浦安で見られるカンザシゴカイ類たち
特徴
(写真:2022年6月中旬、三番瀬で撮影。潮が引いて露わになった転石の側面に、カンザシゴカイ類の巣(棲管)が積み重なって付着していた(これが何の種類のカンザシゴカイなのかは不明))
レア度:★☆☆☆☆ 環形動物門 多毛綱 ケヤリムシ目 カンザシゴカイ科 学名:? 英名:? よく見られる季節:?(棲管だけなら一年中見られるような)
浦安の海沿いや河口などで、写真のような白い管状のグネグネした物体を見たことある人も多いかもしれない。ただそれが何なのかまで詳しく知っている人は少ないようで、子供や一般の方から「この白いグルグルしたものは何ですか?」という質問を受けることも多い。
これは「カンザシゴカイ」という「環形動物門 多毛綱 ケヤリムシ目 カンザシゴカイ科」に属する生物の巣穴である。
カンザシゴカイ類は、大きな括りで言えばゴカイ類の仲間で、石灰質を分泌して管状の巣(棲管)を岩や護岸などの表面に作り、その中で死ぬまで生活する。
水中では棲管の先端から鰓冠を出して呼吸や摂餌を行うが、その鰓管の色彩・形態が種や個体によって様々でどれもとても美しく、個人的にはお気に入りの生物である(一般の方には小さいのでその存在に気付いてもらえないことが多いのだが)。
また棲管には殻蓋(からぶた)という蓋があり、その形状や模様も種によって様々で、カンザシゴカイ類の同定を行う際に重要なチェックポイントとなる。
以下に『世界大百科事典 第2版』の『カンザシゴカイ』の解説を引用させていただく。
『多毛綱 カンザシゴカイ科 Serpulidaeに属する環形動物の総称。頭部の鰓冠(さいかん)にある1個の殻ぶたをかんざし(簪)にみたててこの名がある。日本には現在27属60種ほどが知られている。
カンザシゴカイ類は石灰質を分泌して管をつくり,その中で終生生活する。体は鰓冠部、胸部、腹部に分かれる。体長は大きいもので7~8cmになるが、大部分は3cm前後。鰓冠部には数対~数十対の鰓糸が半円状やらせん状に並び、そのうちの1本が特別な殻柄(かくへい)になり、先端に殻ぶたをつける。』
カンザシゴカイ類の姿かたちのイメージは湧いただろうか?
では、私が今まで浦安で発見したカンザシゴカイ類を写真と共に紹介していくとしよう!!
(2023年9月)
こちらは2022年5月中旬に河口付近で採集した個体。鰓冠の鰓糸が肌色のような色をしており白いシマ模様も見られる。残念ながら種類は不明。私が見つけたものの中には、複数種のカンザシゴカイ類が含まれていると思うが、私にそれを正確に同定する能力はない
採集する
(写真:2022年10月上旬、三番瀬で撮影。朽ち果てたドラム缶?の裏側にカンザシゴカイ類の棲管が付着していた(これが何の種類のカンザシゴカイなのかは不明)
ここでは特定の種のカンザシゴカイ類の採集方法ではなく、浦安で見られる”カンザシゴカイ類たち”の採集方法について書こうと思う(そもそも私に種を確実に見分ける能力がないので)。
時期は冬~初夏までが良いと思う。
写真のような格好で、潮間帯の転石の側面、垂直護岸、カキ殻などに密集して付着しているのをしばしば見かける(ただ真夏はあまり姿を見かけない気がする)。なので干潮前後の時間帯を狙って海沿いや河口付近へ行き、上に挙げたような場所を探せば見つけるのは簡単だと思う。
ただ採集時には少し注意が必要。写真のような棲管をみつけたら、それを破壊しないようにスクレーパーやナイフを使ってこそぎ落とすのだが、これが意外と難しい。写真のように棲管が平面的に広がっているケースだと、おそらく棲管のほとんどを割ってしまい、中にいるカンザシゴカイ類も殺してしまうだろう。
なので下の写真のように立体的に重なっている棲管を探すか、棲管が付着している基質(小石、カキ殻、カイメン類など)ごと採集するのがベターだろう。
飼育する①
(写真:2019年4月下旬、三番瀬で採集。丁度手頃な大きさの石にカンザシゴカイ類の棲管が付着していたので持ち帰り観察することに)
飼育…と言っていいのか分からないが、三番瀬水槽では今までに何度かカンザシゴカイ類を展示している。他生物による攻撃を受けなければ、特別な世話をしなくても2~3ヶ月、もしかしたら半年近くはそのまま生存している。
私の経験では岩肌をかじるような魚や(例えば「メジナ」や「コショウダイ」)や口の細い魚(「アミメハギ」など)が大型のカニ、ヤドカリがいると、攻撃を受けて早々に姿を消してしまう。なので隔離水槽に入れてやるとかなり長生きする。
エサは何を食べているのだろうか? 特別な世話はしていないが、水中に舞ったエサの欠片や他生物の排泄物などの有機物を食べているのだろうか?
飼育する②
(写真:2022年5月下旬、三番瀬で採集。このカンザシゴカイ類の棲管は転石に付着したカイメン類の中に食い込むようにして付着していた(実際はどちらが先に岩に付着していたのかは謎だが)。カイメン類はスポンジのように柔らかいので、ケーキをナイフで切るかのように簡単に採集できた。ちなみにこれが何のカンザシゴカイの棲管かは不明)
飼育というほどのことはしていないのだが、水槽を訪れる人にカンザシゴカイ類の美しさを見てもらいたいという理由から、マーレ水槽で何度か展示したことがある。
結果としては、自宅外にあり、貪食な混泳生物がひしめき合う、さらにカンザシゴカイ類のエサとなるような微小な浮遊物もほとんどないマーレ水槽での長期飼育は難しく、隔離ケースに入れて2~3か月程度生存するという感じであった(ちなみに環境は水温22℃、比重1.023、硝酸塩濃度超高め)。
隔離ケース無しだと、様々な生物(主に魚類)の突っつき攻撃を受けて早々に姿を消してしまう。安全に飼うためには、カンザシゴカイ類を単体で飼ったり、混泳生物を厳選してやる必要がありそうだ。この辺りはサンゴなどを飼育しているアクアリストの方々が詳しそうだ。
エサやりにも工夫が必要で、カンザシゴカイ類はほんの少しの物音で、棲管の中にパッと身を隠してしまう。なので鰓冠を出しているときにスポイトでエサを鰓冠に振りかけてやるのも難しい。
何もしなくても適度に水中に浮遊物が舞うような状態を作ってやって、そこにエサを流し込んでやると良いのかもしれない。