アラレタマキビ
特徴
(写真:2024年8月中旬、河口付近で採集。殻高約1.2cm。同属の「タマキビ」と比べるとやや小粒で縦長な印象。貝殻表面にはイボ状の突起が段になって多数並ぶ。目盛りは5mm)
レア度:★☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 軟体動物門 腹足綱 吸腔目 タマキビ科 学名:Echinolittorina radiata 英名:? よく見られる季節:?(夏は堤防上で「つま先立ち」している姿をよく見る)
殻高が1cmほどまで大きくなる小型の巻貝。名前が示すよう、「貝のクセに水中にいることを嫌う」という面白い生態を持つ巻貝「タマキビ」の近縁種(嫌っているという表現は正確には少し違うかもしれないが)。
何年も前から「なんかタマキビっぽいけどタマキビではなさそうな巻貝がいるなぁ」とその存在は認識していたのだがが、生物採集に出かけるとつい水中の方へ関心がいってしまい、長年スルーが続いていた。
そして2024年夏。連日最高気温が35℃に迫るという記録的な酷暑…。外出することがすっかりイヤになっていた私の頭の中にふとあるシーンが思い浮かぶ。
「こんだけ暑かったらタマキビたちもつま先立ちしてんだろうな~」
「タマキビ」とは水中から這い出て水の無い場所で暮らす巻貝で(水中にいることもある)、夏場になると水から出たは良いが、出た先の地面が熱過ぎて、その熱さを少しでも和らげるために貝殻の端っこだけを地面にくっつけて、「つま先立ち」のような格好になることがある。
暑くなってから長らく生物採集に行っていなかったし、またその「つま先立ち」のシーンを記録するため重い腰を上げ出かけることにした。
河口付近に到着し、斜めになった堤防壁面を観察すると、海水のしぶきがかかるかかからないかの高さの場所に「タマキビ」のような巻貝が群れているのを発見。お~つま先立ちしてるよ~と近づいてよく見て見ると違和感に気が付く。
「ん?タマキビにしては貝殻が小粒で細長いし、貝殻表面には隆起した肋ではなく小さなイボイボが目立つな…」
それに加えて他の個体の上に登っているものも多く、私の個人的印象になるが今まで浦安見てきた「タマキビ」では、他の個体の上に登っている姿をあまり見ていない気がした。
「これ…アラレ(タマキビ)じゃないだろうか?」
貝類は闇が深い…じゃなかった奥が深い(深すぎる)というイメージが頭に染みついているため、貝類の同定にはいつも不安がつきまとう。とりあえず数個体持ち帰って調べてみることにした。
うん、たぶんアラレタマキビだと思う!!
いかんいかん。半端なことを言ってはいけないので、以下に『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』の『アラレタマキビ』の解説を引用させていただく。
『軟体動物門腹足綱タマキビ科。殻高 1.1cm,殻径 0.9cm。殻は球卵形で厚質堅固,螺塔は円錐形で6階。体層は大きく丸い。殻表は青灰色で,顆粒列の細い螺肋が全面にある。殻口は卵形。殻口内は濃紫褐色で底部に黄色帯がある。外唇は丸く湾曲し,臍孔は軸唇でおおわれない。ふたは卵形,黄色で薄く,少旋型。
北海道南部から九州,中国大陸の岩礁飛沫にすみ,夏季にまわりの温度が上がると,殻の縁で爪立ちして,岩表面から離れ,体温の上昇を防ぐ。夏には潮間帯に降りて,水中にドラム形の浮遊性卵嚢を産む。』
採集した個体はほぼ上記の解説の特徴に当てはまった。また茹でて肉抜きをし、殻口内の底部にある黄色帯も確認できた。私にしては珍しく自信の持てる同定となった(笑)
ちなみに軟体部は薄い肌色の地に、眼の周囲など表面の皮1枚?が灰黒色になっている部分がある。また触角は黄色味がかっており、この2点は浦安で見られる「タマキビ」とは違った特徴だと思った(地域差、個体差によるものかもしれないので注意)。
(2024年8月)
採集する
(写真:2024年8月中旬、河口付近で撮影。コンクリートの熱さから逃れるため「つま先立ち」をしているアラレタマキビ(「タマキビ」も混じっていたらすみません)。さらに他の個体の上に登る個体も多数見られた)
採集はいたって簡単。見つけたら拾うだけ。斜めになっている堤防壁面でよく見かける気がする。
満潮時でも水に浸からない、海水のしぶきがかかるかかからないかの、かなり高い位置にいるので、その存在を知らない人だと見逃してしまうかも。