ガンテンイシヨウジ
特徴
(写真:2022年7月上旬、河口付近で採集。全長約11cm。オスのガンテンイシヨウジ。この個体は赤みがかった明るいオレンジ色をしているが、採集時は暗い赤褐色をしていた。ガンテンイシヨウジというと黄緑色や黒褐色っぽいイメージがあるが、体色にはレパートリーがあるようだ)
レア度:★★★★★ 脊索動物門 条鰭綱 Syngnathiformes ヨウジウオ科 学名:Hippichthys penicillus 英名:beady pipefish よく見られる季節:初夏~夏?
最大で全長20cmぐらいになるヨウジウオの一種。ヨウジウオとはタツノオトシゴ類などが属する「トゲウオ目」の魚で、名前のとおり楊枝、小枝のような細長い体を持つ。そんな中でもガンテンイシヨウジは河口や汽水域、穏やかな内湾、カキ礁などで見られる種らしい。
ヨウジウオ類のオスは体の中間あたりに育児嚢(いくじのう)と呼ばれる、卵を抱えて保護する器官をもっている。メスがオスの育児嚢に卵を産み付け、卵が孵り稚魚が泳ぎだすまでオスが保護する。魚の世界はイクメンが多い。
写真の個体は2022年7月上旬に河口付近で採集したもの。この時、浦安沿岸で中程度の青潮が発生しており、青潮から逃れるようにして水面付近を泳いでいたのを捕獲した。写真の個体と一緒に泳いでいたメス個体も採集することができた(下の写真参照。ペアだったのかな?)。
ガンテンイシヨウジの詳しい特徴については下の写真とその解説文を参照していただきたい。
また以下に、『日本大百科全書』の『ヨウジウオ』の解説を引用させていただく。
『硬骨魚綱 トゲウオ目 ヨウジウオ科 ヨウジウオ亜科 Syngnathinaeに属する魚類の総称、またはそのなかの1種。世界各地の暖海に分布するが、若干の種類は寒帯にも生息する。90メートル以浅の沿岸や汽水にすむが、淡水にもいることがある。世界で230種余りが知られ、そのうち日本からはおよそ42種が記録されている。
体は著しく延長して細長く、完全に骨質板で覆われる。尾部はまっすぐに伸びて曲がらないこと、および尾びれがあるのがタツノオトシゴ類との大きな違いである。吻(ふん)は管状で、その先端に小さな口があり、スポイトのように急に海水とともにプランクトンを吸い込んで食べる。
春から夏にかけて産卵する。雄の胴の腹面または尾部の下面に受精した卵を保護する特別な装置がある。腹面の両側に低い皮褶(ひしゅう)があり、これに挟まれて多数の卵が露出したまま一層に付着したもの、左右の皮褶が合一して完全な育児嚢(のう)を形成し、その中に卵が入れられているものなど、種によってさまざまな形状がある。育児嚢の中の卵は、その組織からある程度の栄養を取り込む。[落合 明・尼岡邦夫]』
(2020年5月)
(2024年2月)
オス個体の頭部周辺を拡大。細長い吻の先に小さな口がちょこっとついている(口は上向きに開くようになっている)。また顔には、眼の後ろ~口先まで薄い黒褐色の太いシマが1本走っており、これだけ見るとタツノオトシゴかヘビのような雰囲気。またエラ蓋後方には透明で小さな胸びれがある。頭部~胴部(躯幹部)体側にかけては少し赤みがかった薄茶色で、暗い緑色?で縁どりされた小さな白い斑点が散らばっている
採集する
(写真:自宅水槽3号内の人口水草に尾を絡ませる、メスのガンテンイシヨウジ)
採集記録を振り返ると、7~8月に三番瀬の岸近くや浦安市内河川の下流~河口域で見つかっている。数は多くないが、1年に1回は採集できている感じ。ガンテンイシヨウジは河口域や汽水域、穏やかな内湾、カキ礁などでられる種だそうだ。
海中にある海藻の塊や漁網などの障害物を、それごとタモ網で掬うとその中から見つかるパターンが多い。青潮が発生すると、青潮から逃れるために水面を泳ぐ姿を見たこともある。
基本的には障害物に寄り添って生活していると思われるので、海藻や漁網、ロープ、などの障害物を見つけたらそれごと網で掬うと良いと思う。
とにかく目視では発見しにくいので、怪しいと思ったポイントをどんどん調べていく。
飼育する
(写真:2022年7月中旬、自宅水槽3号にて撮影。スジエビ類がお腹に抱えている卵を狙うガンテンイシヨウジ。飼育には活餌、生餌が必要なのは知っていたが、スジエビ類の卵にものすごい執着を示していた)
先に紹介した2022年7月上旬に採集したガンテンイシヨウジのペアを自宅水槽3号でしばらく飼ってみることにした。環境は45cm水槽(投げ込みフィルターのみ)、水温25℃ぐらい、比重1.023。混泳生物はスジエビ類と「ユビナガホンヤドカリ」。平和な水槽である。
「ヨウジウオ類はタツノオトシゴ類の仲間」、「ヨウジウオ類は活餌(イサザアミ類やヨコエビ類、カイアシ類など)しか食べない」という風に何だかとてもデリケートな生物をイメージしていたが、ガンテンイシヨウジの場合はそうでもないようだ。
まず水の汚れや高水温にもなかなか強い。また環境の変化に慣れるのもかなり早いと感じた。まぁ採集してきた環境がかなりハードな環境だったので当然か。海藻などに隠れるイメージが強かったが、自分を脅かす存在がいない環境だと、何もない砂の上にドーンと陣取って、ヤドカリなどが自分の体に触れても動こうとしない。この姿には笑った(下の写真参照)。
ただ気の強い魚、ヒレをかじるような生物との混泳には注意が必要だと思う(たぶんそういうのがいると一気に弱者になりそうな雰囲気がある)
餌は確かに、飼育し始めは活餌が必要だと思う。私は初めに冷凍ブラインシュリンプをダメ元で与えてみたがやはり食わなかった。そこで海から採ってきたイサザアミ類や自前で沸かしたブラインシュリンプを与えるとバクバク食う。
ブラインシュリンプのみでいければ飼育も楽だが、このサイズ(全長約11cm)のガンテンイシヨウジにとっては、エサが小さすぎて相当な量をあげないと痩せてしまいそう。イサザアミがベストなのかな? ただ詳しい人によると、ガンテンイシヨウジはヨウジウオ類の中でも生餌、配合飼料に餌付きやすい種だそうだ。
あと餌に関してだと、混泳させていた「ユビナガスジエビ」の卵にものすごい執着を見せ、実際に狙って食っていた。栄養があるもの、美味しい?ものが分かっているのだろう。
そういえばペアで入れていたため、繁殖行動のようなものも見られた。お互いの体を捩じり、こすり合わせ、時々体をビクッと震わせる(上の写真参照)。この行動との前後関係は分からないが、飼育した約3週間ほどの間にオス個体の育児嚢が膨らんで萎むということが3回ほどあった。
育児嚢が膨らんだ時は「もしや稚仔魚が産まれるのか!!??」と期待したが、そのまま何も起こらず育児嚢が萎んでしまう。卵を放棄したのか? 何かの文献で「あるヨウジウオ類のオスは育児嚢内の卵?を自身の栄養のために?吸収してしまうことがある」というのを見たことがあるが、そういうことだったのだろうか?