クロシタナシウミウシ
特徴
(写真:2017年6月採集。大きさ約8cm。頭部に2本の触手と背中に花のような二次鰓(にじえら)が見える)
レア度:★★★★★★★★☆☆ 軟体動物門 腹足綱 後鰓亜綱 裸鰓目 クロシタナシウミウシ科 学名:Dendrodoris arborescens 英名:? よく見られる季節:5~6月
どのくらいまで大きくなるかはよく分からないが、少なくとも8cmほどにはなるようだ。浦安では毎年5~6月になると、カイメン類やアオサ類が付着した岩がある浅瀬でときどき目にする。日本各地に生息しているウミウシで、ウミウシの中ではレア度は低めのようだが浦安ではそこそこレア。それにしても舌を噛みそうな名前である。
「え!浦安にウミウシがいるの!?」と思った人もいるかもしれない。ウミウシと聞くと、綺麗な海にいる色鮮やかなものを想像するが、このクロシタナシウミウシははっきり言って地味である(体の裏側は一面オレンジで派手だが、普段は見えないので…)。
しかもデカい(普通ウミウシといえば、1~5cmぐらいの小さなものをイメージするのではないだろうか)。初めて実物を見ると、ちょっと引くかもしれない。
頭部には2本のツノ状の触覚があり、背中にある花のようなものはエラ(正しくは二次鰓(にじえら)という)。このようにエラが体外に露出しているので「裸鰓目(らさいもく)」というグループに含まれる。
ここで、「そもそもウミウシとは一体何なのか?」という問題に触れたい。これは現在でもどこからどこまでの生物をウミウシと呼ぶのか議論が続いているのだが、簡単に言うと、巻貝類(腹足綱というグループ)の中で、貝殻が退化して小さくなったり消失したものや、体の中に埋没して見えなくなった種類をひっくるめて「ウミウシ」と呼ぶようになったらしい。ちなみにウミウシ類は雌雄同体で、1匹のウミウシがオスメス両方の生殖器官を持っている。
ウミウシはエサを食べるために歯舌(しぜつ)という歯のようなものを持っているものが多いが、クロシタナシウミウシは歯舌を持っていないため「舌無し」の名前が付いた。
またウミウシは種によって食べるエサが決まっており、クロシタナシウミウシはカイメン類を食べるそうだが、どのカイメンを好んで食べるかはよく分からない。また本種は歯舌が無いため、カイメンを吸い込むようにして食べるらしい。
(追記:2024年5月6日)ここ4~5年ぐらいは全く姿を見ていないなぁ。
(2020年1月)
(2024年5月)
採集する
動きの遅い生物なので、見つけて拾うだけ。5~6月にカイメン類やアオサ類が付着したような岩がたくさんあるところを探すと見つかると思う。
ときどき護岸の上でじっとしている個体を見かけることも。ただよく見かける年もあれば、ほとんど見かけない年もある。何故だろう?
飼育する
三番瀬水槽では2~3回飼育したことがあるが、長期飼育には成功していない(2~3ヶ月で死んでしまうケースが多かった)。
以下は全て予想だが、まず1つ目の原因に水質が挙げられる。過去の三番瀬水槽では水換えの頻度が少ない上に、オゾンなども導入していなかったため、クロシタナシウミウシが長期間暮らせる水質ではなかったのだと推測している(それでも一応、他の生物たちは長期間元気に暮らしているのだが)。
というのも、飼育していたクロシタナシウミウシは水槽の壁を水面ギリギリまで登る行動をよくしていた。これは他のウミウシ類にも見られる行動で、水質の合わない環境から逃れるためらしい。
次にエサの問題が挙げられる。本種はカイメン類を食べることは分かっているが、浦安のクロシタナシウミウシがどのカイメンを食べるのかはよく分かっていない。クロシタナシウミウシを採集した場所にあった「オレンジ色のカイメン」を与えたところ、食べるような行動は見せたが、次第に食べ残すようになっていった。これらの要因が栄養不足、体力低下を引き起こし、最終的には死んでしまったのだと思われる。
ちなみにクロシタナシウミウシの性格は穏やか?で、他の生物に危害を加えたり、逆に攻撃されたりするということもほとんどなかった。
また本種や「マダラウミウシ」は水槽に入れると、必ず産卵をした。水槽という非日常環境に入れられると生存の危機を感じ、生殖本能が刺激されるのだろうか。そうだとしたら申し訳ない…。今後ウミウシ類を採集したときは、よく考えてから水槽に入れようと思う。