イシガニ

特徴

(写真:2023年6月上旬、三番瀬で採集したオスのイシガニ。甲羅の幅約8cm。重量感のあるなかなかの大物だ。大型のオス個体はこのような体色をしていることが多い気がする。目盛りは5mm)

レア度:★★☆☆☆ 節足動物門 軟甲綱 十脚目 ガザミ/ワタリガニ科 学名:Charybdis japonica​ 英名:Japanese swimming crab よく見られる季節:5~10月

最大で甲羅の幅が10cmほどになり。さらに腕を広げると横幅が20cmにも達する大型のカニ。

浦安では初夏~秋にかけてよく見られるカニで、その大きさや食味の良さから知名度は高い。近年ではこの時期になるとたくさんの外国人が浦安沿岸にやってきて、大量のイシガニ(その他)を捕獲していく様が風物詩?となっている(しかも彼らはカニを採るのがとても上手い)。

イシガニは一番後ろの脚がひれのようになっており(遊泳脚)、水中を泳ぐことができる所謂「ワタリガニ」の仲間。浦安には他に「ガザミ」「タイワンガザミ」といったワタリガニ類が生息しているが、それらとの見分け方はイシガニの甲羅が丸みを帯びた六角形の甲羅なのに対し、「ガザミ」「タイワンガザミ」は甲羅の両端が鋭くとがる。またイシガニはハサミ脚が太く短く、全体的にマッチョな印象を受ける。

体色は写真のような背側が暗い緑色で腹側が白いもの、背側が暗緑色なのは同じだが腹側が赤褐色っぽいもの、背側が暗い赤褐色のものなどいくつか種類があるようだ。若い小型個体では、体全体が黄色っぽいもの、緑色が強いものなども見かける。

性格は獰猛かつ攻撃的で、個人的に三番瀬のケンカ番長と認定している。ハサミの力が非常に強く、挟まれると流血するほど(このハサミで貝殻を割って貝を食べたり、他のカニをバラバラにして食べたりする)。私も何回も挟まれたがこの痛みだけには未だに慣れない。

食性は肉食が強い雑食性で、魚類、貝類、エビやカニなどの甲殻類、ゴカイ類、藻類など様々なものを食べる。

産卵期は5~9月頃で、その時期にはオスとメスが腹を向かい合わせに抱き合った姿をしばしば見かける。

(2020年5月)

(2023年11月)

オスのイシガニの甲羅を拡大。甲羅は丸みを帯びた六角形をしている

眼付近を拡大。眼と眼のには鋭い6つのトゲ(歯)がある。またその両端からは短い第2触角が伸びる

甲の前側の縁にも鋭いトゲ(歯)が6つ並ぶ。また甲羅の両端は「ガザミ」のように鋭く伸びない
オスのイシガニのハサミ脚。太く、いかにも強靭そうである
ハサミ部分を拡大。ハサミは兄弟でのハサミ内側にはボコボコとした歯が並ぶ。またハサミの先端は鋭く尖る
挟まれてみると分かるが、非常に痛いのは当然として、このクチバシ?のような形状とボコボコとした歯のせいで、一度挟まれる中々取れない(外そうとすると、このボコボコと鋭い先端に引っ掛かってしまう)
オスのイシガニの歩脚を拡大
一番後ろの歩脚がヒレのようになっており(遊泳脚)、水中を泳ぐことができる。ちなみに泳ぐ際は、進行方向のハサミ脚を折り曲げ、進行方向とは反対のハサミ脚を伸ばして格好で泳ぐ
オスのイシガニをの顔を拡大。つぶらな瞳が可愛く見えるかもしれないが、個人的には何をしでかすか分からないような怖さをを感じる(ほら、漫画に出てくる、頑丈でパワーとタフネスに特化した敵キャラみたいな…)
口を開いてみた。想像以上に複雑な構造をしている。〇レデターのようだ

オスのイシガニを腹側から撮影。目盛りは5mm

オスのイシガニの「ふんどし」(正確には腹節と言うそうだ)をめくってみた。内部には腹節に張り付いた腹肢と、細長い棒状の生殖器がある。目盛りは5mm
2019年7月下旬、三番瀬で撮影。交尾中?のイシガニ。上側にいるのがオスで、下側がメスとなる

先の交尾中?のイシガニを後ろから見た様子。写真下側のメスの抱える卵が見える。しかし、既に卵を抱えた状態なのに交尾中? これがどういう状態なのか詳しくは分からない

採集する

(写真:2019年9月下旬、三番瀬にて撮影。甲羅の幅約6cm。ハサミを振り上げてこちらを威嚇している)

