エゾカサネカンザシゴカイ?

特徴

(写真:2019年4月下旬採集。鰓冠(さいかん。花のような部分)の直径約10mm。転石や護岸、カキ殻などの表面に白いグネグネした管状の巣穴(棲管)を作り、その先端から鰓冠(さいかん)を出して呼吸や摂餌を行う)

レア度:? 環形動物門 多毛綱 ケヤリムシ目 カンザシゴカイ科 学名:Hydroides ezoensis 英名:? よく見られる季節:?(棲管は真夏以外はよく見かける気がする)

(同定に自信がありません。他の資料も参照してください。間違っていたら教えていただけると嬉しいです)

写真の個体は2019年4月下旬に、場所はどこだか忘れてしまったが、三番瀬だか河口付近あたりで拾った小石の表面に付着していたもの。このようなカンザシゴカイ類の巣穴(棲管)は浦安の海沿いや河口、三番瀬の転石上などで頻繁に見かける(そのうちのどれだけがこのエゾカサネカンザシかは不明だが)。

よく見かけるが、その正体までを詳しく知っている人は少ないようで、子供や一般の方から「この白いグルグルしたものは何ですか?」という質問を受けることも多い。そんな時、採集したカンザシゴカイ類を観察ケースに入れて「しずか~に観察してみてね!」と、棲管から美しい鰓冠(さいかん。花のような部分)がニョキニョキと出てくる様子を見せるのが私の楽しみにの1つである。

ちなみに美しい見た目とは裏腹に外来種で、現在(2023年)は「要注意外来生物(外来生物法)」、「日本の侵略的外来種ワースト100 指定種」登録されている。

さて、このエゾネカサカンザシゴカイを含むカンザシゴカイ類は、大きな括りで言えばゴカイ類の仲間で、石灰質を分泌して管状の巣(棲管)を岩や護岸などの表面に作り、その中で死ぬまで生活する生き物。

水中では棲管の先端から鰓冠を出して呼吸や摂餌を行うが、その鰓管の色彩・形態が種や個体によって様々でどれもとても美しく、個人的にはお気に入りの生物である(一般の方には小さいのでその存在に気付いてもらえないことが多いのだが)。

また棲管には殻蓋(からぶた)という蓋があり、その形状や模様も種によって様々で、カンザシゴカイ類の同定を行う際に重要なチェックポイントとなる。

以下にまず『世界大百科事典 第2版』の『カンザシゴカイ』の解説を引用させていただく(エゾネカサカンザシゴカイの解説ではないので注意)。

『多毛綱 カンザシゴカイ科 Serpulidaeに属する環形動物の総称。頭部の鰓冠(さいかん)にある1個の殻ぶたをかんざし(簪)にみたててこの名がある。日本には現在27属60種ほどが知られている。

カンザシゴカイ類は石灰質を分泌して管をつくり,その中で終生生活する。体は鰓冠部、胸部、腹部に分かれる。体長は大きいもので7~8cmになるが、大部分は3cm前後。鰓冠部には数対~数十対の鰓糸が半円状やらせん状に並び、そのうちの1本が特別な殻柄(かくへい)になり、先端に殻ぶたをつける。』

次にかなり専門的な内容だが、エゾカサネカンザシゴカイの特徴がまとめられた素晴らしい資料を発見したので、その資料のリンクを以下に張らせていただく。

『田中克彦 ・ 栄二郎 西 要注意外来生物としての多毛類カンザシゴカイ類の分類について 神奈川自然史資料(27):2006Mar :83-86)』https://www.jstage.jst.go.jp/article/nkpmnh/2006/27/2006_83/_pdf

このページとは比較にならないレベルの詳細さ、綿密さなので、是非とも目を通してもらいたい。

(2023年9月)

鰓冠を拡大。鰓冠を構成する1本1本の鰓色には、白、黒、褐色のラインが入る。また鰓冠の後ろには漏斗のような形(ガンダムに出てくるファンネルみたいな形)の殻蓋が見える。また殻蓋の上部は2段構造になっている
棲管は白色だが写真のように付着物で汚れている場合も多い。また棲管の断面はほぼ円形で、表面には縦線が見られることがあるそうだ
こちらは2020年4月下旬に採集した別個体。エゾカサネカンザシゴカイのように見えるが…どうだろうか?

