ナベカ

特徴

(写真:2018年12月下旬撮影。全長約6cm。いつどこで採集したものかは忘れてしまった。浦安周辺では珍しい派手な体色をした魚で水槽映えし、またその仕草さの可愛さから人気の高い魚だ)

レア度:★★★★★★★☆☆☆ 脊索動物門 条鰭綱 スズキ目 イソギンポ科 学名:Omobranchus elegans 英名:Elegant brenny よく見られる季節:6~9月

全長10cmほどまで大きくなる。浦安では珍しい派手な体色を持つ魚。英名が「Elegant brenny(エレガント ブレニー)」というのも頷ける。タ○ガースファンにはたまらない見た目かもしれない。

浦安では初夏~秋にかけて、岩が組まれたゴロタ場やカキの貝殻たくさん付着した垂直護岸などでときどき目にする。タモ網採集ではあまり頻繁に姿を見かける魚ではなく採集できる機会も少な目だが、夏季に泳いで水中を覗いてみた際、岸のすぐ近くの転石帯にけっこうな数がいたのが印象的だった。

頭部~体の中間にある黒い横シマは、眼をシマ模様で隠して外敵から守るためだと考えられている(よく見ると目の中までシマ模様になっている)。このようなシマ模様で眼を守っている魚は結構いる。しかし黄色い体色はどういう目的があるのだろうか? 逆に目立ってしまいそうだが…。。

産卵期は春~初夏にかけてで、岩に空いた穴や貝殻の中に卵を産み、オスが孵化するまで卵を保護する。オスは孵化した稚魚を口にくわえて、巣の外にプッと吐き出す。魚界のイクメンの鏡である。またオスは繁殖期になると頭が黒く変色する。

食性は雑食性で、ゴカイ類や小型の甲殻類、藻類など様々なものを食べるようだ。

 

以下に、『日本大百科全書』の『ナベカ』の解説を引用させていただく。

『硬骨魚綱 スズキ目 イソギンポ科に属する海水魚。北海道南部から九州に至る日本各地、朝鮮半島南部、中国の山東半島に分布する。

体も頭もよく側扁(そくへん)する。頭の背縁は丸く吻(ふん)部ではほとんど垂直である。頭には皮弁がない。体は黄色で、体の前半部に数本の特徴的な黒褐色の横帯がある。

潮だまりや沿岸の岩礁域に生息するが、河口域でもみられる。体長8センチメートルぐらいになる。雌はオオヘビガイの殻、石の穴、ホース、空き缶など管状物に卵を産む。雄はこれを保護する習性があり、管状物から頭だけを出して警戒しているのをよくみかける。[尼岡邦夫]』

(2020年5月)

(2024年4月)

ナベカの頭部周辺。頭部~胸びれの後ろあたりは、薄い桃色の地に暗褐色~黒色の横シマが入る。よく見ると目の中までシマ模様になっており、これはシマ模様で眼を隠して眼を外敵から守るためものと考えられている
体の後半部。鮮やかな黄色をしており、丸い小さな黒点が散らばる

こちらは2022年9月上旬に河口付近で採集した個体。全長約6cm。青潮が発生しており、それから逃れるように垂直護岸に張り付いていたものを捕まえた。目盛りは5mm

同個体を真正面から撮影。体は平べったいが、頭部は角の丸いひし形のような形。口は小さく顔のかなり下方についている。上下のアゴの奥の方には1対の大きな犬歯を備えている(そういえばまだ噛まれたことないな)。目盛りは5mm
頭部周辺を拡大。この何かもの言いたげな表情がナベカの魅力の1つだと思う。目盛りは5mm
体の中間部を拡大。目盛りは5mm

体の後半部と尾びれを拡大。なかなか特徴的な形状の尾びれだとおもう。トゲトゲっぽい扇形というか。目盛りは5mm

こちらは2017年6月中旬に河口付近でさいしゅうした個体。全長約4cm。腹が膨れ肛門が赤くなっている。産卵を控えたメスだろうか?

