スナヒトデ
特徴
(写真:2019年7月下旬、三番瀬で採集。輻長約8cm(口から腕1本の先端までの長さ)。三番瀬浦安側でヒトデ類を見ることは非常に稀であった。しかし2024年の春、多数のスナヒトデが突然現れた!!)
レア度:? 棘皮動物門 ヒトデ綱 モミジガイ目 スナヒトデ科 学名:Luidia quinaria 英名:? よく見られる季節:?
大きいものでは腕1本の長さが15cmを超える。写真のスナヒトデは2019年7月下旬に、三番瀬の水中を観察していたところ、沖合200mほどの場所で偶然発見した。三番瀬浦安側で生物採集中にヒトデ類に出会うことはかなり稀で、昔の三番瀬を知る人は「ヒトデやナマコをすっかり見なくなってしまった」と嘆いていた。
スナヒトデは北海道から九州まで幅広い地域に生息しており、東京湾でも普通に見られるヒトデだそうだ。他のヒトデ類と比べると腕が長く、体色は背面が黄褐色~緑配色で、体の中心から各腕の先端まで黒い帯が走る。
腹側は鮮やかな山吹色をしている。ちなみにヒトデ類の大きさは輻長(ふくちょう)といって、口から腕1本の先端までの長さで表すらしい。
ヒトデ類は体の腹側に、中心から放射状に並ぶ管足(かんそく)と呼ばれる足を持つが、スナヒトデの管足は少し変わっていて、他のヒトデ類では管足の先端が吸盤状になっているものが多いのだが、スナヒトデの管足の先端は吸盤状でなく(くさび型?)、物に張り付いたりすることは苦手。ただその代わりスナヒトデは砂の上を滑るように移動することができる。砂地に特化した管足というワケだ。
ちなみにヒトデはウニやナマコと同じ「棘皮(きょくひ)動物」というグループに分類される生物で、それぞれの生物をよく観察すると、体の造りに色々な共通点がある。
(追記:2024年6月3日)このページを作成した当時は三番瀬浦安側でヒトデ類を見ることは非常に稀であった。実際に私も2016~2023年の間に浦安でヒトデ類を発見したのは、2019年のスナヒトデをと釣りの外道でかかった種類不明のヒトデの2匹だけであった。
ところが2024年3月下旬、三番瀬に多数のスナヒトデが出現した。1回、生物採集をすると5~10匹見つかる。また地元の釣り人も口を揃えて「今年はヒトデが多いわ」と言う。こんなことはこの10年で初めてのことではないだろうか。ただどういう理由で増えたのかは不明である。
今後どうなるかは分からないが、せっかくの機会なので採集したスナヒトデを自宅に持ち帰り隅々まで観察し、短期間であるが飼育も行った。そして最後にスナヒトデの標本も作製させてもらった。その記録を写真ともに以下に加筆。
最後にヒトデの体の構造は見た目以上にかなり複雑で、その生態も非常に面白いものとなっている。それらについて『日本大百科全書』の『ヒトデ』(スナヒトデではないので注意)の解説を以下に引用させていただく。
『形態 棘皮(きょくひ)動物門 ヒトデ綱 Asteroideaに属する海産動物の総称。またはそのなかの1種。体は平たく硬い星形で、中央から放射状に伸びた腕をもつ。海岸の浅瀬から深さ数千メートルの深海まで分布し、世界で1500余種、日本近海からは約200種が知られる。[重井陸夫]
腕は普通5本あるが、種類によっては8~16本のものもまれではなく、40本近いものもある。また、本来5腕の種が4本あるいは6本もつこともまれではない。腕の部分がほとんどなく、全体が五角形のものもある。体色は一般に鮮やかで、赤、青、黄、紫、茶、あるいはそれらの入り混じったものなどさまざまである。
体は無数の小骨板が寄り集まってできているために硬くて重い。それぞれの骨板は靭帯(じんたい)や筋肉で結ばれていて、体をねじ曲げることができる仕組みになっている。骨板の上は薄い表皮で覆われている。体の背面や側面に棘(とげ)をもつものもある。
また、叉棘(さきょく)というごく小さいピンセットのような棘の変形物をもつものもあり、皮鰓(ひさい)というアワ粒ほどの小さな呼吸用の袋を体の背面に無数にもつものもある。
体の下面中心には口があり、口の部分から各腕の先端へ向かって歩帯溝という溝が走っている。溝の縁には管足が対(つい)をなして規則正しく並んでいる。腕の最先端部の管足は対をなさず、吸盤を欠き、基部に赤い眼点がある。
