アイゴ

特徴

(写真:アイゴ成魚の丁度いい写真がなかったので、水族館で働いている後輩に写真を撮って送ってもらった。2020年7月撮影。撮影場所:越前松島水族館 撮影者:植田宏伸)

レア度:★★★★☆ 脊索動物門 条鰭綱 スズキ目 アイゴ科 アイゴ属 学名:Siganus fuscescens 英名:Mottled spinefoot よく見られる季節:夏~秋(おそらく)

最大で全長30cmほどになるが、それより大きな個体も存在する。「海藻を食べる魚」もしくは「ひれに毒針を持つ臭い魚」として有名で、西日本では「バリ」という通称で呼ばれることもある。

知り合いが「羽田沖でよく網にかかる」と言っていたので「たぶん浦安にもいるだろうな…」と思っていたのだが、2019年10月上旬にとうとうその姿を確認することができた。そのときは生物観察のためカメラ片手にテトラポッド帯を泳いでいたのだが、ふと岸側の方に目をやると全長15cmほどのアイゴが数匹の群れになり石と石の間で休んでいるのを発見。私の姿に気づくと、すぐさまサーっと逃げていってしまい、水の濁りも強かったため追いかけて撮影することはできなかった。

体は体高が高く、フットボールのような形をしてる。また体は平たい。体色は黄褐色や緑褐色、褐色などいくつかのタイプがあり、全身に小さな白い斑点が見られることが多い。中には黒っぽく不明瞭な横ジマ模様がある個体もいる。ただこれらの体色はアイゴの状態や生死によって変化する。

口は小さいが厚い唇と門歯状に並んだ歯を持ち、これで海藻を切り抜くようにして食べる。背びれ・腹びれ・尻びれの棘(きょく)に毒を持っており、刺されると強い痛みが長時間続く(学生時代、手首の血管に近いところを刺されて病院送りになった後輩がいた。大事には至らなかったが)。

私はアイゴに対して並々ならぬ想いがある。実は学生時代の研究テーマがアイゴ(の初期生態)だったのだ。約3年間、アイゴ漬けの日々を送った。毎日研究室で飼われているアイゴたちの世話をし(途中からは後輩に任せていたが笑)、調査のために何度も離島へ渡っては海に潜ってアイゴの行動を観察記録し、アイゴの捕獲も行った。調査は一年中で、水温の高い季節は良かったものの、冬や水温の低い時期の調査は苦行でしかなかった(笑)。

研究室に戻れば、採集した何百というアイゴを解剖し、食べているものや、耳石(魚の頭の中にある平衡器官を司る石のようなもの)を取り出して年齢を調べる。もしかすると私の体からは、サンプルを保存するためのホルマリン溶液(かなり強烈な臭い)と死んだアイゴの何とも言えぬ臭いが混ざった臭気が漂っていたかもしれない。

またアイゴのひれの毒針には刺されすぎて耐性がついたのか、いつの頃からか刺されても平気になっていた(笑)。あと実体顕微鏡を見すぎて目が悪くなったのは研究あるあるだろうか? あれだけのアイゴの命を奪っておいて、アイゴに呪われてはいないかと心配になる。学生時代もっと供養の気持ちを持つべきたったと反省している…。

私の研究の結果では、生まれてから体長3cmほどまでの稚魚・幼魚は、主にプランクトン類や珪藻類、小型動物などを食べるのだが、体長5cmを越え出したあたりから海藻を食いまくるようになる。食べる海藻の量は膨大で、アイゴによる海藻の食害が「磯焼け(海岸に海藻が著しく減少もしくは全く無くなり、代わりにサンゴモと呼ばれる、薄く硬い殻のような海藻が海底の岩の表面を覆いつくす状態。それはまさに海の砂漠)」の一因になることが問題視されている(海藻を食べる魚はイスズミ類やブダイ類など他にもいます)。

ちなみに食べる海藻には好みがあり、「ジョロモク」や「ヤツマタモク」など比較的柔らかい大型褐藻類を好み、逆に「アラメ」といったタンニンなどの忌避物質を含む海藻は嫌うようだ(しかし嫌うが食べる)。

