スゴカイイソメ

特徴

(写真:2022年3月下旬、三番瀬で採集。長さ約10cm。本当はもっと長い体をしているのだが、採集中に体の後ろの方がちぎれてしまったようだ。ただちぎれても平気な場合が多く、時間が経つとまた再生するとか)

レア度:★★★★☆ 環形動物門 多毛綱 イソメ目 ナナテイソメ科 学名:Diopatra sugokai 英名:? よく見られる季節:5~9月

最大で30~40cmになる大型のゴカイ類。潮干狩りシーズンに干潟へ行くと、貝殻の欠片や海藻の破片と砂が固まってできた、直径1cmほどの筒状の物体を発見したことはないだろうか?(下の写真参照) 実はあれがスゴカイイソメの巣(棲管)。

巣(棲管)を見たことある人は多いかもしれないが、本体の方を見たことがある人は意外と少ないのではないかもしれない。かくいう私もこのページを作成するまでは生きた実物をしっかりと見たことはなかった。写真の個体は2022年3月下旬に「浦安市三番瀬環境観察館」のスタッフさんが採集してくれたもの。

私も採集を試みたが、巣(棲穴)が想像以上に長く、掘っているうちに巣の奥の方に逃げられてしまったり、巣をちぎってしまったりして、結局一度も採集することができなかった。たぶんコツがあるのだろう。

さてこのスゴカイイソメ、浦安の海にはものすごい種類のゴカイ類が生息しているそうだが、その中でも異様でインパクトに残る見た目をしていると思う。まず目につくのは何と言ってもこの赤いファーのようなエラ。このエラが第5いぼ足から生じ、第60~70体節まで続いており、拡大して見ると1本の太い軸から毛状のものが生える構造となっている。

そして頭部先端には太く長い触手が5本?とその他に短い触手も何本か見られる。体色は…ちょっと濃いめのミルクティーのような色をしている。体が長いだけあって体節数も300内外と多め。

スゴカイイソメは巣穴から頭を出して、付近の藻類や弱った動物などを食べるそうだ。

ちなみにスゴカイイソメは「袋イソメ」という名で、釣りの高級エサとして売られているらしい(私はまだ見たことないが)。またスゴカイイソメを生で食べた人によると「ナマコとイクラを一緒に食べたような品の良い味」とのこと。だが寄生虫の危険性があるので、食べないようにとも書かれていた(笑)

詳しく知りたい人のために、以下に『日本大百科全書』の『スゴカイイソメ』の解説を引用させていただく。

『環形動物門 多毛綱 ナナテイソメ科に属する海産動物。貝殻片、海藻、ごみなどをつけた管の中にすむところからこの名があり、またフクロイソメ、フクロムシ、サヤムシ、スムシなどいろいろな地方名がある。

黒潮や対馬(つしま)暖流の影響下にある海岸に分布し、潮間帯から水深20メートルくらいまでに生息する。砂泥底上に、特有な管の先端を出しているので一見してわかる。

体長30~40センチメートル、体節数300内外。頭部には2本の前感触手と5本の後感触手、それに1対の太い副感触手がある。また、囲口節の背面前縁に1対の触糸がある。眼点は2個あって大きい。体前方の数対のいぼ足は大きく、斜め前方に向き、それより後方のいぼ足は体側方に伸びている。

1本の軸の周りに鰓糸(さいし)が取り巻いたえらが第5いぼ足から生じ、第60~70体節まで続く。とくに前方の数対のえらは大きい。体前方が再生している個体がしばしばみつかるが、管から体を出して餌(えさ)をとっている際、魚などに食われたためと考えられる。釣り餌によく用いられる。』

(2022年9月)

体色は…ちょっと濃いめのミルクティーのような色をしている。体が長いだけあって体節数も300内外と多め
頭部先端には太く長い触手が5本?とその他に短い触手うも何本か見られる。そういえば…こんな鼻をしたモグラがいたっけ…
まず目につくのは何と言ってもこの赤いファーのようなエラ。このエラが第5いぼ足から生じ、第60~70体節まで続いており、拡大して見ると1本の太い軸から毛状のものが生える構造となっている

採集する

(写真:スゴカイイソメの巣(棲管)。長さ約12cm。これは途中でちぎれたもので、本来はもっと長いと思われる。アオサ類や二枚貝の貝殻など色々なものがくっついている)

私は巣(棲管)を見つけたことはあるが、本体は採集したことがないので詳しいことは分からない。

ある本には『巣は相当深く、スコップで掘り返してもなかなか捕まらない。捕まえるには素早く近づき一気に掘り返すしかない』と書かれていた。いつも調査でお世話になっている人がよく捕まえてくるので、今度コツを聞いてみようと思う。

