ヒメハゼ

特徴

(写真:2018年6月中旬採集。全長約5.5cm。いつどこで採集したものかは忘れてしまったが、おそらく2018年の初夏に採集したものだろう。体側中心に並ぶ4つの黒色斑と尾柄部の黒色斑が二叉する(横向きのY​の字みたいになる)のが特徴)

レア度:★★☆☆☆☆☆☆☆☆ 脊索動物門 条鰭綱 スズキ目 ハゼ科 学名:Favonigobius gymnauchen​ 英名:? よく見られる季節:5~8月

全長10cmほどまで大きくなる。初夏~夏の三番瀬の水中を観察するととてもよく見かける。砂に浅く潜って隠れていることも多い。また1~2月の水温が10℃前後になる厳冬期でも、数は少ないものの浅場で姿を見ることができる(低温耐性はかなり高いようだ)。

このヒメハゼ、姿の似たような魚が結構いて、同定レベルの低い私にとってはなかなか厄介な相手であった。似ている魚として一番に挙げられるのは「アシシロハゼ」でありこれはかなり似ているが、今のところ私が生物採集をしているエリアでは「アシシロハゼ」はまだ見つかっていない。

十分に大きく成長した個体ならヒメハゼの見分けもそこまで難しくはないのだが、全長が1~3cmぐらいの小さなサイズだとかなり扱いに困る。また採集した直後だと警戒や興奮によって体色や模様が変化してしまっている場合も多いので、さらに難しさに拍車がかかる。

色々と調べて、またヒメハゼを飼育観察した結果、これが当てはまればヒメハゼかな?というのが自分なりに分かってきたので以下に紹介させていただく。

①体側中心に並ぶ4つの黒色斑と尾柄部の黒色斑が二叉する(横向きのY​の字みたいになる)、②上アゴより下アゴの方が前に突き出ている、③第1背びれの鰭条が糸状に伸びている、④(成熟した個体では?)背びれに薄い赤褐色の丸い斑点が多数見られることがある。

またヒメハゼは河口域や干潟域の砂泥底~砂底と割と幅広い環境で見られる種らしく、塩分濃度が20‰より高い場所に多いとのことなので、採集した場所も同定の材料になるのではないだろうか。

私の生物採集エリアでは姿が似た種として「マハゼ」の幼魚がよく見られるが、それと比較するとヒメハゼのほうが頭部がやや潰れたようで、先に書いたようにヒメハゼでは上アゴより下アゴの方が前に突き出る。体型は「マハゼ」よりスマートな印象がある。

そして体色や模様だが、これは周囲の環境や魚の興奮状態によって変化するが、ヒメハゼは薄い灰白色の地に砂粒が散らばったような見られ、体側の中心には黒色斑が数個隣り合ったものが4つ並ぶ。また黒色斑は二叉する(横向きのY​の字みたいになる)。

また成熟によって?背びれの鰭条が糸状に伸びたり、薄い赤褐色の丸い斑点が多数見られることがある(下の写真参照)。ちなみにカレイ類のように周囲の環境に合わせて体色や模様を変化させられる。

食性は動物食性で、プランクトンやゴカイ類、小型の甲殻類などを食べる。繁殖期は5~9月頃で、オスは繁殖期になると頬のあたりが真っ黒になり、背びれの軟条が長く伸びる(下の写真参照。ただメス個体でも頬が黒っぽくなる場合があるらしい)。二枚貝の片殻に卵を産み付けることもあるそうだ。

危険を感じると砂に浅く潜って隠れる習性がある。

(2020年1月)

(2024年9月)

こちらは2020年3月中旬に三番瀬で採集した個体。全長約5cm。やや上下に潰されたような頭部をしている。体側中央には大き目の暗色斑が2~3個固まったものが4つ並び、その後ろの尾柄部は後方に二叉した暗色斑がある

こちらは2019年6月中旬にマーレ水槽で飼育していたもの。全長約5cm。いつどこで採集したものかは忘れてしまったが、多分同年初夏に三番瀬で採集したものだと思う。背びれの薄い赤褐色の丸い斑点がよく目立つ個体。ほかには顔つきもゴツい気がする。婚姻色の一部なのかなぁ?

