イソミミズハゼ

特徴

(写真:2024年5月下旬、三番瀬で採集。全長約5.5cm。死直後に撮影)

レア度:★★★★☆☆☆☆☆☆ 脊索動物門 条鰭綱 スズキ目 ハゼ科 学名:Luciogobius martellii 英名:? よく見られる季節:?

全長9cmほどまで大きくなる。

このHPに初めてイソミミズハゼのページを作成したのは2020年のことになる。それから自分なりに拙い知識・経験を統合した結果、「この辺りで採集されるミミズハゼ類はイソミミズハゼ一択!!」と思い込んでいた(いけませんね)。

ただ2024年冬にふと「今まで捕まえてきたのは本当に全部イソミミズハゼなのだろうか? 「ミミズハゼ」も混じってるんじゃないのか? 大雨が降れば塩分濃度も大分下がるし、淡水が染み出すような場所もいくつかある…」との疑問が頭に浮かぶ。

そしてそれから”本当のイソミミズハゼ”探しが始まった。そして2024年5月下旬の三番瀬で「これはおそらくたぶんイソミミズハゼでしょう!!」という個体を採集することができ、このページの作成するに至った(写真の個体)。

 

採集した個体の特徴を述べる前に、まずイソミミズハゼと「ミミズハゼ」両種の特徴を、論文『渋川浩一・藍澤正宏・鈴木寿之・金川直幸・武藤文人.2019.静岡県産ミミズハゼ属魚類の分類学的検討(予報).『東海自然誌』,第12号:29–96。』より引用させていただくことにした(引用させていただきます。ご迷惑でしたら仰ってください)。

 

まずはイソミミズハゼについて、論文内の『識別形質』と『生息状況』の項を以下に引用させていただく。

識別形質 以下の形質の組み合わせにより,ミミズハゼ種群の他種と区別できる:背鰭総鰭条数 11–14 (通常 12 か 13);臀鰭総鰭条数 12–14(通常 13); 胸鰭条数 18–19;尾鰭分節軟条数 10+8–9(通常 10+9);脊椎骨数 16+19–21=35–37;背鰭基部後端から尾柄部後端までの間の水平長は背鰭基部長とほぼ同長かより短い(Fig. 7B);胸鰭上部の遊離軟条は比較的短く,時に痕跡的』

生息状況 大小さまざまな河川の下流域や,河口周辺の,河川水の影響を強く受ける沿岸海域の潮間帯~潮下帯に生息する.転石が堆積あるいは散在する砂泥~砂礫底に多く,干潮時には,干出した場所の石の下に潜む姿をよく見かける.静岡県内には,下流域の発達程度が低く,瀬が発達した中流域が河口に近接する河川が多くあるが,そうした河川では, 瀬頭となる礫や転石,粗めの砂利が堆積した場所でも採集される.塩分濃度が比較的高い場所でも,わずかにでも淡水が流れ出す排水管等があれば,その 出口周辺でまとまって採集されることがある.大井川や安倍川では下流域の伏流水の湧出部付近でユウスイミミズハゼと同時に採集されることもあるが, 特に伏流水に依存しているわけではない.静岡県ではごく普通種であり,適当な環境さえあれば県内全域で見ることができる.』

 

次に「ミミズハゼ」について、同様に引用させていただく。

識別形質 以下の形質の組み合わせにより,ミミズハゼ種群の他種と区別できる:背鰭総鰭条数 11–14 (通常 12 か 13);臀鰭総鰭条数 12–15(通常 13 か 14);胸鰭条数 16–19(通常 17 か 18);尾鰭分節 軟条数 10+8–9(通常 10+9);脊椎骨数 16–18+20– 22=38–39(多くは 17+21=38);通常,背鰭基部後端から下尾骨後端を通る垂線までの距離(水平長)は背鰭基底長より長い(Fig. 7A);胸鰭上部の遊離軟条は比較的短く(最上の鰭条と隣の鰭条との間の鰭膜の切れ込みの深さが最上の鰭条の長さの半分に達しない),時に痕跡的.』