体の内部には、口に続く部分に胃があり、盲嚢(もうのう)、生殖巣、水管系、血洞系、神経系が放射状に伸びて腕の先端近くまで達している。肛門(こうもん)のないものも多いが、ある場合には背面の中心に小さく開く。背面の中心近くには多孔板(たこうばん)といういぼのような部分があり、外界と水管系とをつないでいる。[重井陸夫]』
『生態 体の移動には管足を用いる。岩の上にすむものは、管足の先の吸盤を岩に吸着させ、多数の管足の働きで体全体を片方へ押し進めながら、じわじわとはい進む。砂泥の上にすむものは、管足で砂泥をかき分けるようにしながら進む。
ほとんどのものが肉食で、動きの鈍い動物、とくに二枚貝を好み、巻き貝、多毛類、小形甲殻類、棘皮動物、あるいは魚貝類の死骸(しがい)なども食べる。また、砂泥中の腐食物を食べるものもある。
摂食方法は、餌(えさ)をそのまま口の中へ取り入れるものもあるが、胃を反転して口から外へ押し出し、体外消化を行うものが多い。その場合、たとえば二枚貝を食べるときには、まず貝の上にのしかかって抱きかかえるような姿勢をとり、貝殻の両側に多数の管足を吸い付けて引っ張り開けようとする。長時間のうちには、貝の殻を閉じる筋肉は疲労して貝殻がすこし開くので、すきまから胃を中に差し込んで消化を始める。
繁殖期になると雌雄はおのおの放卵、放精し、海中で受精がおこる。受精卵から孵化(ふか)した幼生は普通、浮遊生活に入るが、直接親が保育する種も多数ある。無性的に体全体が分裂したり、腕の自切によって増えるものもある。腕は一般に切れやすいが、再生しやすく、1本の腕から完全な個体を再生する例もある。[重井陸夫]』
(2020年12月)
(2024年6月)
採集する
(写真:水中で発見した時の様子。陸上で見るのとやや異なった色合いに見える)
海底が砂や砂泥の場所に生息する。採集方法は見つけて拾うだけ。私が三番瀬で観察した限りでは岸近くではあまり見ず、ちょっと沖の方にいる印象。
また本種であるかは不明だが(写真撮るのを忘れた)、冬季にアオイソメをエサに投げ釣りをすると、ヒトデが釣れることよくある(本当はカレイ狙いなんだけど)。
(追記:2024年6月4日)このページを作成した当時は三番瀬浦安側でヒトデ類を見ることは非常に稀であった。実際に私も2016~2023年の間に浦安でヒトデ類を発見したのは、2019年のスナヒトデをと釣りの外道でかかった種類不明のヒトデの2匹だけであった。
ところが2024年3月下旬、三番瀬に多数のスナヒトデが出現した。1回、生物採集をすると5~10匹見つかる。また地元の釣り人も口を揃えて「今年はヒトデが多いわ」と言う。こんなことはこの10年で初めてのことではないだろうか。ただどういう理由で増えたのかは不明である。
飼育する
(写真:試しにクーラーボックスに入れて短期間飼育を行ってみた。その結果は…)
「もし飼育が容易そうなら三番瀬水槽に入れたいなぁ」ということで、2匹のスナヒトデを飼育してみることにした。
飼育環境は20Lのクーラボックス、水温約20℃、比重1.023、ろ過は投げ込みフィルター1つという簡素なもの。なぜ自宅水槽にインしなかったかというと、ヒトデ類は体にサポニンなどの有毒物資を持っていることがあり、飼育中のヒトデが死んだ際、その有毒物質が溶け出すのを用心したのだ(スナヒトデがどんな物質を持っているかは知らないけど)。
ハッキリ言って上記の飼育環境は良くないだろう。スペースや水量、ろ過能力がもっと必要だろうし、砂も敷いた方が良いに違いない。そこは水換えを頻繁に行うことでカバーする!! スナヒトデさんには申し訳ないがしばらく実験に付き合ってもらうことにした。
さて飼育開始!!したのも束の間、クーラーボックスの底に黒い粘液状の物体がたくさん落ちているではないか。なんだこれは…胃内容物を吐き出したのか、何か別の分泌物なのか…。これのせいで水が汚れるスピードがすごい。
こりゃあかんわ…ということで、飼育するスナヒトデを1匹に減らす(もう1匹は標本へ)。スポイトでその粘着物を取り除きフィルターも軽くあらって、新鮮な海水を継ぎ足す。いつまで出すのだろうか…。ただヒトデの方は元気一杯な様子。
次はエサだ!!「動物質のものなら何でも食うだろ」ぐらいに軽く考えていたので、まずはクリル(乾燥エビ)を与えてみる………食わない。ちょっと嫌な予感がするが、続いて粒タイプの配合飼料………食わない。じゃあこれならと新鮮な魚肉(ハゼ系)を与えてみる………食わねーーーー!!!
