アナジャコ

特徴

(写真:2022年5月下旬、三番瀬で採集。体長約8cm。この個体はオスで、フクロムシの一種に寄生を受けている。腹側に見える黄土色の梅干しのようなものがフクロムシの一種(の生殖器)。目盛りは5mm)

レア度:★★★★★ 節足動物門 軟甲綱 十脚目 アナジャコ科 学名:Upogebia major 英名:Ghost nipper よく見られる季節:?

最大で体長が10cmほどになる。写真の個体は2022年5月下旬に三番瀬で行われた、干潟観察会で参加者の男の子がタモ網で採集。私は生物採集のときに穴を掘ったり、泥場に行くことが少ないので、なかなか発見できずにいたが、こんな形でアナジャコと出会うことになるとは。少年、グッジョブである。

アナジャコについて語れるほど詳しくないので、以下に『日本大百科全書』の『アナジャコ』の解説を引用させていただく。

『節足動物門 甲殻綱 十脚(じっきゃく)目 アナジャコ科に属するエビ型の海産動物。分類学的には広い意味のヤドカリ類に含まれる。北海道から九州までの内湾にごく普通にみられ、朝鮮半島、中国北部にも分布する。

体長10センチメートルほどで、頭胸甲は前方にとがり、左右の鰓域(さいいき)が膨れている。腹部は幅広く、一見シャコを思わせる。第1胸脚はきわめて不完全なはさみとなっている。

潮間帯から水深20メートルぐらいまでのやや硬い砂泥地に、直径2.5センチメートル、深さ30センチメートルほどの穴を掘ってすむ。産卵の盛期は5月上旬から6月中旬。食用とすることはないが、多産する東京湾、瀬戸内海、有明海などでは、マダイやクロダイ釣りの餌(えさ)とする。[武田正倫]』

この解説では『食用とすることはない』と書かれているが、九州の有明海周辺では割とメジャーな食材だそうで、非常に美味とのこと。

オスとメスの見分けは腹肢(ふくし。体の後方腹側にあるウチワのような部分)の数を見るとわかるそうだ。オスが4対、メスが5対の腹肢をもつとのこと。写真の個体は、腹肢が4対だったのでオスのようだ。

アナジャコはろ過摂食者であり、巣穴の中で腹肢を動かして海水の流れを作り、海水中の有機物など口縁部と第1胸脚に密生する羽毛状の毛で、濾しとって食べているそうだ(飼育下では固形物も色々食べるという話もある)。

ただ、今回採集したアナジャコはちょっと訳アリ。

下の写真を見てもらうとわかるが、この個体はフクロムシにがっつり寄生されている。ちなみにフクロムシとは、主にカニなどの十脚目の腹部に寄生する、甲殻類のことだ。詳しくは後述するが、フクロムシに寄生された生物は、その外見や行動が変化してしまう。今回採集したこのアナジャコも、体色が全体的に黒っぽいし、体も脱皮後のように柔らかく、また行動もどこか不安定な感じだった。

なので、ここに載っている内容は、あくまで「フクロムシに寄生されたアナジャコ」についてのもので、通常のアナジャコとは異なる点が色々あるかもしれないことを予めご了承願いたい。

(2022年6月)

『頭胸甲は前方にとがり、左右の鰓域(さいいき)が膨れている』とのこと
『腹部は幅広く、一見シャコを思わせる』とのこと。たしかに
横から見ると迫力満点。虫嫌いな人には、少々キツイ絵かもしれない。寄生したフクロムシの一種(腹部前方にある袋状のもの)がグロテスクさを際立たせている。目盛りは5mm
第1胸脚はきわめて不完全なハサミとなっている。この大きな第1胸脚で砂をブルドーザーのように押し出す。目盛りは5mm
オスとメスの見分けは腹肢(ふくし。体の後方腹側にあるウチワのような部分)の数を見るとわかるそうだ。オスが4対、メスが5対の腹肢をもつ。写真の個体は腹肢が4対だったので、オスのようだ。目盛りは5mm
頭胸甲は前方にとがり、左右の鰓域(さいいき)が膨れている。なんだかザリガニのような雰囲気がある
腹部はボリュームがあり、古代生物のような質感でカッコいい
顔を正面から。怪獣チックな雰囲気だ
フクロムシの寄生よるためか、体は脱皮後のように柔らかかった
胸脚を腹側から撮影
寄生しているフクロムシ(の卵巣 & 卵)。フクロムシの本体はアナジャコの体内に根を張るように存在している

