ナミマガシワ(殻幅があり、内側が白銀色の個体)

特徴

(写真:2025年3月下旬、三番瀬で採集。貝殻の幅約2.8cm、殻幅(厚み)約1cm。生きた状態。一枚貝のように見えるが、2枚の貝殻が合わさった二枚貝。見つけた瞬間は「マガキ」か何かの貝殻が変形したものかな? と思ったが、違和感があったので採集して確かめて見ると…目盛りは1cm)

レア度:★★★★★★★★☆☆ 軟体動物門 二枚貝綱 Pectinoida ナミマガシワ科 学名:Anomia chinensis 英名:? よく見られる季節:?

(ちょっと同定に自信がありません。他の資料も参照してください。間違っていたら教えていただけると嬉しいです)

最大で貝殻の幅が5cmほどになる二枚貝。写真の個体は2025年3月下旬に潮が引いた三番瀬の浅瀬で、手のひらサイズの石に付着していたのを採集したもの。発見した際「マガキの変形したもの?…ナミマガシワにしては貝殻に高さがあるな?」と違和感を感じたので、石ごとキープして調べてみることに。

 

そして数日間、石にくっついたまま水槽に沈めておいたが、全く動かない。動かないってことはカサガイ類などの一枚貝ではなさそうだ。また「マガキ」であれば貝殻を開いて呼吸をするはずだが、それも確認できない(後で確認できました汗)。

正体を確認するために石から剥がしてみることに。ナミマガシワは裏側の貝殻(右殻)に丸い大きな穴が開いており、そこからぶっとい足糸で基質に付着している。そのため剥がすときに乱暴にすると、その足糸と一緒に内臓が引っ張られて取れてしまい死んでしまう。そのため殻頂の方から、ステーキナイフを改造した”貝剥がし”を慎重にあてて貝を剥がす(下の写真参照)。

「ポロっ」

意外なほど簡単に取れた。石の凹凸に合わせて貝殻の形状が変化していたためナイフを入れ易かったのも功を奏した。貝の裏面を確認してみると、ナミマガシワの特徴である足糸を出す丸い穴が確認できた。また剥がし方が良かったのか、足糸の先には石灰質の栓のような物体があるのも確認できた(下の写真参照)。

表側の貝殻(左殻)の幅は2.8cmなのに対し、厚さは最も厚い部分で1cm程度と、ナミマガシワにしてはまるっと膨らみが強い気がしたが、思い返してみれば、こんな感じの形状をした死殻をよく海岸で見かけたような。

 

表側の貝殻(左殻)の表面はでこぼこざらざらとしており、何かが表面に付着しているのか、シワや成長肋、放射肋のようなものはほぼ見られない。貝殻の周縁部は半透明でその内側には黄褐色の部分があり、さらにその内側は鈍い銀色。表側の貝殻(左殻)の内側を見て見ると、この個体は前回発見したナミマガシワとは違い、白銀色をしていた。

 

裏側の貝殻(右殻)は白色半透明で、非常に薄く扁平。殻頂より少し下に円形の穴が開いており、そこから足糸を出して岩や護岸に付着する。そして足糸の先端部?には石灰質の栓のような物体が見られた(砂粒を固めたような)。裏側の貝殻(右殻)の本当にびっくりするぐらい薄くて脆い。「これ貝殻です」と言っても信じてもらえなさそうである。

 

この個体は石から剥がした後も元気だったので、水槽に入れて様子を観察してみた。水槽に入れてしばらくすると貝殻をちょびっと(2mm程度)開いた。呼吸をしているのだろうか。刺激には敏感で、指がコツンと水槽に当たるだけで貝殻をパッと閉じるが、すぐにまた開く。

貝殻の開いた部分をよく見て見ると、貝殻の周縁に沿って1~3mm程度の長さの触手を外に向かって伸ばしていた。触手は半透明だが所々に白い模様が見られる(下の写真参照)。足を出して動いたりする様子はないので、水を吸いこんで濾過摂食でエサをとるのだろうか?

 

 

以下に『日本大百科全書』の『ナミマガシワ』の解説を引用させていただく。

『軟体動物門 二枚貝綱 ナミマガシワガイ科の二枚貝。北海道以南、東南アジアまで広く分布し、潮間帯から水深5メートルぐらいの岩礁や他の貝の殻表に固着する。

殻形は付着する基質の型に左右されるため一定しないが、多くは丸みがあり、殻高30ミリ、殻長35ミリ、殻幅4ミリぐらいになり、大形のものは殻長50ミリに達する。

左殻が薄くてやや膨らみ、白、黄、赤、褐色などさまざまで、弱い真珠光沢があり、微細なしわもある。殻表にはしばしば付着している他種の形を写した肋(ろく)などができる。右殻は扁平(へんぺい)で甚だ薄く、石灰質の栓のような足糸の出る穴がある。