生息状況 大小さまざまな河川の下流域や,河口周辺の,河川水の影響を強く受ける沿岸海域の潮間帯~潮下帯に生息する.転石が堆積あるいは散在する砂泥~砂礫底に多く,干潮時には,干出した場所の石の下に潜む姿をよく見かける.静岡県内には,下流域の発達程度が低く,瀬が発達した中流域が河口に近接する河川が多くあるが,そうした河川では, 瀬頭となる礫や転石,粗めの砂利が堆積した場所でも採集される.塩分濃度が比較的高い場所でも,わずかにでも淡水が流れ出す排水管等があれば,その 出口周辺でまとまって採集されることがある.大井川や安倍川では下流域の伏流水の湧出部付近でユウスイミミズハゼと同時に採集されることもあるが, 特に伏流水に依存しているわけではない.静岡県ではごく普通種であり,適当な環境さえあれば県内全域で見ることができる.』

 

さらに同文献内のイソミミズハゼの『備考』の項内にも両者の同定に有用な情報が分かり易く記載されていたので、以下に抜粋引用させていただく。

『明仁ほか in 中坊(2013)は両種の識別点として唯一,ミミズハゼの尾鰭の縁辺に明瞭な透明域がなく,イソミミズハゼにはそれがある点を示した.本報で観察した標本でも,確かにその傾向は認められ た.』

『本報で示した体形の特徴(とくに尾柄長と背鰭基底長との比率)は,そうした体色変化・変異に惑わされることがない.通常,かなり明瞭な違いとして現れるため,保存標本をもって厳密に測定せずとも,生時でも見慣れれば両種の識別は容易である.小型個体でもこの差は明瞭だが,脊椎骨数等の情報も加味すると,より確実な同定が可能となる.』

『ミミズハゼとイソミミズハゼは生息環境もやや異なり,同所的に採集される例が少ない.すなわち,ミミズハゼは河川下流域や,海際でもとくに河川水の影響の強い場所に主に見られ,イソミミズハゼは,その名の通り磯場(岩礁性海岸)の砂礫だまりや内湾等,塩分濃度の比較的高い場所に多い.この傾向は流量の少ない小河川が注ぐ沿岸等で顕著に見られ,周辺の岩礁性海岸でイソミミズハゼが優占していても,河川内あるいは河口周辺の河川水が染み出す場所になると,通常,途端にミミズハゼばかりが出現するようになる.規模の大きな河川(例えば 大井川や興津川等)で,河口周辺に広く汽水環境が形成される場所では,周辺海岸にもイソミミズハゼがほとんど見られず,ミミズハゼが優占することが ある.ただし汽水湖である浜名湖でも,とくに海とつながる今切口に程近く塩分濃度の高い湖南部ではイソミミズハゼが多産し,ミミズハゼはまず見られない.このように採集地点の塩分濃度に気を付けていれば,出現する種がどちらであるのかは大まかに見当が付く.』

 

いかかがだっただろうか? 慣れない方には少々難しい文章だったかもしれない。私もぶっちゃけ論文を読むのはかなり苦手である。

私が理解した点をまとめると、イソミミズハゼと「ミミズハゼ」において、①ひれの条数には大きな差異はなくこれだけでの分類は一般人には難しい、②脊椎骨数には違いがあるが、これも私を含める一般人には扱いは難しそう、③体色も参考にはなるが、両種とも同種内で様々な体色変異があり、さらに同個体での体色変化もあるため決定的な分類形質にはならない、④ただイソミミズハゼでは尾びれの縁辺に明瞭な透明域があり、ミミズハゼにはそれが無いという傾向はある

⑤体形の特徴(特に尾柄長と背鰭基底長との比率。イソミミズハゼでは背鰭基部後端から尾柄部後端までの間の水平長は背鰭基部長とほぼ同長かより短い。対して「ミミズハゼ」では通常、背鰭基部後端から尾柄部後端までの水平長は背鰭基底長より長い)は分類形質としてかなり有効。

⑥イソミミズハゼと「ミミズハゼ」は生息環境がやや異なり、同所的に採集される例が少ない。「ミミズハゼ」は河川下流域や、海際でもとくに河川水の影響の強い場所に主に見られるのに対し、イソミミズハゼはその名の通り磯場(岩礁性海岸)の砂礫だまりや内湾等、塩分濃度の比較的高い場所に多い。ただ河川内あるいは河口周辺ので河川水が染み出す場所になると、ミミズハゼばかりが出現するケースもある