やっぱ環境がこんなのだからストレスでエサ食わないのかな?と諦めそうになったが、冷凍庫にアレがあるのを思い出す。そう冷凍エサの雄、「アサリ」である。ただ2年前に冷凍したものだけど。
「アサリ」をむき身の状態にして、スナヒトデの近くに落とす。するとスナヒトデが「ススッ…スーーー」と滑るようにアサリに向かって動き出した!! 「本当に滑るように動くんだな~」と感心していると、スナヒトデは体の中心をアサリの真上に持ってきた。
「(エサを掴んで自分に寄せるんじゃなくて、自分の口をエサの真上に持っていく)スタイルかっ!!」
思わず声に出してしまった。その光景を見て私の頭には、映画「インデ○ンデンス・デイ」の、敵巨大UFOが摩天楼をレーザービームで破壊するシーンが思い浮かんだ(伝わります?)。
エサを飲み込むとヒトデの中央部分(盤)がポッコリと膨らむ。柔らかいエサなら食うスピードは速い、また結構大食漢のようである。エサ問題も解決したのでしばらくは安心と思っていたのも束の間、今度はアサリ吐き出しとるやんけ!!!
水底には半分ほどの大きさになったアサリのむき身が。味が悪かったのか、元々食べる量がそんなもんなのかは不明だが、これはまた水を汚す大きな要因となる。再びスポイトで残餌を取り除き、海水を継ぎ足す。そんな攻防が1週間ほど続いた。
………潮時か。
私の結論としては、飼えないことはないけど手間がかかり水を汚す要素も多いので、三番瀬水槽での展示はNGとした。またスナヒトデ飼育経験者に話を聞くと、ヒトデを攻撃したり食べようとする生物が水槽内いると、早々に弱って死んでしまうことも多いらしい。
ただ砂を敷いた45cm水槽でスナヒトデ1匹に、ヒトデを攻撃しない小型生物との混泳(できればヒトデの排出物を食べるような生物)、さらに水替えの頻度を上げれば長期飼育も可能な気はした。
標本を作る
(写真:スナヒトデを消毒用エタノールに浸している様子。このまま丸1日ほど放置する)
ちょっと可哀想だが、次にいつ採集できるか分からないため、スナヒトデの標本を作製することにした。手順は以下の通りである。
①底が平らな容器に消毒用エタノール(濃度70~80%)をヒトデが完全に浸かるぐらい入れる、②その中にヒトデを浸す(可哀想だがほぼ即死のような感じである)、③エタノールが蒸発してしまわないように容器に蓋をして丸1日ほど放置する(完全にエタノール漬けにして腐らないようにする)、④ヒトデを取り出し新聞紙やキッチンペーパーを引いた平らな台の上で完全に乾燥させる(私は3日ほど放置した)、⑤完全に乾燥したら透明のラッカーをヒトデ全体に吹いて完成
ヒトデは体が無数の小骨板で出来ているので、このような簡易な方法でも形が崩れず、簡単に標本を作製することができる。ポイントは乾燥させると体全体が少し反るので、それを防ぐために乾燥中はほんの少し上から荷重をかけてやると良い。
ただ荷重をかけると、底面や荷重をかけた面が重さで少し潰れた感じになってしまうので、乾燥の際はヒトデの上下に脱脂綿などでクッションを入れてやると良いかもしれない。