「イソガニ」「タカノケフサイソガニ」のように多くはないが、初夏~秋にかけてはよく目にするカニなので採集はそれほど難しくない。カニが目視できる場合は、タモ網ですくう、軍手を何重にもして手で掴む、トング・カニばさみで掴むなどの方法がある。

また他のワタリガニたちと同様、魚の内臓や血の匂いに敏感に反応し近づいてくるので、イワシ類や「サンマ」などの青魚をエサにした、カニ籠、カニ網、釣りでも採集できる。エサは内臓付きの青魚がベストで、個人的には「コノシロ」、「マイワシ」が特に効果的な気がした。

釣りの場合は、ぶつ切りにした生魚とオモリを網袋に入れ巾着状にしたものを、イシガニがいそうな場所に落とし込んでいく。カニがエサを掴んだら、カニがエサを離さないようにそっと持ち上げ水面付近で網ですくう(水から出すとエサを離してしまうことが多い)。

捕まえたカニはそのままバケツに入れておくと、暴れたり他のカニとケンカしてハサミや脚が取れてしまうので、捕まえたらすぐにハサミと脚を輪ゴムで固定すると良い。食べるの前提ならニッパーか何かでハサミの片方の爪を切り落としてしまってもいい(エキスが漏れそうなので私はしないが)。

また捕まえたカニは帰る時まで網袋に入れて、海の中にぶら下げておくと死なずに鮮度が落ちない。

カニを食べる場合はなるべく生きたままカニを持ち帰ろう(カニは死ぬとどんどん不味くなる)。持ち帰る際は、短時間の距離あればバケツに海水をカニの甲羅が水面から出るぐらいまで入れて、カニを放り込んでおくだけでいい(エアポンプ無しでカニの全身が浸かるまで海水を入れてしまうと、最悪カニが酸欠で死んでしまう)。

暑い時期はバケツを発泡スチロールの箱に変えると、カニの鮮度をより保つことができると思う。また海水を入れるのが面倒という時は保冷材や氷の入ったクーラーボックスにカニを直接ぶち込んで、その上から濡れたタオルを被せてカニを冷却して、仮死状態にして持って帰るのもいい(体温が上がるとまた復活するので)。

※場所によってはカニ籠、カニ網の使用が禁止されている場合があるので注意が必要です(「遊魚の漁業調整規則」にはカニ籠、カニ網の記載がありませんで、使用自体がグレーかもしれません。使用の際は覚悟を持って自己責任で)。

またカニ籠、カニ網を使用する場合は簡単に切れない丈夫なロープを使って下さい。ロープが切れて仕掛けが水中に残されると、「仕掛けに入ったカニが死ぬ→その臭いに釣られて新たにカニが入る→そのカニが死ぬ→以下繰り返し」ということになる可能性があります。

2015年11月上旬に三番瀬で採集したイシガニ。甲羅の幅約8cm。1~2時間ほど上記の仕掛けで穴釣りをした結果。こんな自由な状態でイシガニを放り込んでおくと、イシガニ同士が挟み合って面倒なことになる…
こちらは2022年7月上旬に河口付近で撮影したもの。初夏には、このように垂直護岸に張り付いているイシガニたちをよく見る

飼育する

(写真:2022年5月下旬、自宅水槽にて撮影。他の生物を食い尽くしてしまうので、イシガニを飼うということは普段はしないのだが、この時はイベントの展示用にイシガニを一時飼育していた。もちろん隔離して。「こんなところに閉じ込めやがって〇ソが…」という表情をしているように見える)

何でも食べ、環境の変化にも強いので、飼育は容易だと思う。だが先に話したように非常に獰猛で攻撃的なカニなので、他の生物との混泳はオススメしない。

中~大型イシガニは、水槽内の生物を何でもどんどん食べてしまい、その強靭なハサミで二枚貝の殻を割ったり、他のカニ類をバラバラにして食べることもある(イシガニに勝てる生物は、この辺の海では小型のサメ類や「マダコ」ぐらいかもしれない。)

どうしても飼いたい場合は、イシガニ専用水槽にするとか、イシガニだけ隔離水槽に入れるのが良いと思う(力の強いカニなので隔離する際は、簡単にフタの開かない容器に入れる)。水槽には隠れ家となる石やパイプなどを入れてやると良い。水槽に砂を敷いてやると砂に潜る行動もよくする。

