イソミミズハゼ?

特徴

(写真:2019年2月下旬、河口付近で採集。全長約6cm。河口付近の護岸上にできた潮だまりの石の下に隠れていた。ただこれが本当にイソミミズハゼなのかわからなくなってしまった…(詳細は本文へ))

レア度:★★☆☆☆ 脊索動物門 条鰭綱 スズキ目 ハゼ科 よく見られる季節:3~11月

(同定に自信がありません。本ページの写真には複数種のミミズハゼ類が含まれている可能性があります。他の資料も参照してください)

このページを最初に作成したのはかなり前のことになるが、今(2024年2月)になって「これ本当に全部イソミミズハゼか? 「ミミズハゼ」も混じってんじゃねぇか? ………正直わからん!!!!」状態になってしまった。

そのためページタイトルを「イソミミズハゼ?」と改め、イソミミズハゼと「ミミズハゼ」両種の特徴を、論文『渋川浩一・藍澤正宏・鈴木寿之・金川直幸・武藤文人「静岡県産ミミズハゼ属魚類の分類学的検討(予報)」『東海自然誌』第12号、2019年、29–96。』より引用させていただくことにした(引用させていただきます。ご迷惑でしたら仰ってください)。

 

まずはイソミミズハゼについて、論文内の『識別形質』と『生息状況』の項を以下に引用させていただく。

識別形質 以下の形質の組み合わせにより,ミミズハゼ種群の他種と区別できる:背鰭総鰭条数 11–14 (通常 12 か 13);臀鰭総鰭条数 12–14(通常 13); 胸鰭条数 18–19;尾鰭分節軟条数 10+8–9(通常 10+9);脊椎骨数 16+19–21=35–37;背鰭基部後端から尾柄部後端までの間の水平長は背鰭基部長とほぼ同長かより短い(Fig. 7B);胸鰭上部の遊離軟条は比較的短く,時に痕跡的』

生息状況 大小さまざまな河川の下流域や,河口周辺の,河川水の影響を強く受ける沿岸海域の潮間帯~潮下帯に生息する.転石が堆積あるいは散在する砂泥~砂礫底に多く,干潮時には,干出した場所の石の下に潜む姿をよく見かける.静岡県内には,下流域の発達程度が低く,瀬が発達した中流域が河口に近接する河川が多くあるが,そうした河川では, 瀬頭となる礫や転石,粗めの砂利が堆積した場所でも採集される.塩分濃度が比較的高い場所でも,わずかにでも淡水が流れ出す排水管等があれば,その 出口周辺でまとまって採集されることがある.大井川や安倍川では下流域の伏流水の湧出部付近でユウスイミミズハゼと同時に採集されることもあるが, 特に伏流水に依存しているわけではない.静岡県ではごく普通種であり,適当な環境さえあれば県内全域で見ることができる.』

 

次に「ミミズハゼ」について、同様に引用させていただく。

識別形質 以下の形質の組み合わせにより,ミミズハゼ種群の他種と区別できる:背鰭総鰭条数 11–14 (通常 12 か 13);臀鰭総鰭条数 12–15(通常 13 か 14);胸鰭条数 16–19(通常 17 か 18);尾鰭分節 軟条数 10+8–9(通常 10+9);脊椎骨数 16–18+20– 22=38–39(多くは 17+21=38);通常,背鰭基部後端から下尾骨後端を通る垂線までの距離(水平長)は背鰭基底長より長い(Fig. 7A);胸鰭上部の遊離軟条は比較的短く(最上の鰭条と隣の鰭条との間の鰭膜の切れ込みの深さが最上の鰭条の長さの半分に達しない),時に痕跡的.』

生息状況 大小さまざまな河川の下流域や,河口周辺の,河川水の影響を強く受ける沿岸海域の潮間帯~潮下帯に生息する.転石が堆積あるいは散在する砂泥~砂礫底に多く,干潮時には,干出した場所の石の下に潜む姿をよく見かける.静岡県内には,下流域の発達程度が低く,瀬が発達した中流域が河口に近接する河川が多くあるが,そうした河川では, 瀬頭となる礫や転石,粗めの砂利が堆積した場所でも採集される.塩分濃度が比較的高い場所でも,わずかにでも淡水が流れ出す排水管等があれば,その 出口周辺でまとまって採集されることがある.大井川や安倍川では下流域の伏流水の湧出部付近でユウスイミミズハゼと同時に採集されることもあるが, 特に伏流水に依存しているわけではない.静岡県ではごく普通種であり,適当な環境さえあれば県内全域で見ることができる.』

 

