イシガレイの幼魚

特徴

(写真:こちらは2022年3月下旬に三番瀬で採集した個体。全長約2cm。ごらんの通りとても小さい。目盛りは0.5mm)

レア度:★★★★★★★★☆☆ 脊索動物門 条鰭綱 カレイ目 カレイ科 イシガレイ属 学名:Kareius bicoloratus 英名:Stone flounder よく見られる季節:3~5月

浦安では2月下旬頃から三番瀬などの浅瀬で、写真のような小さな「イシガレイ」の幼魚が現れ出す。かなりの数が三番瀬を中心とした浦安沿岸やって来るようで、タモ網で海底を1回引きずれば必ず1匹は網に入るという日もあるほどだ。ただ近年(2022年頃)は「イシガレイ」の個体数は減少傾向で、「マコガレイ」の方が数が増えているらしい。

文献によれば、12月~2月に産卵が行われ、産卵場は東京湾奥部の三番瀬から稲毛浜周辺にかけて分布する(産卵最適水温は5℃)。卵は分離浮遊卵で、季節風などにより作り出される吹送流により分散し、卵から産まれた稚仔魚は、潮流や潮の干満を利用して浅海域に移動する(ちなみにカレイは生まれた時は普通の魚のように眼が体の両側にあり、水中を漂って生活する)。

そして着底後(カレイの形になり、海底で暮らすようになること)は、三番瀬などの水深2mより浅い海域で、は多毛類、アミ類、端脚類、十脚類、貝類、介形類などを食べ成長する。そうして全長8cmほどになるまで浅瀬で暮らし、それ以降沖の深場に移動していくらしい。

イシガレイの幼魚が成長していくためには、水温、塩分濃度はもとより、潮流や水深、海底の砂の粒度、酸素濃度など様々な要因が上手くマッチングしなくてはいけないようだ。ここまで書いた解説は以下のリンク先をかいつまんだものである。

https://www.maff.go.jp/j/budget/yosan_kansi/sikkou/tokutei_keihi/seika_h26/ippan/pdf/ippan69_02.pdf

なのでもっと詳しく知りたい人は是非とも、リンク先のPDFファイルを読んでみてほしい。この資料がいつ頃作成されたものかはわからないが、東京湾奥の環境も刻々と変化しているので、現在の状況とは多少相違があるかもしれないが、とても参考になるのは間違いない。

イシガレイの幼魚は「マコガレイの幼魚」とよく似ており、一緒に採集されることもあるが、①「イシガレイ」にはウロコがないこと(これは小さなサイズだだとかなり分かりにくい)、②「イシガレイ」の側線(体の中心に尾びれの付け根からエラの上あたりまで走る1本の細い線)はほぼ水平かゆるやかに右上がりになること(「マコガレイ」の側線は胸びれの上あたりで大きく山なりに曲がる)、③「マコガレイの幼魚」の下アゴには目立つ黒斑があるが、イシガレイの幼魚ではそれは見られない、といった特徴で見分ける。

あと個人的には「マコガレイの幼魚」の方が同サイズのイシガレイの幼魚に比べて体高が低く、スマートな体型しているものが多い気がする。

(2020年3月)

(2024年6月)

こちらは2019年3月下旬に三番瀬で採集したもの。全長約2.3cm。私の人差し指と比較するとその小ささが分かると思う
こちらは2022年4月下旬に三番瀬で採集した少し大き目の個体。全長約5cm。同じ場所で採れる「マコガレイの幼魚」と比べて、体高が高く、背びれ・尻びれも高さがあるように思う
同じ個体を真下から見てみる。まだ体が薄いため骨が透けて見える
個人的に顔つきも「マコガレイの幼魚」とはだいぶ違うように思う

採集する

(写真:2019年4月中旬、三番瀬で採集。全長約5cm。イシガレイの幼魚。体色を海底の砂のように変化させている)