 

以上を踏まえて写真の個体を詳しく見てみた結果、まず①各ひれの条数は背びれ:12、胸びれ:18、臀びれ:12 or 13 であり、これはイソミミズハゼ、ミミズハゼ両者の識別形式に当てはまる。

次に④尾びれ後縁の透明域の有無だが、これはガッツリ透明域が確認できた。そして⑤尾柄長と背鰭基底長との比率は、ほぼ同じ長さかわずかに尾柄長の方がが長いという結果だった。

これらの結果に加え採集場所の塩分濃度はほぼ海水ということから、本ページの写真の個体をイソミミズハゼと同定した………同定した、がいかがだろうか(汗) なかなか思ったような明確な違いが出ないものだなぁと思う。経験がものを言う世界なのだと実感した。

 

もっと詳しく正確に知りたい方は実際に『渋川浩一・藍澤正宏・鈴木寿之・金川直幸・武藤文人「静岡県産ミミズハゼ属魚類の分類学的検討(予報)」『東海自然誌』第12号、2019年、29–96。』を読んでみてください。

 

(以下は過去に、浦安で見られるイソミミズハゼ?について書いたものです)

潮が引いた海岸や河口、潮だまりの中にある石を引っくり返すとその下からよく見つかる。特に底面が平になっている石に隠れていることが多い。環境の変化の非常に強く、石の下に残された深さ1cmに満たない水たまりの中でも生存することができる。また真夏でも真冬でも採集することのできるタフでありがたい魚だ。

ミミズハゼという名前の割に、そんなにミミズっぽく思えないのは私だけだろうか? 体型はミミズのように細長く、またウロコを持たず手触りヌルヌルとしている。上から押しつぶされたような頭をしていおり(実際に頭頂部は凹んでいる)、眼はとても小さい。

胸びれは丸いウチワ型で、背びれ、尻びれは体の半分より後ろ側にある。またハゼ科の魚さらしく腹びれは1枚の円形をした吸盤状になっているが、小さいため目立ちにくい。

体色は褐色っぽいものや灰色っぽいもの、白っぽいもの、中には鮮やかな黄色をしたものなど、今までいくつかの体色を確認した。これらは個体による変異の可能性もあるが、生息環境や興奮状態でによる体色変化の可能性もある。実際に採集して水槽で観察すると、体色は黒っぽい色もしくは灰白色に落ち着くものが多かった。

ちなみにイソミミズハゼの幼魚?は全身が真っ黒で、ウナギか何かの幼魚かと勘違いする人が多い(私も最初はそうでした)。

富山県ではミミズハゼ類を「あぶらぎっちょ」や「ベント」などと呼び、素手で捕まえてる遊びがあり(これは面白いので調べてみて欲しい)、さらに食用とするらしい。

(2024年8月)

上の写真の個体の頭部周辺を拡大。上から押しつぶされたような頭をしており、下アゴの方が上アゴより前に突き出る。よく見るとなかなか美しい眼をしているなお前
胸びれ周辺を拡大。この個体は胸びれの縁辺が白っぽくなっていた
胴部を拡大。ウロコは無くヌルヌルとした手触りをしている
体の後半部を拡大。各ひれの条数は背びれ:12、胸びれ:18、臀びれ:12 or 13 であり、尾びれ後縁にはハッキリとした透明域が見られる。尾柄長と背鰭基底長との比率は、ほぼ同じ長さかわずかに尾柄長の方が長かった
前方から胸びれを拡大して撮影。胸びれ上部には短い遊離軟条が見られる
尾びれを拡大
同個体を真上から撮影
頭部周辺を真上から撮影
胴部を真上から撮影
体の後半部を真上から撮影
同個体をひっくり返して真上から撮影。エラと血管の赤色と腹膜の銀色が透けて見える
頭部周辺を腹面から撮影
胴部を腹面から撮影
体の後半部を腹側から撮影
よく見ると腹面の胸びれと胸びれの間あたりに丸い小さな吸盤状の腹びれがあるのが確認できる
正面から撮影。顔は少しゴツゴツとした感じ。頭頂部は窪んでいる