サッパノギンカ(サッパヤドリムシ)

特徴

(写真:2022年10月中旬、三番瀬で採集した全長約7cmの「サッパ」の背に付着していた。全長約17mm。生きた状態で撮影。目盛は0.5mm)

レア度:? 節足動物門 軟甲綱 等脚目 ウオノエ科 学名:Anilocra clupei 英名:? よく見られる季節:?

2022年10月中旬、三番瀬で採集した「サッパ」(全長7cmほど)に付着していた。この「サッパ」は30匹ほどの群れで泳いでいたのだが、その群れのほとんどの個体の背にサッパノギンカが付着していたように思う。

今回採集した個体はまだ大きさ的に成長途中のものと思われ、過去に私が見たものだと、全長3cmぐらいまで大きくなる。大きくなると体色は灰黒色っぽくなり、もっと丸々太って、頑強な見た目となる。

このサッパのギンカ、以前は「サッパヤドリムシ」と呼ばれており、東京湾奥で釣りをする人間なら一度は見たことがあるかもしれない。もちろん私もかなり前からその存在は知っていた。

釣りの最中だと、そのキモい(あえてここはキモいという言葉を使わせてもらう!)見た目から、すぐに海に投げ捨てられるか、付着されている「サッパ」ごとリリースされることが常のサッパノギンカ。

しかし今回は調査中である。目的や立場が変わると、さして気にも留めなかった存在が、非常に価値のあるもの(ネタ)に見えてくる。

「よっしゃ、ちょっとキモいけど、じっくり観察してみようじゃねぇの!!」

この時はまだサッパノギンカにあんな感情を抱くなんて思いもしなかったワケで…。

つづく

(2023年7月)

腹側から撮影。この拡大率ではまだサッパノギンカのポテンシャルを十分に知ることはできない。目盛りは0.5mm
横から撮影。サッパノギンカは「等脚目」というグループに含まれる生物で、あの水族館で人気のグソクムシや、ダンゴムシなども同じ等脚目の生物だ。等脚目の中のウオノエ科の生物たちは、魚の口の中やエラ、体表などに寄生して体液を吸う寄生虫で、世界に約330種、日本では30種以上が知られているそうだ。目盛りは5mm
魚から引きはがし、平らな面に置くと、脚をバタつかせながら上半身を上に反らせるような動きをとった。まるで鳴き声をあげる怪獣だ。ただしこの状態では移動はできず、もがくのみである

サッパノギンカが寄生していた「サッパ」。背面のエラ蓋の真上と、背びれの前端のあたりに、えぐられたような跡がある。サッパノギンカは口と、先端が鋭い鉤爪状になった脚を使って、サッパにがっしりとしがみつく。けっこうな力を入れないとなかなか剥がれてくれない

さぁ、この画像からがサッパノギンカの魅力本領発揮である!! この画を見た瞬間、失礼ながら真っ先に「アレ」が思い浮かんでしまった

サッパノギンカが頭部を持ち上げた瞬間を撮影。何なんだこの顔は!! 宇宙生命体か!! 黒く大きな眼は昆虫の複眼のような見た目をしており、頭部は透明な厚い膜に覆われているように見える。万人におススメできる画ではないが、グロテスクさと神々しさを同時に感じてしまった。私のイチオシショットである

体の中間部(背面)を拡大。まるで入れ墨のような黒い模様が見られ、それは体の後方に向かって複雑さを増しているように見える。ハリウッド映画に出てくる異星文明の戦士が、体中に施しているタトゥーのようでカッコいいとさえ思ってしまった(私だけ?)
体の後端を拡大。後端(腹尾節というのかな?)は人間の爪のような形状で(多分これは閉じた状態)、そこには工芸品のような緻密な模様が見られる。
次は腹面から見てみる。背面からだと眼は透明な膜にカバーされていたが、こちらからだとむき出しのように見える。そしてちょっと分かりずらいが、腹側には先端が鉤爪状になった脚(胸脚)が折りたたまれるようにして綺麗に並んでいる。目盛りは5mm
脚(胸脚)を拡大。わかるだろうか? 体の中心線から「し」の字が斜めになったような格好で脚が生えている。また脚の先端は鋭く尖り、褐色に染まっている。目盛りは5mm
尾の手前部分の体内は薄い褐色をしており、よく目を凝らすと、そこに直径0.5mmほどの丸い卵のようなものが見える。まだ未成熟な卵なのだろう。目盛りは5mm
後端部を腹側から撮影。目盛りは0.5mm

「サッパ」から引きはがしたサッパノギンカを水に入れると、尾(腹肢と尾肢)をバタつかせて激しく泳ぎ回る。泳ぐスピードはなかなかだが、泳ぐ方向などはあまり制御できないようで、まさに右往左往といった動きをする。これで海中に放り出されたらすぐに魚に食われるだろうな