サヨリヤドリムシ

特徴

(写真:2022年9月下旬に浦安の東京湾側の護岸から釣った「サヨリ」のエラに寄生していた。体長約12mm。写真はメス個体で、反対側のエラには2回りほど小さなオス個体が寄生していた。生きた状態で撮影。目盛は1cm)

レア度:★★★★☆ 節足動物門 軟甲綱 等脚目 ウオノエ科 学名:Anilocra clupei 英名:? よく見られる季節:4~6月、8~10月(ともに「サヨリ」が釣れる時期)

浦安では「サヨリ」釣りが盛んなことは「サヨリ」のページで述べた。私も毎年、春と秋には「浦安釣法」を用いたサヨリ釣りに勤しむが、その際必ず出会うのがこのサヨリヤドリムシだ。名前の通り「サヨリ」のエラに寄生する、ウオノエ科に属する甲殻類である。

今まで私が浦安で釣った「サヨリ」のほぼ全てに寄生していたのでは?と思うほど寄生率は高い。といっても人間に悪さするわけではないし、見方によっては可愛く?見えるその姿から、特段嫌悪するものではなく、釣り人にとっては「サヨリ」とセットのような感覚だ。

ところが「サヨリ」にとっては結構影響があるようで、寄生された「サヨリ」に貧血や栄養障害などを引き起こす場合もあるとか(けど丸々太った春サヨリにも寄生していたが…)。また宿主の「サヨリ」が死ぬと、それを察知してエラから離れ外に出てくるのだが、海でそうなった場合その先はどうするのだろう?(他の生物に食われてお終い?)

サヨリヤドリムシの成体は体長1~2cm程度の乳白色をした等脚類で、見た感じはヒレのついた白いワラジムシのよう。6~7月に親虫から出た幼体(「マンカ幼体」という)は海中で自由遊泳生活をし、その際運よく「サヨリ」に出会えたものは、まず「サヨリ」の体表、そしてエラ内での寄生生活を始める。

普通は左右のエラに1個体ずつ寄生し、2つエラにオスとメスの1ペアで寄生していることが多いが、中には片方のエラに雌雄1個体ずつ寄生しているものもあるらしい。

また最初に寄生した1個体目はオス個体として成長し、2個体目が寄生すると、1個体目のオスはメスへと性転換するとか(これについては本当にそうなのか、そのメカニズムがしっかりと確認できませんでしたので、他の資料も参照してください)。

何とも面白い生態を持ったサヨリヤドリムシ。ではその形態の詳細をじっくり見ていこう(ややグロ注意)。

(2023年8月)

上の写真の個体を腹側から撮影。メスの腹側には「育房」という器官があり、その中で卵や幼生を育てる。このメスの「育房」はパンパンに膨れており、中には幼体が透けて見える。これはもう生まれる寸前なのではないだろうか? ちなみに体がちょっとへの字に曲がるのもメス個体の特徴だそうだ。目盛りは1cm
メス個体を横から撮影。「育房」のパンパン具合がすごい。こんな状態じゃ「サヨリ」のエラへの負担も凄そうだ。目盛りは1cm
メス個体の顔を拡大。顔だけ見ればなかなかキュート…かもしれない
メス個体の顔を横から拡大。眼は複眼のようになっていて、その上をヘルメットのように透明な膜が覆っている。これは「サッパ」の体表寄生する「サッパヤドリムシ」と同じ特徴だ
メス個体の体の前半部を横から拡大。脚は宿主にガッシリと取りつ付くために先端が鉤爪状になっている。また脚の先端は暗褐色に染まっている。これも「サッパヤドリムシ」と同じ特徴である
メス個体の体の後半部を横から撮影
メス個体の体の後半部を拡大
メス個体の「育房」を拡大して見てみる。パンパンに膨れており、中には幼体(マンカ幼体)が透けて見える
「育房」をさらに拡大。すごい数の幼体がギッチリ詰まっている。そういえば昔、この幼体の姿をした生物を単独で採集したことがあったが、正体はコイツだったのかもしれない
こちらは別のメス個体。まだ卵・幼生の発生が進んでいないのか、「育房」は乳白色をしている。生きた状態で撮影。目盛りは1cm
別のメス個体の腹肢、尾節部分を拡大。ウオノエ類ってってけっこう複雑な体のつくりをしている。興味がある人は調べてみて欲しい
そしてこちらがオス個体。メスに比べてかなり小さな体をしており、体は曲がらず真っすぐ(メス個体はへの字に曲がる)。生きた状態で撮影。目盛りは1cm
オス個体の体の前半部を拡大。目盛りは1cm
オス個体の体の後半部を拡大。目盛りは1cm
オス個体を腹側から撮影。脚は7対あるようだ。目盛りは1cm
オス個体の腹肢、尾節部分を拡大。目盛りは1cm
オス個体を横から撮影。何だかシャープなデザインでちょっとカッコいいなと思ってしまった(毒されてますね、ハイ)

採集する

(写真:浦安で釣った「サヨリ」のエラに寄生しているサヨリヤドリムシ。サイズ的にメス個体だろうか。見慣れた光景である)

話は単純で、「サヨリ」を釣ればかなりの高確率で出会える。浦安で「サヨリ」を釣る場合は、高洲や総合公園の海沿いで「浦安釣法」を使って狙うと良い。

またこれは運次第にはなるが、自由遊泳中のサヨリヤドリムシの幼体(マンカ幼体)なら、目の細かいタモ網で生物採集をしていると網に入る可能性もある。

こちらは2023年4月上旬に釣った全長39cmのビッグサイズの「サヨリ」のエラに寄生していた、サヨリヤドリムシのオスメスのペア(左がメスで右がオス)。寄生していた「サヨリ」がデカいだけあってか、サヨリヤドリムシもビッグサイズである(特にメスの方)。目盛りは1mm

こちらは2022年9月下旬に釣った「サヨリ」の体表から採集したウオノエ類の一種。全長約2mm。サヨリヤドリムシのマンカ幼体ではないかと思っている