ガザミ
特徴
(写真:2022年8月下旬、三番瀬で採集。甲羅の幅約5cm。オスのガザミ。まだ小ぶりだが、甲羅の形態や脚の色彩などしっかりとガザミと特徴の出ている)
レア度:★★★★★★★★☆☆ 節足動物門 軟甲綱 十脚目 ガザミ/ワタリガニ科 学名:Portunus (Portunus) trituberculatus 英名:Gazami crab よく見られる季節:6~9月
最大で甲羅の幅が15cmを超え、両腕を広げると50cmに達するになる大型のカニ。スーパーなどで「ワタリガニ」として売られているカニの1つで、一般に「ワタリガニ」というと本種を指す。
浦安では、同属で形態がよく似た「タイワンガザミ」と比べるとほとんど見かけない印象で、特に大型のガザミを採集したことはまだ一度もない(~2023年)。
甲羅はオリーブ色や緑がかった黄褐色で、形は横長のひし形をしており、甲羅の両端は鋭く尖り伸びる(この特徴よく見られる「イシガニ」との区別が可能)。甲羅の後方やハサミ脚、歩脚の一部に白い斑点模様が見られる。オス個体は青みが強く、歩脚の一部や遊泳脚の先端が青く染まる。腹側はほぼ全体が白い。
先に「「タイワンガザミ」とよく似る」と書いたが、特に小型個体とメス個体で「これはガザミか? それともタイワンか?」となることが多い(大型のオス個体であれば体色で見分け易いのだが)。
見分けるポイントとしては、①甲羅の額域にあるトゲの数、②ハサミ脚の長節にあるトゲの数、の2点が挙げられる。①に関しては実際に見てもらうのが一番分かり易いが、甲羅の前縁のど真ん中にある山なり小さなトゲの数がガザミでは3本、「タイワンガザミ」では4本となる。
②は、ハサミ脚を構成する節の中の、甲羅に近く長い節の前縁にある鋭いトゲの数が、ガザミでは4本、「タイワンガザミ」では3本となる。ただこれは全てのガザミ、「タイワンガザミ」に当てはまるワケではないようで、脱皮や成長過程で何かあったのか、トゲが4本ある「タイワンガザミ」も見たことがあるので注意が必要。
まだ他にも色々と違いがあるのだが、取りあえず上記の2点を参考に、甲羅の色彩などを加味して判断してはどうかと思う。
以下に、『日本大百科全書』の『ガザミ』の解説を引用させていただく。
『節足動物門 甲殻綱 十脚(じっきゃく)目 ワタリガニ科に属するカニ。一般にワタリガニとよばれる。
青森県以南、琉球諸島、朝鮮半島、台湾、中国北部に分布し、内湾の水深30メートル内外までの砂地にすむ。日本では、とくに三河湾、瀬戸内海、有明海などに多産し、秋から冬にかけて美味とされる。
甲は横長の菱(ひし)形で、甲幅25センチメートルに達する。額(がく)には3本の棘(とげ)があり、甲の前側縁は三角形の8歯と横に突出した第9歯からなる。
はさみ脚(あし)は長大で、歯は鋭い。遊泳脚は大きく、左右の調和のとれた動きによって、すばやく、また長距離を泳ぐことができる。緑色を帯びた暗褐色で、甲の後方やはさみ脚に白い不規則な斑紋(はんもん)があるが、雄では青みが強い。昼間は砂中に隠れ、夜間には餌(えさ)を求めて出歩き、また水面近くまで泳ぎ上がる。
瀬戸内海での調査では、9月中旬から10月中旬が交尾期で、精子は翌年の産卵期まで雌の貯精嚢(のう)に蓄えられる。産卵は年2回で、第1回目は4月中旬から6月、第2回目は7月中旬から8月である。甲幅14センチメートルの雌で80万粒、18センチメートルで200万粒、22センチメートルで400万粒といわれる。4月下旬から5月上旬の卵は20日内外、5月後半の卵は17日ほどで孵化(ふか)する。
