ダツ

特徴

(写真:2021年6月下旬、河口付近で採集。オスのダツ。大きい方の全長約73cm、小さい方の全長約51cm。夜のルアー釣りで採集した。毎年この時期になると大きなダツが岸のすぐ近くを泳いでいる姿を目にする。スケールは巻き尺)

レア度:★★★★☆ 脊索動物門 条鰭綱 ダツ目 ダツ科 学名:Strongylura anastomella 英名:Needlefish よく見られる季節:初夏~夏

最大で全長1mを超える。浦安では繁殖期にあたる初夏~夏頃に、岸近くを泳いでるのをときどき目にする。インパクトのある見た目をした魚だが、浦安を含む東京湾奥ではそれほど珍しい魚というワケではなく、この時期には「スズキ」狙いのルアー釣りの外道として釣れることが多々あるそうだ。

夜の方が活動的になるようで、夜に水面をライトで照らすと何匹ものダツが光に反応して、イルカジャンプのごとく飛び跳ねる場面に遭遇することもある。また夜だけでなく明るい時間帯にも岸のすぐ側を泳いでることがあり、知らない人が見たらその大きさと迫力にビックリすることだろう。

ダツ最大の特徴は何といってもその長く伸びた両アゴと、細長い魚雷のような体形だ。「サンマ」か「サヨリ」の化け物みたいな姿だが、「サヨリ」は下アゴだけが長く伸びるのに対し、ダツは上下のアゴ両方が伸びており、そこには鋭いトゲ状の歯が並ぶ。またこのアゴは非常に硬く、包丁でも簡単には断てない。このアゴと歯、そしてギョロっとした目つきに悪魔的な雰囲気を感じるのは私だけだろうか。

体形は「サンマ」や「サヨリ」をグッと横に引き伸ばしたようで、その断面は楕円形~縦長の長方形といった感じ。体色だが私の採集した個体は、上アゴと頭の上部~背側は青緑色で、下アゴと顔~体の側面は銀色をしていた(下の写真参照)。

ダツの各ひれは体の長さの割に小さく、腹びれ、背びれ、臀びれの3つのひれは体の半分より後ろに位置する(さらにそのうち背びれ、殿びれの2つは体のかなり後方にある)。また背びれより尻びれの方が前方に位置しているという特徴もある。同じ「ダツ目」の魚というだけあってか、体色やひれの質感は「ボラ」や「トビウオ」に似ていると思う(下の写真参照)。

このページを読んでいる人は既に知っているかもしれないが、ダツは光に集まる習性があり、夜ライトの明かりに向かって突進してくることもあるそうな(私が照らすと逃げていくんだが…)。そのため突進してきたダツが人に突き刺さるという事故が毎年発生しているとのこと。特に夜間の潜水時、水面に浮上した際にライトに突進してきて、人に突き刺さるケースが多いらしい。

食性は「小魚を襲って食べる肉食魚」というイメージが強いが、他に甲殻類や底生動物も食べるという情報もある。私は過去に河口付近で全長30cmに満たない小さなダツが「ボラの幼魚」を襲っているシーンを目撃したことがある。その時の様子だが、細長い両アゴと鋭い歯で「ボラの幼魚」にダメージを与える、もしくは殺してから、2撃目で飲み込むという戦法を取っていた(1撃目で飲み込むこともあったが)。捕食はあまり上手くないようで、釣りで狙ってもなかなか針がかりせず、スレで釣れる(口以外の場所に針が掛かって釣れること)ことが多い。

産卵期は初夏との情報が多い。確かに蒸し暑くなってくると、大きなダツとその1/3ぐらいの大きさのダツ2匹が(メスとオス?)、ピターっと寄り添って泳いでいるのを見かける。

 

以下に、『日本大百科全書』の『ダツ』の解説を引用させていただく。

『硬骨魚綱 ダツ目 ダツ科 Belonidaeに属する海水魚の総称。全長1メートル余りになる大形魚が多い。体は細長く、小さい円鱗(えんりん)で覆われる。口は大きく、上下両顎(りょうがく)は著しく延長し、多数のとがった歯を備える。鱗(うろこ)に棘(とげ)がない。

