タチウオ
特徴
(写真:2019年11月中旬、高洲の海岸で採集。全長約1m。「指4本クラス」のタチウオ。スケールは30cm定規)
レア度:★★★★★★★★★☆ 脊索動物門 条鰭綱 スズキ目 タチウオ科 学名:Trichiurus japonicus 英名:Largehead hairtail よく見られる季節:10~11月
最大で全長1.5mに達する。釣り人の間ではタチウオの大きさを人間の手の指の本数で表すことも多い。例えばタチウオの体の幅が指3本ぐらいならば「指3本クラス」などと言う。ちなみに写真のタチウオは指4本クラス。
これはタチウオがよく共食いをする魚であり、他のタチウオに尾を食いちぎられて体が短くなったタチウオも頻繁に釣れるため、考え出されたタチウオの測定法ではないかと想像している。指5本クラスを超えるタチウオは「ドラゴン」と呼ばれ、釣り人の憧れとなっている。
その銀色に輝く魚体が「日本刀」を想像させるため「太刀魚」の名前が付いたという説や、水中で体を垂直に立てて泳ぐ姿から「立ち魚」の名前が付いたという説がある(ちなみに獲物を追いかけるときなど横向きに泳ぐときもある)。また魚群探知機に映らない(体を立てているから? 浮袋が小さいから?)、タチウオの大群が現れてはサッとどこかへ行ってしまうことから「幽霊魚」などと呼ばれることもある。
タチウオは沿岸の浅場から水深400mぐらいまでに生息し、一般的に日が明るいうちは深い場所で過ごし、暗くなると浅い場所へ移動するという生活パターンらしい(季節や環境条件、タチウオの成長段階によってはこのパターンに当てはまらないこともある)。
大きな口と鋭いキバが示す通り、魚類やイカ類、エビ・カニ類などを捕食する。ある文献によれば、生まれてから小さなうちはプランクトンや小型の甲殻類を捕食し、その後10~20cmぐらいになると魚を捕食するようになるそうだ。また先にも書いたがタチウオは共食いをよくし、大型のタチウオを捌いたらその中から50cmのタチウオが出てきたという話もある。
東京湾奥でタチウオというと、船釣りもしくは沖堤防など岸から離れた水深の深い場所で釣るイメージがあった。しかし2019年の秋に「浦安で岸からタチウオが釣れている!!」という情報が出回り、私も試行錯誤の末、同年11月にタチウオを釣り上げることができた(実はタチウオを釣ったのはこれが初)。この時は浦安だけでなく東京湾最奥の様々な場所でタチウオが釣れていたようだ。
あまり数は釣っていないので参考程度に聞いてもらいたいが、浦安で釣れるタチウオは、①夕マズメのタイミングでかなり岸の近くまでやってくる(岸から5~20mの範囲)、②時合いが非常に短い(30分~1時間)、③この時期に浦安で釣れるタチウオはサイズが大きく身に脂がかなり乗っている、という傾向があるように感じた。
以下に、『日本大百科全書』の『タチウオ』の解説を引用させていただく。
『硬骨魚綱 スズキ目 タチウオ科に属する海水魚。体は細長くて著しく側扁(そくへん)した帯状で、尾端は細く伸びて糸状となる。背びれは後頭部から尾端までの全背縁に発達しているが、臀(しり)びれは痕跡(こんせき)的、腹びれと尾びれはない。
口は大きく、上下両顎(りょうがく)と口蓋(こうがい)部に鋭い歯を備える。体表には鱗(うろこ)を欠き、ひれを除く全表面がグアニンで覆われるために、美しい銀白色を呈する。
本種の属するタチウオ科は系統的にはサバ科に近縁と考えられ、サワラ型の祖先から体の伸長化に向かって形態が単純化した結果生じた仲間と推定されている。この種族進化の歴史は本種の個体発生に伴う形態の変化のなかにもはっきりとみいだすことができる。
全長1.5メートル。全世界の暖海に生息し、日本では三陸および新潟県以南に主として分布する。瀬戸内海東部域、東シナ海はとくに有名な産地である。