1番子はその年の9月ごろには甲幅13~17センチメートルに成長し、性的に成熟する。2番子は稚ガニのまま越冬し、翌年4~5月ごろ幼ガニとなり、満1年で甲幅20センチメートルに達する。一般に満2年で第2回目の幼生放出ののちに死ぬが、ごく一部のものは3年目も生きるようである。
成長が早いため養殖が考えられるが、稚ガニのときにすでに共食いする性質があり、産業ベースでの完全養殖はむずかしい。現在ではむしろ稚ガニの放流によって天然資源を補う方向で研究が進められている。
ガザミは額に3本の棘があるが、近縁のタイワンガザミP. pelagicusでは4本で、甲面の雲紋模様がさらにはっきりしている。甲面に赤い3個の紋があるジャノメガザミP. sanguinolentusは日本での産額は少ないが、南方海域では食用として重要種である。[武田正倫]』
(2020年8月)
(2024年5月)
採集する
(写真:同個体を正面から撮影。目盛りは5mm)
基本的には「タイワンガザミ」の採集方法と同じだと思うのだが、私はちょっとしか採ったことがないので詳しくは語れない。
甲羅の幅が1~5cmほどまでの小型個体なら、三番瀬などの海底が砂地の場所で、底引き網の要領でタモ網で海底を引きずると採れることがある。
私が知る限りでは浦安では「タイワンガザミ」が圧倒的に多く、ガザミはほとんど見ない(2015~2023年まで)。
飼育する
(写真:2022年9月上旬撮影。同年8月下旬に採集した個体を自宅水槽3号で飼育してみた。写真はクリル(乾燥エビ)を頬張っている様子。「頬張る」という表現がピッタリな食い方と貪欲さを持ったカニである)
そこそこ大きなサイズのガザミを入手できる機会は少ないので、せっかくの機会ということで自宅水槽3号で飼育してみることにした。
飼育を開始したのは8月末。1年で水温の水温が最も高くなる時期だが(26~28℃)特に問題はない様子。比重は1.023。硝酸塩かなり高め。この時は他の生物も飼育していたので、ガザミ君には申し訳ないが小さい虫かご隔離水槽に入ってもらった。砂があった方が良いだろうということで、田砂を2cmほど敷く。
初め数日は警戒心していたためか、砂に潜ってあまり動かずエサも口にしなかったのか、しばらくすると空腹に耐えられなくなったのか、アサリのむき身を皮切りに、ゴカイ類、クリル(乾燥エビ)、生の魚肉などをバクバク食うように。まぁ肉っぽいエサなら何でもいいという感じだ。ちなみに体の大きさに対して食う量はかなり多い。
ちょっと良いものも食わせてやろうと、活きた「アゴハゼ」やスジエビ類を与えたこともあった。それらにかなりの執着を示すものの、思いのほかガザミの捕食能力が低く(これは虫かごという環境のせいもあるかも)、いつまで経ってもエサを捕まえられない。
仕方がないので、「アゴハゼ」はこちらで絶命させてから与えると、「これだよ!!これが食いたかったんだよ!!」と言わんばかりにがっつく。小魚なら骨ごとバリバリ、跡形もなく食い尽くす。顎の力もかなり強いようだ。
スジエビ類は結局捕まえることができないので諦めてしまったのか、最終的には静かに同居していた(笑)
飼育開始から3週間ほど経つと、脱皮を行った(下の写真参照)。脱皮前にはあまり動かなくなり、エサも食べなくなる。下に脱皮殻の写真も載せているが、ワタリガニ系の脱皮にはいつも感心させられる。本当に上手に脱ぐんだよなぁ。脱皮殻も細部まで崩れなく、姿かたちそのまま。分身の術のようである。
その後もう一度脱皮をしただろうか。最終的に2022年10月末までの2か月間飼育を行った。2回りほど大きくなったガザミ君は、飼育当初に比べて体全体がやや青みがかっていた(最後の写真)。
他の生物を食い尽くす、脱走する、というリスクがあるが、感情というか表情が感じられる面白い生物であった。飼育後は引っ越し先が決まらなかったため、海にお帰りいただいた。