イッカククモガニ
特徴
(写真:2021年1月下旬採集。甲羅の幅約2cm。最大級サイズのオス。名前の通り、尖った甲羅とクモのような長い脚を持つ。目盛りは5mm)
レア度:★★★☆☆ 節足動物門 軟甲綱 十脚目 Inachoididae科 学名:Pyromaia tuberculata 英名:tuberculate pear crab よく見られる季節:秋~4月
最大で2cmほど(甲羅の幅)になる。1960年代に北米から船のバラスト水(船の浮力や重量を調節するために船に汲み上げる海水)に混入して日本にやってきた外来種。外来種というと悪いイメージを持つ人も多いが、本種は小型でおとなしいため環境への影響は小さいと思われる。
イッカククモガニは水の汚れに強く、さらに一年中繁殖できることから、「青潮」などによって東京湾奥の底生生物が壊滅的被害を受けても、他生物より速く繁殖し増えることができるタフなカニでもある。
浦安では水温の下がる晩秋~翌年春頃までに見かけることが多い。大抵の場合、海藻や水中に沈んだ漁網などの障害物にくっついた状態で見つかる。動きは遅く、人間に発見されてもあまり逃げない。
また飼育して観察してみたが、「イソガニ」など他のカニのように石の下など狭い場所には隠れず、石の上などでじっとしていることが多い。
甲羅の形は二等辺三角形で、その頂点がツノをイメージさせることから「一角(いっかく)」、そして長い脚が蜘蛛(くも)をメージさせることから「一角蜘蛛ガニ」の名が付いたそうな。
浦安で見られるイッカククモガニは体全体に褐色の藻類を付着させていることが多く(勝手に生えた?)、浦安で見つかる他のカニ類とは異質な雰囲気を漂わせている。
ちなみにオスの方が大型になり、ハサミもメスより大きくなる(メスのハサミは膨らみがなくスマート)。
デトリタスや水中の細かな有機物を食べている。繁殖期は通年で晩春~初夏に多く産卵する。
また飼育をしていて発見したことだが、藻類やカイメン類などをハサミでちぎって自分の甲羅にくっつける習性がある(下の写真参照)。擬態のためだろうか? さらに空腹になるとそれらを食べる行動もする(面白いなお前!!)
(2021年2月)
(2023年11月)
飼育する
(写真:2018年6月中旬に採集した個体)
水の汚れに非常に強いカニであり、エサの食べ残しなど何でも食べるので飼育は容易。海藻に隠れるのが好きなようで、「ミル」などの海藻を入れてやると、そこを住処にしてあまり動かない。
性格もおとなしく、他の生物へ危害を加えることもほどんどないと思われる。ただ自分より大きな魚などには、攻撃を受けたり、食われてしまうことがあるので、混泳させる場合は魚が入って来れない隠れ家を用意したり、隔離水槽で飼うのが良いと思う。
(追記:2021年2月5日)2021年1月に採集した大型のオス個体を自宅水槽2号で飼育中。「ユビナガスジエビ」、「シラタエビ」、「ユビナガホンヤドカリ」、小型の「イソガニ」などと同居させているのだが、自分の命を脅かす生物がいないためか、水槽中央の石の上に鎮座し一日を過ごしている。
エサは割と何でも食べるようで、今までフジツボのむき身や粒タイプの配合飼料(日清配合飼料 おとひめEP2)などを与えた。食欲は旺盛で、直径2mmほどの粒エサを3粒ぐらいならすぐに食べる。
ただエサを捕えるのが絶望的に下手クソで、エサを鼻先に持って行ってやっても、ハサミをバタバタさせ、中々エサを掴んでくれない。また落ちたエサを拾うということも、今のところはしない。もともと水中に浮遊する有機物やデトリタスを食べるそうなので仕方ないか…。
(追記:2021月5月4日)先に書いたオス個体と同時期に採集したメス個体を自宅水槽2号で飼育して3か月が経過した。このメスもオスと同様にエサをとるのが非常に下手クソだったのだが、さすがに3か月も経つと慣れて来たのか、すんなりとエサを掴むようになった。
動物や魚類の中には訓練によって、複雑な動きや芸をするものがいるが、一見単細胞そうな(失礼だが)カニにも、その一端を垣間見ることができたような気がする。
またこのメスのイッカククモガニだが、同年3月上旬に一度抱卵した。卵は暗い赤茶色で、卵に新鮮な海水をあてるためか、ときどき「ふんどし」をパカパカと動かしていた(下の写真参照)。
(追記:2022月2月22日)自宅で飼育しているメスのイッカククモガニの面白い行動を発見した。体中に付着していた茶色い綿状の珪藻類?を、ハサミで摘まんで口に運んでいた。どうやらあれは、擬態のため以外にエサとしての役割もあるようだ。動物が毛づくろいをしている様だった。