腹肢(遊泳脚)を拡大。水中ではこれを盛んに動かし、水流を作り出す

フクロムシによる寄生

(写真:カニの腹部(「ふんどし」の内側)に見える黄色い袋が、「フクロムシ」の卵巣と卵)

「フクロムシ」とは他の甲殻類に寄生する甲殻類である。浦安でもフクロムシに寄生されたカニ類を見かけることが時々ある(なかでも「イソガニ」に寄生しているのをよく見る)。

フクロムシはカニの体内に植物の根のように組織を張り巡らし、宿主の栄養を吸い取りながら、自身の卵巣と卵を発達させる。

フクロムシに寄生された宿主は、フクロムシの卵巣と卵をまるで自分の卵のように保護するようになる。例として、オスのカニがフクロムシに寄生された場合、脱皮をするごとに体が徐々にメス化し(ハサミが小さくなったり、「ふんどし」の形がメスのようになったり)、メスが卵を抱えるようにフクロムシの世話するようになる。

実に恐ろしく、よく出来た生物だ(詳しくは「フクロムシ」のページを参照)。

採集する

今は知らないが、浦安でも海底が泥っぽいところで(例えば三番瀬の猫実川河口域など)、たくさん捕れたという話はよく聞く。

私は採集したことがないので、何とも言えないが、海底がやや硬い砂泥の場所で、巣穴を見つけて掘り返せば採集できるのだろうか? 話によれば巣穴はY字型もしくはU字型をしており、深さは最大で2~3mにもなるらしい。

アナジャコを捕まえる方法としては、巣穴に筆を差し込む手法が有名。まずジョレンやスコップで砂を薄く削るように堀り、現れた巣穴に筆を差し込む。そうすると巣穴に侵入した異物を排除しようと、アナジャコが筆先を抱えて押し出そうとするので、ゆっくりと筆を引き抜き、アナジャコの姿が見えたらそれを捕まえるというものだ(私はやったことないんだけどね)。

あとは「ヤビーポンプ」を使用する方法も有名。これは説明するより見てもらった方が早いと思うので、検索してみてください。簡単に言うと、巣穴に長いパイプ状の手押しポンプをぶっ刺して、砂ごとアナジャコやスナモグリを吸い出してしまおうというもの。

※ジョレンや「ヤビーポンプ」は地域によって、使用が制限されている場合があるのでご注意ください

飼育する

(写真:茶色いドリンクビンの中に身をひそめるアナジャコ)

飼育した…と言っていいか分からなかいが、せっかく採集できたので、自宅水槽2号に入れて2週間ほど飼ってみた。ただ、フクロムシに寄生されている「健全ではないアナジャコ」の飼育記録なので、参考になるかは分からない。

環境は水温は24℃、比重1.023、底には田砂を5cmほど敷いてある。混泳生物は「ユビナガスジエビ」「アラムシロ」

初めのうちは落ち着かなそうな様子で、腹肢を盛んに動かしながら、水槽を右往左往していたが(そのためゴミが舞い上がり水が濁る)、しばらくすると投げ込み式フィルターと水槽のカベの隙間でじっとするようになった。

それから何日かすると、投げ込み式フィルターの下の砂をブルドーザーの要領で外に運び出し、できたスペースを根城とするようになった。砂はもっと泥っぽくて固い方が、アナジャコには良いのだろう(田砂はサラサラし過ぎている)。また写真のように、ドリンクのビンの中に隠れることもたま~にあった。

エサだが、当時私はアナジャコがろ過摂食者であることを知らなかったため、貝類のミンチやオキアミのミンチなどの「餌付け初期の鉄板エサ」を与えてしまっていた。もちろん食べてくれるはずもなく、「やっぽり環境が良くないから食べないのかなぁ? それともフクロムシに寄生されてるからか?」と的外れなことを考えていた(ただ他に飼育した人の話によれば、貝類やエビの身なども食うらしい。やはり環境か…)

そうして飼育開始から2週間経つと、衰弱した様子であまり動かなくなってしまった。逃がすことも考えたが、この状態で逃がしてもきっとダメだろうということで、標本作成のため、冷凍庫で安らかに眠ってもらった(すまん)。