効な棘は7本目ぐらいまでだろうか
そして最後に腹びれの棘を見てみる。数が少ないので目立たない感じだが、個人的にはこの棘に要注意だ

採集する

(写真:2010年8~9月頃撮影。私が学生時代、研究で訪れていた離島で撮影したアイゴ幼魚の群れ。アイゴは幼稚魚期にこのような大群を形成し、浅瀬へやってくる。黄金の魚体とブルーの背景とのコントラストが美しい)

大きな成魚は素早く泳ぐのでタモ網で捕まえるのは至難。「クロダイ」「メジナ」を狙ったフカセ釣りではお馴染みの外道だが、浦安沿岸で大きなアイゴが釣れたという話は、今のところ私は聞いたことがない。酒粕や味噌などを混ぜたコマセ(撒きエサ)を使うとアイゴが釣れやすいという情報もある。

 

私の学生時代の研究では、刺し網を仕掛けたり、水中銃で捕獲していた(もちろん特別採捕許可を取得して)。ちなみに沖縄などではアイゴ類の釣りが盛んで、専用の竿が売られていたりもする。

稚魚、幼魚もすばしっこいが、全長5cmぐらいまでの幼魚ならば、(海に潜って)警戒心を与えないように近づき、物陰に隠れるなどして幼魚が射程距離に入ったら、一気に網を被せて採集することはできる(けっこう大変だが)。

 

ということで、私が知る限りでは浦安でアイゴを捕獲するのはなかなか困難なようだ。

飼育する

(写真:2022年11月中旬撮影。同年夏に三番瀬で採集したアイゴ幼魚自宅水槽4号で飼育していたときのもの。なかなか色彩のの美しい魚だと思う)

全長が~5cmまでの幼魚なら、45cm水槽でも十分飼育可能(2匹までが限度かな)。配合飼料にも餌付き易いし、意外と飼育しやすい魚だと感じた。幼魚の飼育に関しての詳細は「アイゴの幼魚」のページの「飼育」の項を参照して欲しい。

 

学生時代、私の研究テーマがアイゴだったので、行動実験のために大量にアイゴ成魚を飼育していた。飼育していたといっても、当時は海水水槽に全く興味が無かったため、エサやりと掃除を行うのみだったのだが…(ついでに言うと私の研究は野外調査系だったので)。

結構高密度でも飼育可能だったような(水量1.5tぐらいの円形水槽に20~30cmクラスが20匹ぐらいはいたような…)。エサは何でも食う!!というイメージ。飼育魚には1日2回ペレットタイプの配合飼料を与えていた。

「海藻食う魚」として有名だが、このような動物質のエサだけで十分育つし長生きもする。ただ体が薄いため食い溜めができず痩せやすいのには注意。

 

低水温には弱いので冬になるとヒーターで水温を20℃以上に保つ。また急激な明暗の変化には敏感で、飼育室を急に明るくしたりすると、暴れまわり、最悪水槽から飛び出してそのまま気づかれず死ぬことも(死がいはとっても臭い)。あと上に書いたような飼育環境だと白点病になりやすかった。

 

研究のためとはいえ、当時は稚魚から成魚まで何百匹、何千匹というアイゴの命を奪った。死体は校内の草むらに穴を掘って埋めていた(ただ高確率で野生動物に掘り返されて持ってかれてしまう)。ちゃんと墓を建てたり、供養の気持ちを持つべきだったと反省している。

飼育する②

(写真:2022年2月中旬撮影。2022年夏に三番瀬で採集したアイゴ幼魚を全長7cmほどまで育てて、マーレ水槽へ引っ越しさせたときの様子。「カワハギ」「ニジギンポ」といった強烈な同居人たちとも上手くやっていた)

2022年夏に採集した個体を2024年12月末まで飼育したのでその歩みを簡単にまとめてみる。

全長が~5cmまでの幼魚については「アイゴの幼魚」のページの「飼育」の項を参照して欲しい。45cm水槽でも十分飼育可能(2匹までが限度かな)。配合飼料にも餌付き易いし、意外と飼育しやすい魚だと感じた。

 