後の「飼育する」項目で詳しく書くが、巣の入り口に貝の身などを置いておくと出てきて食べるので、エサでおびき寄せ作戦も有効化もしれない。

採集したスゴカイイソメの巣(棲管)の一部を拡大して見てみた。様々な大きさの二枚貝の欠片がミルフィーユのように砂粒と一緒にくっつけられている。内部は厚い膜のようなもので裏打ちされており、想像している以上に滑らか。また巣はなかなか丈夫で裂けにくい。目盛りは1cm

飼育する

(写真:他の生物に食われてしまう恐れがあったので、100均の砂糖ケースを改造した隔離ケースに砂を入れて、その中で飼育を開始した)

スゴカイイソメの写真撮影をしていると、採集したスタッフさんがおもむろに「ソイツ飼えますよ。懐くので可愛いですよ」と驚きの言葉を発した。

話によれば、「コンコンと水槽を叩くいてからエサを与える」といったことを繰り返して行うと、それを学習したスゴカイイソメは、水槽を叩くだけで巣から姿を現すようになるらしい。

実に興味深い。しかも丁度この特異な造形をしたスゴカイイソメを、そのまま海に帰すのはちょっと勿体ないと思っていたところだった。さらに家には細かい砂を敷いた自宅水槽2号もある。

「じゃあ持って帰ります…」

ひょんなことからスゴカイイソメ君との生活がスタートした。まずはそのまま自宅水槽2号に入れてみたのだが、「同居の「イシワケイソギンチャク」に食われちゃったりしないだろうか」と不安になったので、100均の砂糖ケースを改造した隔離ケースに砂を入れて、餌付くまでそこで飼うことにした。

この際に気付いたことがあるのだが、スゴカイイソメ、巣(棲管)を作るのがめちゃくちゃ速い。最初に自宅水槽2号に入れてから隔離ケースに移すまで3時間ほどあったのだが、その間にこのスゴカイイソメ、砂だけを素材とした長さ30cmほどの巣を完成させていたのだ(下の写真参照)。こいつはすげぇ職人だ…と感心してしまった(実際には3時間もかからずにもっと短時間で作った可能性もある)。

飼育開始時の水温は約20℃、比重はほぼ海水、砂は「田砂」を使用。ろ過がそんなに強い水槽ではないが、特に問題は無い様子。物音や人影には敏感で、異常を察知すると、すぐに巣の中に隠れる。

そして肝心のエサやり。まずは鉄板の「アサリ」のミンチを与えてみる。エサを巣の入り口に持っていくと、恐る恐る巣穴から頭を出しては引っ込めてを繰り返し、長い触手でエサに触れては離れてを繰り返す。そしてしばらくすると触手でエサを絡め取り、スッと巣の中へ持っていく。食事は巣の中で行うようだ(当たり前か)。

エサが気に入らないとエサを触手と頭部で押して、エサを巣の入り口から遠ざけようしたり、そのエサがそのまま巣の新たな材料として利用されていることもあった(笑)

エサは色々与えてみたが、一番食いが良かったのがやはり「アサリ」のミンチ。あとは魚の肉片や粒タイプの配合飼料も食べた。慣れてくると、ピンセットでつまんだエサをひょいと受け取っていくようにもなった。確かに可愛い(笑)

その後、隔離ケースではやはり狭くて可哀想なので、外に出して飼育を行うことにした。心配していた「イシワケイソギンチャク」との同居も大丈夫そうだ。

ただやはり魚類とは相性が悪く、一時同じ水槽にいた「クジメ」はスゴカイイソメの巣を頻繁に突いていた。美味しい匂いがスゴカイイソメから出ていたのだろうか? またカニ類なども巣を破壊して、スゴカイイソメを食ってしまいそうだ。

「アサリ」のミンチを咥えるスゴカイイソメ。やはり「アサリ」は食いつきが良い。食べきれないエサは巣の外に捨てられたり、巣の入り口付近にくっつけられたりしていた
巣(棲管)の入り口から頭部を伸ばすスゴカイイソメ。物音や人影には敏感なので、こんなに体を巣の外に出すことはあまりない。よく見ると採集時より触手が再生して長くなっている

自宅水槽2号で、スゴカイイソメが3時間足らずで作った巣(棲管)(もっと短時間で作った可能性もある)。長さ約30cm。他の生物の巣を作るスピードには詳しくないが、単純に「速えぇ…」と思ってしまった

巣(棲管)の入り口。入り口の直径は5mmほど。綺麗に砂粒を固めて巣が作られている。目盛りは5mm