採集する

(写真:2022年10月上旬、三番瀬で撮影。朽ち果てたドラム缶?の裏側にカンザシゴカイ類の棲管が付着していた(これが何の種類のカンザシゴカイなのかは不明)

ここでは特定の種のカンザシゴカイ類の採集方法ではなく、浦安で見られる”カンザシゴカイ類たち”の採集方法について書こうと思う(そもそも私に種を確実に見分ける能力がないので)。

時期は冬~初夏までが良いと思う。

写真のような格好で、潮間帯の転石の側面、垂直護岸、カキ殻などに密集して付着しているのをしばしば見かける(ただ真夏はあまり姿を見かけない気がする)。なので干潮前後の時間帯を狙って海沿いや河口付近へ行き、上に挙げたような場所を探せば見つけるのは簡単だと思う。

ただ採集時には少し注意が必要。写真のような棲管をみつけたら、それを破壊しないようにスクレーパーやナイフを使ってこそぎ落とすのだが、これが意外と難しい。写真のように棲管が平面的に広がっているケースだと、おそらく棲管のほとんどを割ってしまい、中にいるカンザシゴカイ類も殺してしまうだろう。

なので下の写真のように立体的に重なっている棲管を探すか、棲管が付着している基質(小石、カキ殻、カイメン類など)ごと採集するのがベターだろう。

2022年6月中旬、三番瀬で撮影。潮が引いて露わになった転石の側面に、カンザシゴカイ類の棲管が積み重なって付着していた(これが何の種類のカンザシゴカイなのかは不明)。こういう状態だと採集は簡単である

ちなみにカンザシゴカイ類の中身はこんな風になっている(この写真の個体がエゾカサネカンザシゴカイなのかは不明)。全長約25mm。こうやって見るとゴカイの仲間といのも納得していただけるかもしれない

飼育する

(写真:2022年5月下旬、三番瀬で採集。このカンザシゴカイ類の棲管は転石に付着したカイメン類の中に食い込むようにして付着していた(実際はどちらが先に岩に付着していたのかは謎だが)。カイメン類はスポンジのように柔らかいので、ケーキをナイフで切るかのように簡単に採集できた。ちなみにこれが何のカンザシゴカイの棲管かは不明)

飼育というほどのことはしていないのだが、水槽を訪れる人にカンザシゴカイ類の美しさを見てもらいたいという理由から、マーレ水槽で何度か展示したことがある。

結果としては、自宅外にあり、貪食な混泳生物がひしめき合う、またカンザシゴカイ類のエサとなるような微小な浮遊物もほとんどないマーレ水槽での長期飼育は難しく、隔離ケースに入れて1~2か月程度生存するという感じであった(ちなみに環境は水温22℃、比重1.023、硝酸塩濃度超高め)。

隔離ケース無しだと、様々な生物(主に魚類)の突っつき攻撃を受けて早々に姿を消してしまう。安全に飼うためには、カンザシゴカイ類を単体で飼ったり、混泳生物を厳選してやる必要がありそうだ。この辺りはサンゴなどを飼育しているアクアリストの方々が詳しそうだ。

エサやりにも工夫が必要で、カンザシゴカイ類はほんの少しの物音で、棲管の中にパッと身を隠してしまう。なので鰓冠を出しているときにスポイトでエサを鰓冠に振りかけてやるのも難しい。

何もしなくても適度に水中に浮遊物が舞うような状態を作ってやって、そこにエサを流し込んでやると良いのかもしれない。