こちらは2024年6月下旬に三番瀬で採集された、婚姻色の出た大型のオス個体と思われる。全長約8cm。頬が真っ黒になっている。目盛りは5mm

同オス個体の頭部周辺を拡大。よく見ると黒い部分は大きさが様々な丸い黒色斑が集まって黒くなっているようだ
同オス個体の胴部を拡大。こう見ると結構ウロコが大きくて粗いんだなと感じる。背びれの軟条がよく伸びている。目盛りは5mm
同オス個体の背びれの前半部を拡大。とても美しい色彩だ
同オス個体の体の後半部と尾びれを拡大。
驚いたことがある!! 同オス個体を観察ケースに入れた途端、真っ黒な頬の色が薄くなった。そしてしばらくするとまた真っ黒に。繁殖期間中ずっと真っ黒というわけではないのかも?(周囲の状況や刺激により変化する?)
同オス個体の頬の色が薄くなった瞬間を撮影。なかなかイケメンな横顔だな。よく見ると眼の上部に、コチ類の眼の光彩被膜のようなものがあるように見える(光彩被膜なのかは不明)。上方の敵から眼を隠すためだろうか?
こちらは2020年8月中旬に三番瀬で採集した、婚姻色の出た大型のオス個体と思われる。全長約9cm。何だか日焼けした色黒のような体色だ。目盛りは5mm

こちらは2024年3月下旬に三番瀬で採集した個体。全長約5.5cm。水槽に敷いているサンゴ砂が白いので、体色が全体的に薄いというか白っぽい

同個体の頭部を拡大。下アゴの方が前に突き出ているのが分かる。…なんというかヒメハゼは同じような体サイズでも個体によって顔つきが違う気がする。目盛りは5mm
同個体の体の後半部を拡大。目盛りは5mm
同個体を真上から撮影。こうやって見ると「マハゼ」の幼魚に似ている
こちらは2022年4月中旬に三番瀬で採集した個体。全長約6.5cm。この個体は背側~体側が褐色っぽい色に変化している

採集する

(写真:2024年1月下旬、三番瀬で採集。全長約3.5cm。小型のヒメハゼ。今見たら「ヒメハゼやん!」って分かるけど、採集当時は何の魚か分からなかった…。なので育てて少し大きくしたら、典型的なヒメハゼの体色と模様になったのでヒメハゼと同定できた。目盛りは5mm)

浦安だと三番瀬など浅い砂泥~砂地が広がるような場所でよく見かける。動きが素早く人をなかなか近づけてくれないので、タモ網狙って採集するとなると少し難しいかもしれない。

基本的には底引き網漁の要領で、海底をタモ網引きずっていると採れる。釣りで釣れても良さそうだが今のところ釣ったことはない(多分針とエサがデカ過ぎるんだな)

砂に潜っているヒメハゼは何故かかなり接近してもあまり逃げないので、網を被せるとあっけなく採れたりする。

飼育する

(写真:自宅水槽1号にて。砂に潜り頭だけ出すヒメハゼ。体色も周りの砂粒に合わせて変化させている)

過去に2~3度、三番瀬水槽で飼ったことがあるが、しばらくすると(1ヶ月以内)姿を消してしまうことが多かった。水槽内では落ち着いて過ごしているように見えるのだが、他の生物が常に近くにいる環境はヒメハゼには合わないのかもしれない。

 

(追記:2020年6月3日)2020年3月中旬に採集した全長5cmほどヒメハゼを1週間ほどだが自宅水槽1号で飼ってみた。水槽内ではじっとしていることが多く、おとなしい魚という印象。気の強い生物が水槽内にいたらストレスを受け易いかもしれない。

餌付きは比較的良く、水槽に入れた翌日から冷凍のブラインシュリンプや釜揚げ桜えびをすり潰したものを口にした。やはり砂がある場所の方が落ち着くのだろうか、水槽内の砂を敷いたスペースにいることも多かった(他の場所でもじっとしていたが)。

 

(追記:2022年2月13日)たまたま三番瀬で採集した全長4cmほどの幼魚を自宅水槽3号で飼っている。水温は約16℃、ヒメハゼ以外には魚類はいない。そんな環境もあってか、餌付きはかなり良い。水槽に入れて2日後には粒タイプの配合飼料を食べ始めた(メガバイトレッドとおとひめ)。食欲も旺盛で行動もかなり貪欲な感じ。水槽のフタを開けたり、エサを与えるそぶりを見せると、こちらに近づいてきて「エサか!?エサどこ!?」みたいな感じになる。

 

(追記:2024年4月22日)2024年1~3月に採集した全長3~5cmの個体を横幅30cmの虫かごで数匹飼育した。混泳生物は小型のヤドカリ類とスジエビ類。これなら混泳によるストレスもほとんどないようだ。そんな安全安心?水槽もあってか餌付きは非常に良く水槽に入れて2日目からフレークタイプの配合飼料(ネオプロス)を食べ始めた。

水槽内に自分より大きく強い or 危害を加えられる可能性がある生物がいると一気に活動性が落ちる。この辺りは姿の似た「マハゼ」とは大違い。逆に水槽内が自分より弱い生物だと伸び伸び & 他の生物のエサを奪う、といった感じだ。