こちらは2024年7月上旬に三番瀬で採集した個体。全長約6.5cm。飼育するつもりで採集したのだが採集後の扱いが悪く死んでしまった(すまぬ…)。繁殖期のオス個体だったのかは不明だが、頭頂部が山なりに張り出し、体色も頭部の一部と体側全体が藍色に変化していた。目盛りは5mm

同個体の頭部周辺を拡大。目盛りは1cm
同個体の体の後半部を拡大。体は星空のような色彩をしていて美しい。どういう理由でこの体色になっていたのか…。目盛りは1cm

同個体の口を拡大。ナベカは上下のアゴに櫛状の歯と犬歯を一対ずつ持っている(下アゴの犬歯は長大で目立つが、上アゴのものは小さく目立たない)

同個体の顔を正面から撮影。体は強く側偏している
同個体を腹面から撮影。腹びれは「ひれ」というより皮弁のような感じだ。目盛りは5mm
腹面の後半部を撮影。目盛りは5mm

採集する

(写真:2022年10月上旬、日の出の海岸の水中を観察していた際に発見したナベカ(写真中央)。全長約6cm。ごらんの通り、このような岩が入り組んだ場所にいるので、タモ網での採集はなかなか難しい)

見た目の派手さとその飼い易さから是非とも捕まえたい魚なのだが、私の採集するエリアではたま~に採れる程度。海水の暖かい時期に泳いで海の中を覗いてみると結構たくさん目にするのだが、人間が近づくとすぐに岩陰などに隠れてしまうのでタモ網での採集はなかなか難しい。

私が今まで採集できたのは、①凹凸のない垂直護岸の上で佇んんでいたものをタモ網で、②水中に沈んでいた障害物(漁網や海藻)をタモ網で掬うとその中に隠れていた、の2パターンである。

もっと捕まえたいので色々と方法を試してみた。まず極小の釣り針(タナゴ針)を使って穴釣りをしてみたが釣れない。ペットボトルトラップ(びんどう)を仕掛けてみたが入らない(たぶん何かが間違っているのだろう…)。泳ぎながら採集用に改造したミニタモ網を振るってみるも不発(何かいい方法をご存じでしたら教えてください…)。

そういえば以前あまりにもナベカを捕まえたくて、大きなタモ網を抱えて長時間水中をのぞき込みながら岸壁を歩き続けた結果、腰痛になってしまったことがあった。

飼育する

(写真:2021年1月上旬撮影。全長約7cm。巣穴(石に開いた穴)から顔をのぞかせるナベカ。このナベカは採集してマーレ水槽で飼育を開始してから3年以上経つ)

水の汚れや高水温にも強く、餌付きも良いので飼い易い魚だと思う。配合飼料もよく食べる。お気に入りの隠れ家を見つけると、そこからヒョコっと頭だけ出す姿は実に愛らしい。鮮やかな体色で水槽映えも抜群。まさに水槽のアイドルだ。

飼育においてナベカの一番のメリットは、「どんな生物とでも上手く共存できる」という点だと思う。様々な生物を狭い空間で混泳させる三番瀬水槽では、どうしても生物間のヒエラルキーが形成されやすく、争いや強者による一方的な攻撃等が発生し易い。「コイツとコイツはダメ」、「コイツがいると新しい生物は入れられない」ということもしばしば。

そんな中ナベカは、魚類だけでなく様々な生物たちと一緒に長期間暮らすことができる。ナベカ自体もかなりのタフさと気の強さを持つが、他社を排除するような行動を取ることは稀で、また口が小さいため強力な捕食者にもなりにくい。

加えて水槽内に自分より強者がいる場合は、それを刺激しないようにしつつも自分のテリトリーは確保するという世渡り上的な面を持つ。

しかし欠点もある。同種…ナベカ同士だと非常に激しく争うケースがあるのだ。過去にマーレ水槽(90cm水槽)に2匹のナベカを入れたことがあった。その翌日水槽を見て見るとナベカが1匹しかいない。「そんなにすぐいなくなるような魚ではないはずだが…」と思っていると、オーバーフローの三重管から転落し、ろ過マットに横たわるもう1匹のナベカの姿が…!!

すぐさま救出し再び水槽に入れた途端、先に水槽にいた1匹がそれを激しく追い立てる。追い立られた方は水面から飛び出す勢いだ。これはアカンということで、もう1匹の方は海にお帰り頂いた。

こちらは「浦安市三番瀬環境観察館」で飼育されていたナベカ。全長約8cm。だいぶ昔からこの水槽にいるので老成した個体だと思う。貫禄がある
この仕草、表情が可愛らしい