泳ぎも達者なカニなので、水槽の水位が高いとと脱走する可能性があるので、水槽には蓋をして蓋にオモリを乗せるなど、簡単に逃げられない工夫が必要。

 

それと自宅で飼育して気が付いたことなのだが、イシガニは想像以上に頭の良い、知恵の働くカニなのかもしれない…。

というのも、ある時マーレ水槽で虫かごに隔離してイシガニを飼育していたのだが、そのイシガニが脱走事件を起こした。力の強いカニなので、蓋を内側から押し開けたのだろう(一応簡単に開かないように重石は乗せておいたのだが…)。

その後そのイシガニを持ち帰り、自宅水槽で同じように虫かごに入れて隔離飼育することにした。明るい時間帯は私の目もあってか、あまり動くことがない。ところが部屋を暗くすると驚きの行動に出た!!

ハサミで逆立ちして、脚で虫かごの蓋を開けようとする動作を繰り返したのだ。

「コイツ…虫かごの構造を理解してやがる…!!」

これだけではない。さらには、自分の手足(ハサミと脚か)だけだと蓋を開けることができないと判断したのか、今度は虫かごの中に入れてあった「マガキ」を踏み台のように使ったり、その「マガキ」をハサミで持ち上げて、フタに押し当てる動作をしたのだ!! これには恐れ入った。

その凶暴さ故、人間からは不遇な扱いを受けることの多いイシガニたち。飼育中のイシガニを見るたびに私は、「こんなところに閉じ込めやがって…いつかぶっ〇ろしてやる!!とか思ってるんだろうなぁ」などと考えていたが、それより高い次元の思考を巡らせているのかもしれない。

 

猛獣のようなイシガニだが、甲羅の幅が1~2cmほどの小型個体なら、それほど悪さはしないので、他の生物との混泳は可能(120cm水槽で半年ほど飼育した経験がある)。しかしそれでも小さな魚や弱った生物はイシガニの餌食になってしまう可能性があるが…。

また試したことはないが、本格的な水槽設備がなくても、発泡スチロールの箱やクーラーボックスなど内部の温度変化がしにくい容器に、海水をカニの甲羅が出るくらい張って、海水を毎日交換してやれば飼育は可能なのでは考えている(すごくタフなカニなので)。

ただこれらの容器だと夏場は温度が上がり過ぎるので、容器内に保冷剤を水に直接触れないように設置するといった対策が必要だと思う。

イシガニ「ナニみてんだ? お? お!?」

クリル(乾燥エビ)を頬張るイシガニ。写真のように小~中型個体では全身が黄色っぽいものも、しばしば見かける

食べる

(写真:蒸したイシガニ。味は非常に良いのだが、殻がとても硬いため食べにくい)

あまり知られていないが、実は非常に味の良いカニ。欠点は殻が硬く食べにくいこと。味噌汁にして食べる人が多いようだが、大型のものを蒸しガニにするととても美味い。身の旨味が強く、爪にぎっしり詰まった身をパクリとすると幸せな気分になれる。

そのため近年ではシーズンになると、大勢の外国人がこのカニを求めて浦安にやってくる。そしてものすごい量のイシガニを捕獲していく様は、浦安の風物詩になりつつある(もうなりました@2023年)。

カニは死ぬと不味くなっていくのでなるべく生きたまま持ち帰りたい。生きたイシガニを持って帰ってきたら、・冷凍庫へ入れる(30分~1時間ぐらい)、・氷水にブチ込む、・串で急所を刺す(口から串を刺してグリグリする)などしてカニの動きを止める

こうしないとカニを洗うときに手を挟まれるし、蒸したときに暴れてバラバラになってしまう。個人的には冷凍庫に入れるのが一番安全かな。

また私は、イシガニはあまり長距離を移動しないカニだと思っているので、食べる際は歯ブラシやタワシを使って表面の汚れをよく洗い、味噌汁にする場合は、エラと胃袋を取り除いて調理している。

あとは食中毒が怖いので(カニであたったことはないが)、私は採ってきたカニを食べる際はいつも、生きた状態のカニを15分ほどかけてしっかりと熱を通すことにしている。

蒸すときは「ふんどし」の内側に少量の塩塗りこんでからカニを裏返しにして蒸すと、カニのエキスがこぼれにくく美味。

蒸しあがったカニは、冷ましてからラップでピチッと包み冷蔵庫に入れると、2日ぐらいは美味しく食べれる。ただカニ早めに食べてしまうのが美味いし安全だと思う(食べるときは自己責任でよろしく)。