キタフナムシ

特徴

(写真:2020年7月中旬採集。体長約4.5cm。浦安の海沿いで最もよく目にするフナムシ。体色にはいくつかパターンがあるようで、この個体は濃い赤茶色をしていた(目盛は5mm))

レア度:★☆☆☆☆ 節足動物門 軟甲綱 等脚目 フナムシ科 フナムシ属 学名:Ligia cinerascens 英名:? よく見られる季節:冬以外?

【この生物の解説動画はこちらから】

どの程度まで大きくなるかは分からないが、私が今まで見た中では体長6cm程度のものが最大か。浦安で見かけるキタフナムシの体色には何パターンかあるようで、今までに黄色味を帯びたもの、暗い赤褐色のもの、灰色のものの3つの体色のキタフナムシを発見したことがある。ちなみにフナムシ類は周りの環境に合わせて、ある程度体色を変化させることができるそうだ。

東京湾奥の沿岸や汽水域、干潟で見られるフナムシのほとんどがこのキタフナムシ。春から秋にかけて海沿いや河口で頻繁に目にし、特に初夏~秋かけて非常に多い印象がある。キタフナムシは植食性が強い雑食性で、基本的には水辺から離れない。なので藻類の生えた護岸やテトラポッドに行くと大量のキタフナムシを見ることができる。

ちなみに短距離なら泳ぐことができ、エラ呼吸(血管鰓という魚のエラとはちょっと違う機構)も行うが、水中にずっといると溺れ死ぬ。キタフナムシの呼吸には適度な湿り気と、空気中の大量の空気が必要なようだ(詳しくは調べてね)。

(追記:2020年12月25日)フナムシの呼吸について少し調べてみた。まずフナムシ類はエラ呼吸で、エラは腹側の体の後方にあり、膜が重なったような見た目をしている。普段は水の外にいることが多いフナムシたちだが、エラ呼吸なので、呼吸するには水分が必要だ。

どのようにして水分を得ているかというと、フナムシの脚に秘密があった。フナムシ類(全ての種類かは分からないが)の一番後ろとその1つ前の脚の表面を電子顕微鏡で観察すると、非常に細かなトゲや突起が規則正しく並んでいるのがわかる。この脚を水に付けると、水がそのトゲや突起の間を登るように移動し、エラへと水分が供給される(毛細管現象のようなものだろうか)。

「じゃあ、ずっと水に浸かっていればいいじゃないか」と思うかもしれないが、水中の酸素だけではフナムシには足りないらしく、湿気を帯びた体を空気中に晒すことによって、必要な酸素量を得ているそうだ。なのでずっと水中に入れおくと、いずれは溺れ死んでしまう。それとフナムシ類(これも全ての種類かは分からないが)は短距離・短時間なら泳ぐことができるが、泳ぎっぱなしだとやはり溺死してしまうそうだ。

東京湾には「フナムシ」という別種もいるが、こちらは内湾部の護岸域や湾口付近に多く、特に磯場で見られるのはほとんどフナムシの方らしい。またフナムシは水辺を離れて山の中や人家に侵入したりもする(○キブリかっ!!)。植食性が強いキタフナムシに対し、フナムシは肉食性が強い雑食だそうだ。そういえば学生時代、地方の田舎の海辺で佇んでいたら、足やお尻がチクチクする。何かと思えばフナムシにかじられていた。

キタフナムシの特徴をフナムシと比較しながら解説する。まずキタフナムシの方が触覚が短い。フナムシの触覚が体の後ろの方まで届くのに対し、キタフナムシの触覚は体の中間に届くか届かないかといったところだ。それに加えて、触覚の鞭節(べんせつ。触覚の先端側の部分)の節の数が違う。キタフナムシは26節前後なのに対して、フナムシは30節を超える(写真のキタフナムシの鞭節数を数えたら、ちゃんと25だった)。

あとわかりやすいのは付属肢(体の後端に4本ある細い針状のもの)の長さだ。キタフナムシの付属肢は体長の1/6ぐらいの長さで、フナムシの半分ほどの長さしかない。これについては実際に両者の写真を見てもらった方が早いだろう。

○キブリのような見た目と動きで、苦手な人にはとことん嫌われているフナムシだが、分類上は甲殻類の中の等脚目というダンゴムシ類やワラジムシ類などが含まれるグループに属している。近年「ダイオウグソクムシ」の登場で市民権を得つつあるこのグループの生物たちだが、フナムシ類が萌えキャラ化する日は当分来ないだろう。

私もその見た目から食わず嫌いならぬ、「触らず嫌い」をしていた生物だが、このページを書くにあたってガッツリ触って至近距離で観察すると嫌悪感がかなり薄らいだ。これより以下、キタフナムシのドアップ画像が続くが苦手な人は戻るボタンを押してね。

(2020年12月)

オスのキタフナムシの頭部。アップでみると○キブリというより、ダンゴムシ的な質感なのがわかる
オスのキタフナムシの尾肢(びし)および付属肢。太く短い尾肢から、2本の針状の付属肢が伸びる。これらは「フナムシ」より短い
サイドから撮影。脚は7対あり、この個体は脚の先端がオレンジになっている(目盛は5mm)
正面から撮影。フナムシ擁護派の98%はまず「眼がつぶらで可愛い」と言う
オスのキタフナムシの腹側。なかなか強烈な見た目だ。脚の1本1本が太く、甲殻類らしさを感じる(目盛は1cm)
オスのキタフナムシの口。どういう構造になっているのだろうか? 口周辺がまるで口紅を塗るのを失敗したかのようにオレンジに染まっている。はっきり言ってグロい
オスのキタフナムシの尾肢(びし)および付属肢
体の腹側の脚のさらに奥をよく見ると、何か膜状の物が重なった構造が見られる。どうやらこれがエラのようだ
写真中央に見える、2本の細く短い突起がオスの生殖器
オスのキタフナムシの触覚。触覚の先端部の鞭節(べんせつ)の節の数を数えることで、「フナムシ」とキタフナムシを見分けることができる(キタフナムシは26節程度)

採集する

(写真:2020年7月下旬採集。体長約4.5cm。上の写真と同時に採集した個体。こちらの個体はややオレンジがかった黄色の体色をしており、背中には黒と白の丸い模様がある。メスかと思ったが、交尾器(第2腹肢内肢)を持ったオスだった)

あまり採集したい人はいないだろうが、一応採集方法について書いておく。

私が行った採集方法は2種類で、1つはタモ網で岸壁にへばりついているフナムシをかき落とすように採集する方法。これは単純で、フナムシがいっぱいくっついている岸壁(なるべく平らな壁が良い)に、フナムシに気づかれないように忍び寄り、射程距離に入ったらタモ網で一気に岸壁をこするようにして採集する。キタフナムシは警戒心もそこそこ高く、動きも素早いので、勝負は一瞬で決める。網に入ったフナムシが逃げ出さないように注意しよう。

そして次は手づかみ。実は写真のキタフナムシはテトラポッドで手づかみで採集したものだ。キタフナムシはテトラポッドの隙間や裏側に身を隠すようにくっついている。人間が近づくとテトラポッドのより奥に逃げようとするが、片手に持った棒などで行く手を封じ、もう片方の手で潰さない程度に一気に押さえ込むようにして掴む。5cmを超える大型のフナムシとのやり取りはスリル満点だ。これができるようになると、何か生物屋として…そして人間として一皮むけたような気がした…。

たぶん死んだ魚などをエサにしたトラップ的なものだと効率よく採集できそうな気がするが、そんなにたくさん集めたくないのは私だけではないはだろう。