本種は稚魚期には浮遊生活を行い、全長15センチメートルぐらいで沿岸の浅海底に着底する。成魚はやや沖合いの100メートル内外の深い中層に生息し、朝夕の薄明時には海面近くにまで浮上するという日周性の鉛直移動を行う。
近年、水槽内での観察から、通常の遊泳時には、頭を上にした鉛直位で、長大に発達した背びれを波打つことによって姿勢を保つことが確認された。天然において移動するときには斜位または水平位の遊泳姿勢もとることが予想されるが、もっぱら待機の姿勢で上方に近づいた魚などを強大な口で襲って食うようである。魚類、イカ類、エビ類、カニ類など大形の動物を食べ、ときには共食いもする。
漁法は底引網、刺網、釣りなどがある。近年、瀬戸内海では著しい漁獲の増大がみられ、環境の変化、ことに富栄養化に伴う生態系の変化に関連した現象として注目されている。肉は白身で柔らかいが小骨が多い。産卵期の夏季が旬(しゅん)で、塩焼き、照焼き、みそ漬けなど総菜魚として好まれる。かつて体表の銀粉は模造真珠の材料とされた。[沖山宗雄]』
(2020年1月)
(2024年3月)
採集する
(写真:タチウオの顔。銀色の美しさはもちろんのこと、機能美というか、無駄のない捕食に特化した?造形が良い)
個人が採集するなら釣りしかないと思う。タチウオ釣りは釣りの中でも人気が高く(特に関西での人気はすさまじい)、「キビナゴ」などの魚をエサにした浮き釣り、テンヤというオモリと大きな針がついた疑似餌に魚の切り身などを巻いて釣るテンヤの引き釣り、生きた魚をエサにする泳がせ釣り、ルアー釣りと様々な釣り方が存在する。タチウオの歯は非常に鋭く簡単に釣り糸を切り裂いてしまうので、釣り糸の先端(ハリス)をワイヤーに変えたりすることもある。
タチウオフィーバーに沸いた2019年秋の東京湾奥…とうとう浦安の某有名ポイントでもタチウオが釣れ出したという情報を入手し、私も何度か通ってようやく釣ることができた。
東京湾ではタチウオ釣りと言えば船に乗って釣るのが主流で、浦安で陸からタチウオが釣れるなんて今までは考えられなかったことらしい。近年の水温上昇によるものか、それとも偶発的なものなのかは分からないが、釣り人にとってはたまらない出来事であった。
2019年~2021年までの浦安タチウオの傾向として、①夕マズメのタイミングでかなり岸の近くまでやってくる(岸から5~20mの範囲)、②時合いが非常に短い(30分~1時間)、③この時期に浦安で釣れるタチウオはサイズが大きく身に脂がかなり乗っている、が挙げられると感じた(あまり数を釣ったワケではないので参考程度に~)。
また浦安の岸近くにまでやってくるタチウオはそんなに数は多くないと思うので、釣れるか釣れないかは運の要素も大きい。エサでも活き餌でも、ルアーでもテンヤでも釣った人はいたので、自分の信じる釣り方で狙ってみてはいかがだろうか。個人的におススメはサンマの切り身などをエサにしたウキ釣りか、泳がせ釣りかな。
それと私は釣り上げた時の興奮で、誤ってタチウオに指をガブっと思いっきり噛まれ、痛いのはもちろんのこと、タオルで抑えても30分ぐらい血が止まらなかった(笑) みなさんもお気を付けを。
食べる
(写真:皮を炙ったタチウオの刺身)
お惣菜の材料やスーパーの鮮魚コーナーでも比較的よく目にする非常に味の良い魚。脂の乗りが良く、甘みのある白身でどんな料理にも合うと思う。
自分で釣る前にも、刺身や塩焼きで何度か食べたことがあったが、自分で釣ってキチンと処理をした旬のタチウオは別次元の美味さだった。過去に食べた刺身ベスト10に入るレベルだ。
特に1日寝かせてから皮を炙った刺身は最高だった。炙ったことで硬いタチウオの皮も食べやすくなり、口に入れると皮の香ばしさと濃い甘み、旨味が口に広がる。きっと日本酒のぬる燗が合うだろう。「(刺身は)そんなに量は食べれないだろう」と、釣ったタチウオの半分を塩焼きと干物にしてしまったことを後悔したほどだ。
次の秋が待ち遠しい。