背びれと臀(しり)びれは体の後方に対在する。胸びれは高位にあり、腹びれは六軟条で腹位にある。側線は体の下方を走る。幽門垂はなく、腸は直走する。世界中の熱帯や温帯の海に分布する。淡水域に生息する種もある。

水面近くを遊泳し、長い口と鋭い歯で小魚を捕食する。粘着糸を備えた卵を産む。世界で9属ないし10属32種が知られており、日本からはヒメダツ属ヒメダツ、ダツ属ダツとリュウキュウダツ、ハマダツ属ハマダツ、テンジクダツ属オキザヨリとテンジクダツの4属6種が知られている。

ダツStrongylura anastomellaは、北海道から九州までの日本各地沿岸、沿海州、朝鮮半島、中国に分布する。全長は1メートルで、体は側扁(そくへん)し、尾びれは上下に直線的かまたはわずか内側にくぼむ。尾柄(びへい)部に隆起線がない。骨は青緑色である。日本沿岸の普通種で、5月ごろに沿岸の藻場で産卵する。日本近海産のダツ類中で美味とされている。[中坊徹次]』

(2021年7月)

(2024年3月)

ダツ(オス)の顔。ダツは上下の両方のアゴが細長く伸びている。このアゴと歯、そしてギョロっとした目つきに悪魔的な雰囲気を感じる。スケールは巻き尺
ダツ(オス)の口と歯。上下のアゴにはトゲ状の鋭い歯が並ぶ。またこのアゴは非常に硬く、包丁でも簡単には断てない。スケールは巻き尺
ダツ(オス)の胸びれ。体の大きさの割に小さいと感じる
ダツ(オス)の体表の様子。私の採集した個体は、上アゴと頭部背面から~体の背側は青緑色で、下アゴと顔の側面と体側の大部分は銀色をしていた。また側線は体の下方を通るそうだが、私にはよく分からなかった。スケールは巻き尺
ダツ(オス)の背びれと尻びれ。背びれ、臀びれの2つは体のかなり後方にある。また背びれより臀びれの方が前方に位置する
ダツ(オス)の尾びれ。『尾びれは上下に直線的かまたはわずか内側にくぼむ。尾柄(びへい)部に隆起線がない』とのこと。たしかに!
ダツ(オス、全長約73cm)内臓。体が長いだけあって内臓も長い。『幽門垂はなく、腸は直走する』とのこと。胃と腸の境目が分かりにくいな。あと肝臓もデカくて長い!! また体内には細長いく発達した?精巣(白子)があった(写真中央下)。スケールは巻き尺

採集する

(写真:上の写真の個体と同時に釣れた小さめのダツ。こっちもオスだったかな? 全長約51cm)

個人で採集するとなると、釣りかタモ網ですくうの2つだろうか。

釣りに関してだが、私は3回しか釣ったことがないので偉そうなことは言えないのだが、ルアーで狙うもしくは生きた小魚をエサにした「泳がせ釣り」で狙うのが一般的だと思う。ダツは水面近くを泳いでいることが多いので、水面~表層を泳ぐタイプのルアーを使う(フローティングミノーやポッパー、ペンシルベイトなど)。またダツはキラキラと光を反射するものが好きらしいので、ルアーの色もそのようなものをチョイスする。

それと単純に真っすぐルアーを引いてくるよりかは、水面を魚が逃げ惑うような、少し激しめの動きをさせた方が良いようだ。だだ動きが激しすぎるとダツがルアーを追いきれなくなるので注意。

 

タモ網に関しては、ダツは夜になるとかなり岸近くを泳ぐことがあるので、それを網ですくう。私はすくい上げることにこそ成功していないが、過去に2回ほどタモ網の中にダツをインできたことがある(その時は網の目合いが大き過ぎてダツが網を通り抜けてしまった)。ただライトの光に反応して水面から飛び跳ねたダツによってケガする可能性もあるので、十分注意して欲しい。

 

歯が鋭く噛まれると大変なので、ダツには申し訳ないが、釣り上げたらダツの頭の後ろあたりを足で踏んづけて動けないようにしてから、釣り針を外したり絞めると良いと思う(フィッシュグリップを使うのもアリ)。

