ヒモハゼ

特徴

(写真:2024年4月中旬、三番瀬で採集。全長約5cm。「ハゼ」とは名が付いているもののハゼっぽくない見た目である)

レア度:★★★★★★★★☆☆ 脊索動物門 条鰭綱 スズキ目 ハゼ科 学名:Eutaeniichthys gilli 英名:? よく見られる季節:初夏?

全長5cmほどまで大きくなるそうだ。写真のヒモハゼは2024年4月中旬に「浦安市三番瀬環境観察」のスタッフさんが採集したもの。ヒモハゼを見たのはいつ以来だろう…。

三番瀬浦安側は北西(猫実川河口方面)に行くほど海底が泥っぽくなり、泥干潟に生息するような生物が現れるようになる。採集では観察館から南東方面に進むことが多いのだが、今回は逆方向(北西)にも行ってみたところ、ポツポツとヒモハゼが採れたそうだ。

ヒモハゼは「アナジャコ」「二ホンスナモグリ」などの甲殻類が海底に作った巣穴を、住処や産卵場所として利用する習性がある。「アナジャコ」が出現しやすいのは北西方面だ。あちら側を重点的に探せばもっと見つかるのだろうか。でも潮が引きにくいんだよねあっちは。ちなみにヒモハゼは「準絶滅危惧」に指定されている。

 

さてヒモハゼの体を見てみよう。名前の通り「紐」をイメージさせるのような細長い体を持ち、体の断面は楕円~円形をしている。知らない人が見たら「ウナギ!?アナゴの稚魚!?​」と言ってしまいそうな見た目だ(かつて私もそうでした)。

頭部は少し潰れたようで、眼は大きく、吻が分厚くて口を閉じているとどこが口の裂け目なの分かりづらい。また顔は正面から見るとヘビっぽいというかトカゲっぽいというか(下の写真参照)。

次にひれに注目してみると、まず胸びれは丸いウチワ型。腹びれは他のハゼ類同様、1枚の丸い吸盤状になっておりこれで水槽のガラス面などにくっつくことができる。背びれは2基あるが、第1背びれは非常に小さく(3棘しかないそうだ)、第2背びれは長く、胴部の丁度中間あたりから立ち上がり尾柄部手前まで続く。

臀びれは第2背びれの基部よりだいぶ後方にある。尾びれは横長の楕円形をしており、中心に黒色のラインが入る。また全てのひれは白色半透明をしている。

体色は背側~体側の上半分が暗いオリーブ色で、そのすぐ下の体側中心には黒色斑が密集して連なってできた太く黒いラインがあり、これがよく目立つ。そして体側の下側は半透明をしているが、内臓がある部分は腹膜なのか白銀にを呈している。

魚体を腹面(裏側)から見ると、そのような色素は見られず、内臓が透けて見える(今回採集した個体はだが)。ただこれらの体色は周囲の環境や魚の状態によって若干変化するようである(下の写真参照)。

 

そういえば採集したヒモハゼは抱卵しており、採集のストレスによってか卵を排出した。卵は直径0.5mmに満たないほどの大きさで、筋子のようなオレンジ色をしていた。下に拡大写真を載せてあるので興味のある人は見て欲しい。繁殖期は5~8月頃とのこと。

食性は雑食性で、主に小型の甲殻類を食べるそうだ。飼育下では冷凍のブラインシュリンプと粒タイプの配合飼料(おとひめ)を小さく砕いたものを食べた。

(2020年1月)

(2024年4月)

頭部は少し潰れたようで、眼は大きく、吻が分厚くて口を閉じているとどこが口の裂け目なの分かりづらい。また下アゴより上アゴの方がかなり前に突き出ている
胸びれにピントを合わせてみた。胸びれは丸いウチワ型
体の中間あたりを撮影。体色は背側~体側の上半分が暗いオリーブ色で、そのすぐ下の体側中心には黒色斑が密集して連なってできた太く黒いラインがあり、これがよく目立つ。そして体側の下側は半透明をしているが、内臓がある部分は腹膜なのか白銀にを呈している

体の後半部分を拡大。背びれは2基あるが、第1背びれは非常に小さく(3棘しかないそうだ)、第2背びれは長く、胴部の丁度中間あたりから立ち上がり尾柄部手前まで続く。臀びれは第2背びれの基部よりだいぶ後方にある

尾びれは広げると横長の楕円形をしており、中心に黒色のラインが入る(黒色ラインの周囲がほんのり黄色がかっている)。また全てのひれは白色半透明をしている
顔は正面から見るとヘビっぽいというかトカゲっぽいというか…爬虫類顔だ
真上から撮影。背側の体色がちょっと薄く変化している
魚体を腹面(裏側)から見ると、腹膜などは見られず、内臓が透けて見える(今回採集した個体はだが)
えらから何まで透け透けだ。この大きな淡いオレンジ色をした内臓は何だ? 卵巣か?
こんなに透け透けで大丈夫なのだろうか? 白い縮れた紐みたいのは何だろう?
臀びれと尾びれ部分
今度は白い皿に入れて真上から撮影してみた。体色が薄い褐色に変化している
こちらが上のヒモハゼが排出した卵の拡大写真。直径は0.5mmにも満たない。まだほとんど発生は進んでいないようだ。黒い2つの点は何なのだろう?