そして全長が7cmを超え自宅水槽4号では手狭になったので、2023年2月中旬にマーレ水槽(90cm水槽)に引っ越しさせることに。水槽に入れた当初こそかなり警戒 & 周りに威嚇 をしていたが、割とすぐに「カワハギ」「ニジギンポ」といった強烈な同居人にも馴染んで、水槽の中層をスイスイと泳いでくれた。なかなかの適応力である。

水温は22℃前後で一定、硝酸塩は大量、エサは粒タイプの配合飼料(おとひめ)のみを週3~4回、という環境で2024年の秋頃までは元気に暮らしていた。だがエサが少ないのだろう、成長は野生個体に比べると著しく遅かった。

 

そして2024年冬。このときアイゴは全長11cmまで成長していたのだが、この頃から急激に痩せが目立つようになった。おそらくエサの量がアイゴの消費カロリー?に足りていなかったのだろう。完全にこちらの責任である。

先に書いたがアイゴは元々痩せやすい魚なうえ、体が平たいので食い溜めできず(胃が膨らまない)、一度大きく痩せて体調を崩してしまうとマーレ水槽の飼育環境ではリカバリーは難しい。

そして同年年末死んでしまった。死骸をカニに食い荒らされえる前に確保できたのが幸いだった。

 

反省としては、エサは1日2回ぐらい、いや最低1回は満腹になるまで食わしてやると良いのかもしれない。自宅外の水槽での終生飼育は難しい…。

マーレ水槽にて。写真に写っている片目の「メバル」くんとは、1年半以上”好敵手”として共に水槽を賑やかにしてくれていた

食べる

ひれに毒針があり、魚体は独特な臭いを放ち、さらに内蔵はとても臭い(アンモニア臭っぽい)ことから、全国的に見ると食用魚という認識は低い。釣りで釣り上げられても、逃がすか投げ捨てられることの多い不遇な魚である。

 

しかし実は非常に味の良い魚で、たしかどこかの研究で「旨み成分は「マダイ」に匹敵する」という話を聞いたこともある。私も実際に食べたが、身はクセがなく程よい甘みと歯ごたえで、新鮮なものなら刺身で十分イケる(アイゴと知らせないで食わせたら、きっと他の魚と勘違いすると思う)。現在でも瀬戸内海や、四国、九州では食用とされているそうだ。

 

また沖縄ではアイゴの稚魚をまるごと塩辛にした「スクガラス」という料理があり、これを豆腐などに乗せて食べる(沖縄旅行で食べたことのある人も多いのではないだろうか)。他には「マース煮」という白身魚を水と塩と泡盛で煮込んだ料理の材料としてもメジャーだ。学生時代、沖縄出身の友人に作ってもらって食べたが、臭みはなく、良いダシが出ていて美味しかった。

 

ただし美味しく食べるにはいくつか注意が必要。まず鮮度の良いものを選ぶのは当然だが(買う場合)、釣りで釣ったらすぐに活締め・血抜きを行い、なるべく早く内蔵を取り除いて、腹の中をよく洗い、しっかりと保冷する。内蔵を取り出す際は消化管を破ったり、胆嚢を潰さないようにする(そうしないとそこから臭いが身に移る)。

 

(追記:2024年1月26日)近年アイゴの価値に追い風が吹いている………かもしれない(笑) というのも「SDGs」や「ブルーカーボン」が叫ばれる昨今、「アイゴを漁獲して売る、もしくは養殖(畜養も)したら色々と都合が良いのでは?」という声が水産界で増えてきたとかいないとか。

たしかにアイゴは現段階では未利用魚で、積極的に漁獲もされていないため個体数も安定。さらに海水温の上昇傾向はアイゴの生息域拡大にも繋がっているだろう。そのため、持続可能な食糧資源という点でSDGsに引っ掛かるのではと。

 

また先にも述べたが海藻を食いまくるアイゴは、海の砂漠化状態「磯焼け」の一因になっており、アイゴを漁獲して減らすことはブルーカーボン的にGOODかもしれない。さらにそれに値が付けば、衰退を辿る一方の沿岸漁業者さんたちとっても新たな収入源になる。

さらにさらにアイゴは海藻を食べるという性質から、廃棄野菜をエサとして養殖(畜養も)できる可能性がある(エサのコストを下げることができる)。

 

そして何よりアイゴは味が良い。

アイゴが日の目を見る日もそう遠くないかもしれない…(だいぶ主観が入っております。ご了承ください)。