ちなみに釣り、特にルアーフィッシングの世界では「他の魚狙いなのにダツが釣れてしまう」、「ダツが食いつくとルアーがボロボロにされてしまう & 歯で釣り糸が切られルアーが無くなる」、「歯が鋭くて危険」、「引きが弱い」、「不味い(私はそうは思わないが…)」などの理由からあまり歓迎されていない魚である。

釣れても「なんだよ、ダツかよ(笑)」と酷い態度と扱いを受けることもしばしば。磯、堤防から蹴り落されたダツは数知れない。私にとっては釣れたらそれなり嬉しい魚なのだけど…。

食べる

(写真:ダツの刺身。鮮やかな血合いと銀皮が美しい。見た目は「サヨリ」の身によく似ている)

「ダツは不味い」、「臭くて食えたもんじゃない」、「骨が青くて食欲を無くす」と否定的な意見が多い一方、「クセの無い淡泊な味」、「意外といける」、「刺身が美味い」といった意見も少数ながらある。この言われたい放題なダツだが、以前からどんな味か興味があった。

 

今回食べたダツは、2021年6月下旬に浦安市内河川の河口付近(東京湾最奥部)で釣った全長73cmのオス個体。釣ったその場で即締めて血抜きをし、1時間以内に自宅に持ち帰った。

持ち帰ったらすぐにウロコと内臓、頭を取り、血合いも残さず取り除いて、全体を水道水で洗い流す。水気をしっかりとふき取ったら、腹にキッチンペーパーを詰める&表面をペーパーで包んで、さらにその上からピチっとラップで包む。その状態で冷蔵庫で約1日寝かした。脂がなく淡泊と言われることの多いダツだが、今回捌いたダツの腹の中には脂肪の塊がけっこう付着していた。

そしていよいよ刺身へ。まずは大名おろしで三枚に下す。ちょっと中骨が硬く包丁に引っかかる感じがあるが、思っていたほどおろしにくくない。片身を切り離すとエメラルドグリーンの背骨が姿を現す。たしかにこの色は人によっては食欲を無くすかもしれないが、身自体はキレイな白身だ。

次に腹骨を取り除く。腹骨を取り除くと、腹側の身がそれと一緒にかなり取れてしまう。ある人が「ダツは体の後ろ1/3しか食べられません(笑)」といっていた意味がこの時分かった。

そして皮を剥がす。皮は思っていたより丈夫で、ゆっくりとやれば手で十分キレイに剥がせた。そのあと中骨を取り除くと随分と身が少なくなってしまった。あの魚体の大きさを考えると、たしかに残念な気持ちなる。刺身に切りつける際は、身は非常に弾力があるので、よく切れる包丁でないと切りづらい。

 

いよいよ実食。盛り付けられたダツの身は血合いと銀皮がとても鮮やかで、その見た目は「サヨリ」の刺身によく似ている。匂いを嗅いでみるとあのダツ特有の青臭い香りが少しする…が、気にならないレベル。

まずは醤油をつけずにそのまま食べてみる………お!なかなかイケるぞこれ!! 噛んだ瞬間から強い旨味が口の中に広がる。ゴリゴリとした歯ごたえも良い。口に入れると臭みもなく、想像していたより数段味は良い。というか美味い(笑)

「良い食材発見したなー」と食べ進めていると、5切れほど食べたところで口の中に異変が発生した。

「ん…?なんだこの脂臭さは!!!!!」

表現するのが難しいが、「油臭さ」ではない「脂臭さ」が口の奥の方から湧いてくる。「おれはこれと同じ臭さを過去に体験している………アレだ!!「ボラ」の刺身だ!!」。以前秋に浦安の東京湾側で釣った「ボラ」を刺身にして食ったのだが、その時と同じ「脂臭さ」が今回のダツからも出現したのだ(「ボラ」の方が強烈だったけど)。

この臭さはダツが本来持っているものなのか、エサや個体差、季節のせいなのか、それとも浦安という場所によるものなのかは不明だ。期待が大きかっただけに今回の結果は残念だが、これだけでダツの食味を判断するのはまだ早いかなとも思っている…。

三枚におろしたダツ。身はキレイな白身。背骨がエメラルドグリーンをしており、この色が食欲を無くさせると言う人もいる。まぁ気持ちは分かる!!
ダツの身。血合いの赤と銀皮が鮮やかで美しい。見た目は「サヨリ」の身によく似ている