さらに同文献内のイソミミズハゼの『備考』の項内にも両者の同定に有用な情報が分かり易く記載されていたので、以下に引用させていただく。

『明仁ほか in 中坊(2013)は両種の識別点として唯一,ミミズハゼの尾鰭の縁辺に明瞭な透明域がなく,イソミミズハゼにはそれがある点を示した.本報で観察した標本でも,確かにその傾向は認められ た.』

『本報で示した体形の特徴(とくに尾柄長と背鰭基底長との比率)は,そうした体色変化・変異に惑わされることがない.通 常,かなり明瞭な違いとして現れるため,保存標本をもって厳密に測定せずとも,生時でも見慣れれば両種の識別は容易である.小型個体でもこの差は明瞭だが,脊椎骨数等の情報も加味すると,より確実な同定が可能となる.』

『ミミズハゼとイソミミズハゼは生息環境もやや異なり,同所的に採集される例が少ない.すなわち,ミミズハゼは河川下流域や,海際でもとくに河川水の影響の強い場所に主に見られ,イソミミズハゼは,その名の通り磯場(岩礁性海岸)の砂礫だまりや内湾等,塩分濃度の比較的高い場所に多い.この傾向は流量の少ない小河川が注ぐ沿岸等で顕著に見られ,周辺の岩礁性海岸でイソミミズハゼが優占していても,河川内あるいは河口周辺の河川水が染み出す場所になると,通常,途端にミミズハゼばかりが出現するようになる.規模の大きな河川(例えば 大井川や興津川等)で,河口周辺に広く汽水環境が形成される場所では,周辺海岸にもイソミミズハゼがほとんど見られず,ミミズハゼが優占することが ある.ただし汽水湖である浜名湖でも,とくに海とつながる今切口に程近く塩分濃度の高い湖南部ではイソミミズハゼが多産し,ミミズハゼはまず見られない.このように採集地点の塩分濃度に気を付けていれば,出現する種がどちらであるのかは大まかに見当が付く.』

 

いかかがだっただろうか? 慣れない方には少々難しい文章だったかもしれない。私もぶっちゃけ論文を読むのは苦手である。

私が理解した点をまとめると、イソミミズハゼと「ミミズハゼ」において、①ひれの条数には大きな差異はなくこれだけでの分類は一般人には難しい、②脊椎骨数には違いがあるが、これも私を含める一般人には扱いは難しそう、③体色も参考にはなるが、両種とも同種内で様々な体色変異があり、さらに同個体での体色変化もあるため決定的な分類形質にはならない、④ただイソミミズハゼでは尾びれの縁辺に明瞭な透明域があり、ミミズハゼにはそれが無いという傾向はある

⑤体形の特徴(特に尾柄長と背鰭基底長との比率。イソミミズハゼでは背鰭基部後端から尾柄部後端までの間の水平長は背鰭基部長とほぼ同長かより短い。対して「ミミズハゼ」では通常、背鰭基部後端から尾柄部後端までの水平長は背鰭基底長より長い)は分類形質としてかなり有効、⑥イソミミズハゼと「ミミズハゼ」は生息環境がやや異なり、同所的に採集される例が少ない。「ミミズハゼ」は河川下流域や、海際でもとくに河川水の影響の強い場所に主に見られるのに対し、イソミミズハゼはその名の通り磯場(岩礁性海岸)の砂礫だまりや内湾等、塩分濃度の比較的高い場所に多い。ただ河川内あるいは河口周辺ので河川水が染み出す場所になると、ミミズハゼばかりが出現するケースもある

 

私レベルだとまず⑤の尾柄長と背鰭基底長の比率と、④の尾びれの縁辺の透明域の確認を行い、そこに採集場所の環境と塩分濃度を加味して判断するのが良いかもしれない。基本的に私が採集を行う場所は海際で塩分濃度もほぼ海水のレベル場合がほとんどだが、淡水が護岸から染み出す場所もいくつかあるので(恒常的に染み出しているかは不明だが、雨後は顕著になる)、そこは注意したいと思う。

 

浦安では出現頻度もそこそこ高い割に、そこまで注目されないイソミミズハゼ?だが、こんなにも重厚で奥深い世界だとは…。非常に勉強になった。このような論文をネット上に公開してくださって本当にありがとうございます。もっと詳しく正確に知りたい方は実際に『渋川浩一・藍澤正宏・鈴木寿之・金川直幸・武藤文人「静岡県産ミミズハゼ属魚類の分類学的検討(予報)」『東海自然誌』第12号、2019年、29–96。』を読んでみてください。

 

(以下は浦安で見られるイソミミズハゼ?について書いたものです)

潮が引いた海岸や河口、潮だまりの中にある石を引っくり返すとその下からよく見つかる。特に底面が平になっている石に隠れていることが多い。環境の変化の非常に強く、石の下に残された深さ1cmに満たない水たまりの中でも生存することができる。また真夏でも真冬でも採集することのできるタフでありがたい魚だ。