採集する

(写真:2019年6月上旬採集。全長約5cm。思えばこの個体を入れてヒモハゼを見たのは9年で3回ぐらいだけだったか)

2024年4月時点で過去に3回ほどしか発見、採集していない。まぁ単にヒモハゼがいない場所で生物採集を行っているだけかもしれないが。

「アナジャコ」「ニホンスナモグリ」などが海底に作った巣穴を利用していることを考えると、海底が砂泥~泥の場所を探すのが良さそうだ。タモ網で海底を引きずったり、上記の甲殻類の巣穴を見つけて周囲を掘り返すと見つかるのかもしれない。

上の写真の個体を水に入れて真上から撮影した。光を当ててみるとこの時は褐色っぽく見えた

飼育する

(写真:隔離水槽にいれて自宅で飼育中のヒモハゼ(どこにいるかわかるかな?)。多分こんな場所に入れられて落ち着かないだろう。しかし水槽に放つとどこにいるのか分からなくなってしまうのだよキミ)

2024年4月中旬に採集した全長約5cmの個体を飼育し始めて2週間近くが経った。現段階での印象は「思ったよりずっとタフな魚だが図太さはない」といった感じ。水質の悪化にも強そうだ。

飼育環境は45cm水槽内に浮かした隔離水槽での飼育、水温22.5℃、比重1.023。本来なら細かな底砂を敷き、隠れ家も用意したもっと広い環境で飼うべきなのだろうが、そうするとヒモハゼがどこにいったのか分からなくなってしまうのだ。すまぬ…。

飼い始めて数日は落ち着かない様子でエサも口にしなかったが、5日後に生きたゴカイ類の切れ端を食うのを確認(その前にも水槽内にいた微小動物を食っていた可能性はある)。そしてその翌日には冷凍ブラインシュリンプを食べるようになった。ただ警戒心があるようで私の見ている前だと食わない。知らないうちにエサが無くなっているという感じだ。

そして2週目からは粒タイプの配合飼料(おとひめ)を細かく砕いたものを与えてみた。食べてはいるようだが、冷凍ブラインシュリンプに比べると食いはかなり悪い。

まだ試してはいないが、単独もしくはヒモハゼを襲う可能性のない生物との混泳なら飼うのはそこまで難しくなさそうな気がする…。ただ、動きのかなり少ない魚なので干渉する楽しみは薄いかもしれない。

あ、あとフタが無い容器にいれていると飛び出して脱走することが何度もあったので、飼い始めはそのあたり注意が必要かも。

 

(追記:2024年4月29日)その後隔離水槽から出して30cm虫かご水槽で飼育をすることにした。すると今までと行動が一変!! よく動くし、よく泳ぐ。伸び伸びと活動しているという感じだ(やはり隔離水槽はかなりのストレスだったのだな)。

どこかに隠れてじっとしているタイプの魚かと思っていたが、水槽中を動き回る。底砂の上をニョロニョロと這い回ることもあれば、中層をヒョロヒョロっと泳いだり、投げ込みフィルターの水流に乗って遊んでいる?ような行動までしている。意外とアグレッシブだったんだな。

同居の生物も小型のヤドカリ類と「イッカククモガニ」、そして全長3~4cmの「ビリンゴ」が3匹。みんな穏やかなメンバーなのでストレスが少ないのかな。エサやりをしていて気が付いたが、ヒモハゼは口が小さく、また水中を漂うようなエサを取るのが苦手そうなので、エサは細かくて水槽底に沈むようなものをあげた方が良いようだ(エサが大きくて水中に舞ってると、自分が食べる前に他の生物に食べ尽くされてしまう)。

 

(追記:2024年6月5日)このヒモハゼだがその後1ヵ月元気に生存した。エサはかなり細かくしてやった方が食べやすいようだった。また水流に乗って漂う行動をよく行っていた。完全に流れに身を任せ漂っているので、それを見た時は死んでいるのかと思った。よく見ると漂いながらも時々ピョロロッと体を動かしてバランスを取っている。うーん面白い生態だ。そして2024年5月末、採集した場所に放流した。さよなら~。