3~5月頃に見られる全長5cmぐらいまでイシガレイの幼魚なら採集はそんなに難しくない。イシガレイの幼魚は人が近づくと、ぴゅーっと砂煙を上げながら数m移動し、また砂に隠れる。その砂煙を目印に、「この辺に隠れてそうだな」と思った場所を一気に砂ごと網ですくうと捕れる。

水深が10~20cmぐらいの場所で、偏向サングラスをかけながら行うとカレイを発見しやすい。タモ網はフレームが丈夫でしならず、網枠の先がまっすぐになっているものを使うといい。

また底引き漁業の要領で、海底をタモ網で引きずりながら歩いていると、いつの間にか網に入っていることもある。岩や海藻、海底くぼみなど変化がある場所を狙うのもポイントだ。

また6月以降は「シロギス」釣りの外道として釣れることもある。口が小さいので小さな針にイソメ類を短く付けると良いと思う。

 

(追記:2024年6月6日)2024年の早春~春の三番瀬ではイシガレイの稚魚・幼魚が非常に少なかった。というか私は1匹も見ていない。採れるのは「マコガレイの幼魚」ばかりである。これは一時的なものなのか?それとも…。

飼育する

(写真:マーレ水槽にて。2匹並んだ「イシガレイ」。カレイ類だけあって擬態能力はかなり高く、海底の色彩と自分の体色をそっくりに変化させる)

大きな成魚の飼育経験はない。全長3~13cmほどまでの幼魚、若魚なら三番瀬水槽自宅水槽で何度も飼育を行ってきた。

水温22℃固定で通年飼育可能。また水温15~26℃の範囲での飼育可能も確認。水の汚れにも結構強く、硝酸塩の蓄積も特に気になったことはない。比重は1.023で固定。

タフで飼い易い魚だと思うが、急激な水温の変化や塩分の変化にはやや弱いので、水槽へ入れる際や水換えには注意したい。また水槽には細かな砂を敷いてやった方がストレスが少ないように思う(砂のない水槽で飼ったことがないが)。粒径が1~2mmほどのサンゴ砂でも代用可。

餌付きは良いが、水槽に入れたばかりだと冷凍ブラインシュリンプや釜揚げ桜えびなどの生っぽいものしか食べてくれない。慣れてくれば粒タイプの配合飼料(おとひめ)もガツガツ食べるようになる。

餌付きが悪い場合は生きたゴカイ類をミンチにして与えるとよく食べる。それに徐々に配合飼料を砕いたものを混ぜて与えれば、いずれ配合飼料も食べるようになるだろう。

 

幼魚サイズでの比較だが、「マコガレイの幼魚」と比べて活発で人慣れもし易い(というかめっちゃ人慣れする)。他魚と混泳させても、自分の存在をアピールしてくれるので、展示用に飼うなら私はイシガレイを選ぶかな。どういう理由かは分からないが、体が大きくなると、体を縦にしてヒラヒラと立泳ぎをしながら、水面から口を出してエサをねだるような行動を取る。

ただ混泳には若干注意が必要で、ひれをかじるような魚がいると、ひれがボロボロにされてしまうことがある。私の経験では「イソギンポ」との相性が最悪で、「イソギンポ」がいる水槽のイシガレイはもれなくヒレがボロボロになってしまった。そのため現在では「イソギンポ」との混泳は行っていない。

また今まで色々な生物の混泳を行ってきたが、カレイ類や「マゴチ」など海底の砂地に隠れるような魚類は、いじめ…というか気の強い魚の攻撃対象になり易い。そのような攻撃的な魚が既にパワーバランスを維持している水槽に、後からカレイ類を入れると、すぐに攻撃されまくり最悪命を落としてしまう。

 

また逆にイシガレイもある程度大きくなると(全長6cm~ぐらい?)、小型のエビ類やヤドカリ類などの底生動物を捕食してしまうので注意が必要。中々の素早さで、貝殻の奥に隠れられるより先に「ユビナガホンヤドカリ」の体に食らいつくシーンを見た時には驚いた。