ムギガイ
特徴
(写真:2024年3月上旬、河口付近で採集。貝殻の長さ約12mm。非常によく動き回る巻貝。刺激を与えると一旦体を引っ込めるが、すぐさま足を伸ばして動き回ろうとする。そのため写真が撮影しにくかった。貝殻の色彩や模様にはかなり個体差があるようだ。)
レア度:? 軟体動物門 腹足綱 吸腔目 フトコロガイ科/タモトガイ科 学名:Mitrella bicincta 英名:? よく見られる季節:春?
殻高13mm、殻径6.5mmほどまで大きくなるそうだ。写真のムギガイは2024年3月上旬に河口付近で採集したもの。水中に沈んでいた漁網に付着していた「マガキ」の貝殻上にくっついていた。全部は数えていないが結構な数がおり、そのうち飼育用に10匹ほど確保。こんなにまとまってたくさん見るのは初めてかもしれない。ちなみにこの時の水温は10℃前後とかなり低い。
ムギガイの形態について『日本大百科全書』の『ムギガイ』の解説を以下に引用させていただく。
『軟体動物門 腹足綱 タモトガイ科の巻き貝。本州から九州、および中国に分布し、潮間帯から水深20メートルの岩礁や砂礫(されき)底にすむ。
殻高13ミリ、殻径6.5ミリに達し、殻は紡錘形で厚質。殻表は平滑で光沢があり、色彩や模様は個体によって著しく変化し、白色から黒褐色までさまざまで、淡色の地に線、不規則な斑(はん)や網目模様を巡らす個体もある。
螺塔(らとう)は円錐(えんすい)形で八階、上方へ細くとがる。体層は殻高の5分の3を占めて大きく、殻口は狭く、内部は白色。水管溝の部分では螺肋(らろく)がある。春から夏に産卵する。[奥谷喬司]』
貝殻は紡錘形で「小さなドリル」という感じ。貝殻は厚く簡単には割れない。貝殻表面はツルツルとしており、水に濡れた状態だと光沢を感じさせ、またその色彩や模様も鮮やかに見える。ただし貝殻を乾燥させるとツルツルというというよりかは深みのある光沢といった感じで、貝殻表面に成長線のような傷?などが目立つ場合もある。たしかに上記の解説の通り、貝殻の模様や色彩は個体によってかなり変化がある(下の写真参照)。
殻口はやや細長い紡錘形で、今回採集した個体の殻口内上部には白い卵塊が見られた(下の写真参照)。
軟体部は肌色の地に、褐色~黒色の斑模様がみられ、模様の密度が高い場所ではそれが太いシマ模様のようにも見える。また触角、水管にも斑模様が見られ、水管の先端より少し下には太いシマ模様が見られる。
このムギガイ非常に動きが活発で、刺激を与えて体を貝殻に引っ込ませさせても、すぐに貝殻から足を伸ばし動き回ろうとする。そのため写真を撮るのにやや苦労した。また体から透明?のよく伸びる粘液を分泌する。
(2024年7月)
飼育する
(写真:2024年5月下旬撮影。自宅水槽5号にて。一か所に固まるムギガイたち。繁殖活動なのか何なのかはよく分からないが、採集した春~初夏までの間はこのような行動がしばしば見られた。ちなみにこの時の水温は23℃ほど)
せっかく数が採れたし無害そうなので、2024年3月上旬から自宅水槽5号で飼育観察している。まぁ飼育っていうほど特別な世話はしていないのだが。ちなみにこの項を書いているのが7月下旬なので飼育開始から約4ヵ月が経ったわけだが、ムギガイたちは健在である。
飼育環境は自宅水槽5号(横幅30cmの虫かご)、水温は20~28℃、比重1.023、混泳生物は小型のヤドカリ類、スジエビ類、ウミニナ類など(他にも一時的に色々入れたが、凶暴そうなのは入れていない)。
一言で言うと、「手間の全くかからないタフな巻貝」である。海水温が10℃ちょいぐらいのときに採集したので、高水温大丈夫かなぁと思ったが杞憂だった。
エサは何を食っているかちゃんと確認できなかったが、水槽には定期的にフレーク(ネオプロス)を撒いていたので、それに準ずるものやデトリタス、他生物の排泄物なんかを食っていたのかもしれない。ちなみに水槽の壁面の茶ゴケは食べてくれなかった(ムギガイは肉食性だとか)。
飼育を開始した3月~初夏ぐらいまでは、水槽中のムギガイが一か所に固まるという行動がしばしば見られた(写真)。それは水槽の壁面だったり、投げ込みフィルターの上だったり、フィルター内部で行われることもあった。
交尾でもしてんのか?と思ったが、じっくり観察してみても身を寄せ合っているだけように見えるし、産み付けられた卵嚢なども確認できない。この行動は暑さが本格化する前、水温が24℃ぐらいまでは見られたように思う。そして現在(2024年7月)は水温が27℃前後と高すぎるためか、そのような行動は見られなくなった。
結局その行動の正体が掴めぬまま、ある日、投げ込みフィルターを掃除のため分解すると、その内部に巻貝のものと思われる卵嚢が多数付着してたのを発見!!(下の写真参照)。
産み付けているシーンを見たわけではないので確証はないが、水槽内でこの狭い場所に入ってこられる巻貝はムギガイだけである。個人的にはムギガイのものと思っているが、いかがだろうか? そしてやはりあの一か所に固まる行動は繁殖行動だったのだろうか…。
そうそう、あとムギガイで驚いたことと言えば、他の貝食性巻貝に狙われない(にくい?)こと。ある時期同じ水槽に貝食性巻貝である「レイシガイ」を入れていた。案の定、同居の「ホソウミニナ」は「レイシガイ」にガンガン食われていたが、ムギガイは全く手を出されない。
手を出さなれないどころか、逆にムギガイが「レイシガイ」に隣接したまま長時間いたり、「レイシガイ」の貝殻に乗っかる始末(「レイシガイ」の貝殻に潜んでいた生物でも食っていたのかな?)。「レイシガイ」の眼中になかったのか、もしかするとムギガイは何らかの忌避物質を出していたり体内に含んでいるのかもしれない。