ミミズハゼという名前の割に、そんなにミミズっぽく思えないのは私だけだろうか? 体型はミミズのように細長く、またウロコを持たず手触りヌルヌルとしている。上から押しつぶされたような頭をしていおり(実際に頭頂部は凹んでいる)、眼はとても小さい。

胸びれは丸いウチワ型で、背びれ、尻びれは体の半分より後ろ側にある。またハゼ科の魚さらしく腹びれは1枚の円形をした吸盤状になっているが、小さいため目立ちにくい。

体色は褐色っぽいものや灰色っぽいもの、白っぽいもの、中には鮮やかな黄色をしたものなど、今までいくつかの体色を確認した。これらは個体による変異の可能性もあるが、生息環境や興奮状態でによる体色変化の可能性もある。実際に採集して水槽で観察すると、体色は黒っぽい色もしくは灰白色に落ち着くものが多かった。

ちなみにイソミミズハゼの幼魚?は全身が真っ黒で、ウナギか何かの幼魚かと勘違いする人が多い(私も最初はそうでした)。

富山県ではミミズハゼ類を「あぶらぎっちょ」や「ベント」などと呼び、素手で捕まえてる遊びがあり(これは面白いので調べてみて欲しい)、さらに食用とするらしい。

(2020年5月)

(2024年2月)

こちらは2020年5月中旬に河口付近で採集した個体。全長約6.5cm。河口の小さな潮溜まりの中にいた。興奮のためか体全体がが黄色になっている。写真上での測定になるが、背鰭基部後端から尾柄部後端までの水平長は背鰭基底長より明らかに長い。さらに採集場所雨水の染み出しがある…「ミミズハゼ」か!? でも尾びれの縁辺に透明域があるように見えるぞ………どっちだーーー!!! 目盛りは5mm
同個体を真上から撮影。目盛りは5mm
上の写真の個体を自宅水槽1号でしばらく飼育してみた。落ち着くと体色が黄色から灰白色に変化した
同個体を正面から撮影。上から押しつぶされたような頭をしていおり(実際に頭頂部は凹んでいる)、眼はとても小さい。よく見ると下アゴ部分にに弓状の筋が数本見られる
こちらは2019年6月上旬に採集したミミズハゼの一種の幼魚と思われる魚。全長約3cm。このようなサイズの個体はみんな真っ黒い体をしている
こちらは2017年4月中旬に採集したもの。全長約6cm。この個体は鮮やかな黄色い体色をしていた

採集する

(写真:2019年1月下旬、河口付近で撮影。河口付近の護岸上の石にあった石をひっくり返すと、その下に3匹のイソミミズハゼ?が隠れていた全長約5cm。)

潮が引いた海岸や河口、潮だまりの中にある石を引っくり返すとその下からよく見つかる。特に底面が平になっている石に隠れていることが多い。環境の変化の非常に強く、石の下に残された深さ1cmに満たない水たまりの中でも生存することができる。また真夏でも真冬でも採集することのできるタフでありがたい魚だ

体がヌルヌルしていて掴みにくいので、水槽用の小さな網などがあると捕まえ易い。

飼育する

(写真:こちらは2020年5月中旬に採集した個体。全長約6.5cm。自宅水槽1号にて。頭頂部が凹んでいるのがわかる)

三番瀬水槽では過去に数回飼育したことがあるが、水槽に入れてもすぐに石の下などに隠れてしまって滅多に出てこない。そのため飼育実態はよく把握できていない。数ヶ月~1年ほどは生存していたので、他の生物が食べ残したエサや水槽内に生えた藻類などを食べていたのかなと想像している。

 

(追記:2020年6月1日)2020年5月中旬に写真の個体を採集できたので、自宅水槽1号で飼ってみた。水温23℃、比重1.024の環境で問題はないようだ。予想通り、基本的には石や構造物の下に隠れていることがほとんど(海底と体が接している場所が落ち着くようだ)。

初めは隔離水槽に入れたが、隠れる場所がなかったり隔離水槽の底面が透けていると落ち着かないようで、そこから逃げ出そうと激しく泳ぐ(実際逃げ出した)。

これらの特徴から当初はデリケートな魚なのかな?と思ったが、何と採集した翌日からエサ(ゴカイのミンチ、冷凍ブラインシュリンプ、クリル)をバクバク食い始めた。ただ食うだけなら問題ないのだが、エサをつまんだピンセットを執拗に追いかけ何度もつつく上、他の生物のエサを奪ったりもする。

先に入居していた、「マコガレイの幼魚」やスジエビ類、「ユビナガホンヤドカリ」は非常に迷惑そうだった。以上の特徴はたまたま私が採集した個体だけなのかもしれないが、イソミミズハゼ?の印象がガラッと変わった出来事だった。