ではなぜ海藻を食べるのか? 実はアイゴは海藻を全く食べなくても、海水魚用のペレットやオキアミなど動物質のエサだけでも生存は可能なのだ。さらにそれらのエサだけを与え続けても順調に成長し、長生きもする。しかし野生のアイゴは間違いなく大量の海藻を食べている。

これについては近年の研究によって、アイゴが大量の海藻を食べることで栄養素を摂取できるメカニズムを持っていることや、アイゴが捕食が容易である海藻類をメインターゲットとする生存戦略をとっていることなどが分かってきたらしい。私は研究を離れて随分経つので、これらの理論についての詳しい言及はできないが、とにかく野生のアイゴにとって「海藻を食う」ということは非常に重要なのだ。

(2020年7月)

緑褐色の体色のアイゴ成魚(写真:(独)水産大学校 生物生産学科 水族行動学研究室撮影 本画像の転載・引用を固く禁じます)
褐色が強い体色のアイゴ成魚(写真:(独)水産大学校 生物生産学科 水族行動学研究室撮影 本画像の転載・引用を固く禁じます)
アイゴの幼魚。全長約5cm。このサイズでもヒレの毒針は発達しており、刺されると痛い

採集する

(写真:2010年撮影。私が研究で訪れていた離島で撮影したアイゴ幼魚の群れ。黄金の魚体とブルーの背景とのコントラストが美しい)

大きな成魚は素早く泳ぐのでタモ網で捕まえるのは困難。「クロダイ」「メジナ」を狙ったフカセ釣りではお馴染みの外道だが、浦安沿岸で大きなアイゴが釣れたという話は、今のところ私は聞いたことがない。酒粕や味噌などを混ぜたコマセ(撒きエサ)を使うとアイゴが釣れやすいという情報もある。私の学生時代の研究では、刺し網を仕掛けたり、水中銃で捕獲していた(もちろん特別採捕許可を取得して)。ちなみに沖縄などではアイゴ類の釣りが盛んで、専用の竿が売られていたりもする。

稚魚・幼魚もすばしっこいが、全長5cmぐらいまでの幼魚ならば、(海に潜って)警戒心を与えないように近づき、物陰に隠れるなどして幼魚が射程距離に入ったら、一気に網を被せて採集することはできる(けっこう大変だが)。

ということで、私が知る限りでは浦安でアイゴを捕獲するのはなかなか困難なようだ。

食べる

毒針があり、魚体は独特な臭みを放ち、さらに内蔵はとても臭い(アンモニア臭っぽい)ことから、全国的に見ると食用魚という認識は低い。釣りで釣り上げられても、逃がすが投げ捨てられることの多い不遇な魚である。

しかし実は非常に味の良い魚で、たしかどこかの研究で「旨み成分は「マダイ」に匹敵する」という話を聞いたこともある。私も実際に食べたが、身はクセがなく程よい甘みと歯ごたえで、新鮮なものなら刺身で十分イケる(アイゴと知らせないで食わせたら、きっと他の魚と勘違いすると思う)。現在でも瀬戸内海や、四国、九州では食用とされているそうだ。

また沖縄ではアイゴの稚魚をまるごと塩辛にした「スクガラス」という料理があり、これを豆腐などに乗せて食べる(沖縄旅行で食べたことのある人も多いのではないだろうか)。またアイゴはマース煮という白身魚を水と塩と泡盛で煮込んだ料理の材料としてもメジャーだ。学生時代、沖縄出身の友人に作ってもらって食べたが、臭みはなく、良いダシが出ていて美味しかった。

ただし美味しく食べるにはいくつか注意が必要。まず鮮度の良いものを選ぶのは当然だが(買う場合)、釣りで釣ったらすぐに活締め・血抜きを行い、なるべく早く内蔵を取り除いて、腹の中をよく洗い、しっかりと保冷する。内蔵を取り出す際は消化管を破ったり、胆嚢を潰さないようにする(そうしないとそこから臭いが身に移る)。