ヨモギホンヤドカリ

特徴

(写真:2021年3月下旬採集。約3cm(貝殻の大きさ)。名前の通りヨモギ色の体と赤い第2触覚のコントラストが美しい)

レア度:★★★★★ 節足動物門 軟甲綱 十脚目 ホンヤドカリ科 ホンヤドカリ属 学名: Pagurus nigrofascia 英名:? よく見られる季節:晩秋~春?

甲長(ヤドカリの中身の背中の部分の長さ)が1㎝前後まで大きくなる小型のヤドカリ。ちなみにメスよりオスの方が大きくなるらしい。

写真のヨモギホンヤドカリは、2021年の3月下旬に行われた「浦安市三番瀬環境観察館」の三番瀬の生物調査にて観察館のスタッフさんが採集した。三番瀬には他に、「ユビナガホンヤドカリ」「テナガツノヤドカリ」、「ホンヤドカリ」が生息していることは知っていたのだが、ここに来てさらに新たな種を知ることに。さすが専門家の採集能力である。

生息域は北海道南部~九州までと広いが、まだ生息地が少数しか記録されておらず数が固まって見つかる種でもないため、なかなかレアなヤドカリらしい。また本種は夏季には石の下などで「夏眠(かみん)」を行うため、より発見されにくいのかもしれない。

体は「ヨモギ」の名の通り暗い緑色をしている。また脚の先端がオレンジに色づき、その上によく目立つ黒くラインが1つあるのも大きな特徴。また拡大してよく見ると、脚全体やハサミにも小さな黒い点がまばらに散らばっているのがわかる(下の写真参照)。

また赤い触覚(第2触覚)を持つことも特徴として挙げられる。ハサミは右の方が大きく、これは他のホンヤドカリ科のヤドカリと共通する特徴だそうだ。

ヨモギホンヤドカリは特異な繁殖生態を持つ。その生態については以下の解説を引用させてもらった。

『4月から5月にかけ、雄が産卵直前の雌が入っている貝殻をはさみ持つ産卵前ガード行動が観察される。交尾・産卵直後にガード行動は終了する。抱卵雌は4月から2月の間に観察される。抱卵雌の出現時期とその後の卵の発達状態から、主な産卵期は5月で、雌は1年に1回産卵し、約9カ月間という長期にわたって抱卵することが明らかになった、交尾前ガード行動はホンヤドカリ属に普通に見られる行動であるが、長期にわたる抱卵期間は同地に生息する同属他種、あるいは他所に分布する同属のそれと比較しても非常に長く、きわだった繁殖特性といえる。』(五嶋聖治、和田哲 大森寛史 ヨモギホンヤドカリPagurus nigrofasciaの繁殖生態 )

(2021年4月)

真上から撮影。赤い触覚がよく目立つ
水中で見るとハサミや脚に白っぽい毛が生えているのがわかる
自宅で飼育していたら脱皮をした。脱皮したてなのか、硬く状態の良い脱皮殻だったので観察することに
ハサミを拡大。右のハサミの方が大きく、左とのサイズ差はかなりある。ハサミ表面には多数のトゲと毛が生えているのがわかる。またよく見るとハサミの先端部がオレンジがかっている。目盛りは1cm
ハサミとハサミの間には太く短い第1触角が見える(写真中央)
脚の先端がオレンジに色づき、その上によく目立つ黒くラインが1つあるのも本種の大きな特徴

採集する

(写真:驚いて貝殻に隠れるヨモギホンヤドカリ)

私は採集したことがないので詳しくは分からない。

採集したスタッフさんの話によると、ヨモギホンヤドカリは塩分濃度が海に近い場所を好むため、浦安三番瀬の中でも南東方面の東京湾に面し場所の方がよく見つかるとのこと。

また夏季は岩の下などで「夏眠(かみん)」するため、採集するなら秋~春の水温の低い時期がいいそうだ。

※新型コロナウイルスの感染拡大防止、潮干狩り客の急増・そのマナー悪化のため、現在三番瀬(浦安側)は立ち入り禁止が厳重化され、一般の人が入ることはできなくなってしまいました(2021年6月現在)。

飼育する

(写真:自宅水槽にて。うずくまるようにじっとしているヨモギホンヤドカリ。水温が高いためかあまり動かない)

まだ1匹しか飼育したことがないので確かなことは言えないが、おとなしいヤドカリだなという印象を受ける。水温20℃、比重1.023、硝酸塩かなり高めという環境だが特に問題はないようだ。

基本的にあまり動き回らず、物陰に隠れてじっとしていることが多い。同じホンヤドカリ科で浦安の海沿いに大量にいる「ユビナガホンヤドカリ」はエサの匂いを嗅ぎつけると我先にと駆け寄ってきたり、砂の上を歩き回りながら砂中のエサを探すなど活動的だが、それに比べるとかなりおとなしい。

現在(2021年4月)15×30×20㎝ほどの水槽で「ユビナガスジエビ」「イッカククモガニ」と同居させているが、水槽内にヨモギホンヤドカリを攻撃する生物はいないので、何かに怯えておとなしくなっているとは考えにくい。

エサも近くに落としてやらないと中々反応してくれない。何が好物なのかは分からないが、とりあえず粒タイプの配合飼料(日清丸紅飼料「おとひめ EP2」)や冷凍ブラインシュリンプ、アサリのミンチなどは食べてくれた。

せっかく美しい姿をしているのだから、こちらとしてはもっと動き回ってほしいところだが、彼(彼女?)には彼の事情があるのだろう…。

と書いている途中に気付いたのだが、おとなしいというか、もしかしたらもう既に「夏眠」モードだから動きが鈍いのではないのだろうか? 採集した3月下旬の三番瀬の水温は約12℃前後、自宅水槽の水温は現在20℃前後でこれは大体5月~5月下旬頃に相当する。具体的に何度から夏眠するのかは調べてもよくわからなかったが、もしそうなら余計な手出しはせずエサは与えつつもそっと見守ろうと思う。

(追記:2021年5月4日)気温が急上昇した5月2日、自宅水槽の水温も今年最高の23℃に達した。ヨモギホンヤドカリの様子を見ると、以前より殻に深く潜って、その場から一歩も動かない。これが夏眠というやつか! 本当に全く動かないのでちょっと心配になったが、夜にエサをやるとモリモリ食べてくれて一安心。これから気温、水温も上がる一方だがどうなるやら。

2021年5月上旬撮影。夏眠中?のヨモギホンヤドカリ。殻に深く潜り、一日中その場から動かなかった