死殻が海浜に打ち上げられたようすをカシワの葉に見立てたのが和名の由来である。[奥谷喬司]』

(2025年4月)

数日間、石にくっついたまま水槽に沈めておいたが、全く動かない。動かないってことはカサガイ類などの一枚貝ではなさそうだ
正体を確かめるため殻頂の方から、ステーキナイフを改造した”貝剥がし”を慎重にあてて貝を剥がしてみる
腹面(正面)から撮影。貝殻(左殻)の幅は2.8cmなのに対し、厚さは最も厚い部分で1cm程度と、ナミマガシワにしてはまるっと膨らみが強い気がする。また貝殻はの形状は付着していた石に合わせて大きく変化している。目盛りは1cm
背面(殻頂方向)から撮影。表面はでこぼこざらざらとしており、貝殻の大部分は鈍い銀色をしている。目盛りは1cm
サイドから撮影。貝殻表面にはアオサ類と思われる海藻が付着していた。目盛りは1cm
貝殻の周縁部は半透明でその内側には黄褐色の部分がある。また縁辺には放射肋らしきものが見える
裏側(右殻)から撮影。生きた状態で撮影。殻頂より少し下に円形の穴が開いており、そこから足糸を出して岩や護岸に付着する。貝殻があまりに薄いので、内臓が透けて見える。目盛りは1cm
足糸の先端部?には石灰質の栓のような物体が見られた(砂粒を固めたような)。触ると硬くゴリゴリザラザラとしている
裏側の貝殻(右殻)を拡大
石から剥がした後も元気だったので、水槽に入れて様子を観察してみると、貝殻をちょびっと(2mm程度)開いた。呼吸をしているのだろうか。刺激には敏感で、指がコツンと水槽に当たるだけで貝殻をパッと閉じるが、すぐにまた開く
貝殻の周縁に沿って1~3mm程度の長さの触手を外に向かって伸ばしていた。触手は半透明だが所々に白い模様が見られる。足を出して動いたりする様子はないので、水を吸いこんで濾過摂食でエサをとるのだろうか?
こちらは同個体の中身を取り出し、水で洗って乾かしたもの(中身は飼ってる生物に食べさせた)。目盛りは1cm
ひっくり返してみる。左側は貝殻の内面、左側は外側をこちらに向けている。目盛りは1cm
ナミマガシワといえばこの貝殻内側の美しさ。この個体はシャンパンゴールドをベースにその上に白銀色乗っているという感じ。目盛りは1cm
裏側(右殻)の外側を拡大。ペラペラであるが、蝶番の部分は白く太く硬くなっている。よく見ると貝殻全体に同心円状のスジが見られる。目盛りは1cm
比較として過去に河口付近で採集した「ナミマガシワ」(赤銅色タイプ)。こちらは煎餅のように薄っぺらく、直径も大きい。目盛りは1cm

採集する

(写真:石に付着しているナミマガシワ。どうしてこの場所を選んだのだろう?)

貝殻は三番瀬などの波打ち際でよく見つかるが、生きているものは2025年4月時点で2度しか見つけたことがない。この辺では珍しいのか? と思っていたが、今回の個体を採集して気付いたことがある。「これみたいな平たい貝、何度も見ているような…」

記憶を辿ると、主に護岸上にベッタリと張り付いている光景がいくつか浮かぶ。それまでは「マガキの貝殻が変形したものだろう」とスルーしていたのだが、もしかするとその大部分は今回のようなタイプのナミマガシワだったのかもしれない。

 

ナミマガシワは岩や護岸に非常に強固に付着している+貝殻が薄く割れやすい(特に右殻は非常に薄い)ので、生きたまま採集するのが難しい。しかし今回のように凹凸のある基質に付着しているものなら、剥がすのはそんなに難しくない。

綺麗に剥がすには私が使用したステーキナイフのようなある程度細くて、刃が薄い道具が必要だと思う。カッターの刃のように薄く柔軟性のある道具が良いかもしれない(シーリング工具なんか良さそう)。殻頂の方から刃を入れ、基質と足糸切り離すイメージで行うと剥がれやすいのではないだろうか。

 

余談だが、生きたナミマガシワの貝殻(左殻)の裏面の光沢と美しさは、拾って採集できる貝殻のソレとは比較にならない素晴らしさである。

こちらは過去に河口付近で発見した、ナミマガシワ?のような貝。「マガキ」に混じって護岸に付着していた。当時はカキ類の個体変異かと思ってスルーしていた 
こちらは2022年6月中旬に河口付近で発見したナミマガシワ。水中に沈んだ分厚いコンクリート板の裏面に付着していた。見つけたときは感動したが、同時に「そんなところで生活できるの?」と疑問が湧いた