ウミニナ

特徴

(写真:2023年5月上旬、浦安市内河川の河口付近で採集。貝殻の長さ約3.5cm。生きた状態で撮影。ウミニナの貝殻には個体変異が多く、貝殻が白っぽいものや逆に黒っぽいもの、白い帯模様が入るものがいたり、形状ももっと細い個体などがいるそうだ。なので私みたいな素人が正確な同定をするのはなかなか難しい)

レア度:★★★★★ 軟体動物門 腹足綱 吸腔目 ウミニナ科 学名:Batillaria cumingii 英名:? よく見られる季節:?

2023年5月上旬に浦安市内河川の河口付近採集。イベントで子供たちと生物採集をしていると、ある男の子が護岸にできた潮だまりを指さして「貝がたくさんいる!!」と声を上げた。

場所的に「イボニシかな?」なんて思いながら近づいてみると、細長いドリル状の貝が10個ほど密集している。「おおーホソウミニナかー。この河口にいるなんて珍しいなぁ」とその貝を注視すると、何か違和感を感じる。摘まみ上げて目を凝らす。

「あ!!これウミニナやんけ!!何でこんなところに!?」

この河川の中流域には近縁種の「ホソウミニナ」が大量にいるのだが、この河川でウミニナを見つけたのは初。というか私が浦安で、確実にウミニナと言える個体を見つけたのは今回が初めて。グッジョブ少年である。先入観、思い込みは生物採集・観察の敵だと実感する。

「ウミニナ」という何の変哲もない名前と見た目から、ありふれた貝なのかと思いきや、実は現在では「準絶滅危惧種」に指定されているレアな貝である(千葉県では「準絶滅危惧Ⅱ種」、東京では「絶滅」となっている(2023年2月現在))。

ウミニナの形態について解説するのは、私の手に負えないので、以下に『Wikipedia』のウミニナのページの解説を引用させていただく(とても分かりやすかったので)。

『成貝の貝殻は殻高35mm、殻径13mmほど、塔形で堅い。螺層(巻き)は8階ほどになる。巻きの中ほどが膨らみ、円錐形というより水滴形を長くした形に近い。貝殻の色は灰色や灰褐色が多いが、縫合(巻きの繋ぎ目)の下側に白い帯模様が入るものも多い。

螺肋(巻きに沿った線)は5本で、それが不規則に区切られた煉瓦積みのような細かい彫刻のように貝殻表面を覆っている。縫合のやや下には低いイボ状突起が並んで肩を形成することがあるが、この突起列は個体や個体群によって強弱の変化が激しく、全く見られない場合も多い。

殻口は比較的大きな半円形で、外側は黒地に白い縞模様がある。内側は白い滑層(陶器のような質感の層)が発達し、特に殻口内唇の上部には三角形に張り出した滑層瘤(かっそうりゅう)ができる。蓋は角質円形の多旋型で濃褐色をしており、周縁には半透明褐色の薄い膜状部がある。

ただし本種は貝殻の個体変異が多く、黒っぽい、白っぽい、殻の膨らみが弱い、イボ状突起が発達する、滑層瘤がない、殻口が小さいなど、先述の特徴に当てはまらない個体も見かけられる。学名の種小名"multiformis"も「多形」を意味する。

類似種を含めた所謂ウミニナ類の中では、殻の中ほどが膨らむこと、体全体に比べて体層(殻の最下層)と殻口が比較的大きいことなどで他種と区別できるが、個体変異により同定が難しい場合があり、特に殻口が完成していない幼貝ではホソウミニナとの識別が困難である。』

…同定の難解さが分かっていただけただろうか。自分も専門家の方に色々と教えてもらうのだが、貝類の分類というのは知れば知るほど難しい。

今までは「これは~だ!!」と安易に同定していたものが、新たな知識が増えると「この辺にいるのは~だと思うけど、よく似た種類に~と~と~がいるし…」と判断が付かなくなる。

実に実に深い世界である。

(2023年6月)

この個体は貝殻に藻類や汚れが付着し、さらに貝殻が濡れているため、黒い見た目をしている。『塔形で堅い。螺層(巻き)は8階ほどになる。巻きの中ほどが膨らみ、円錐形というより水滴形を長くした形に近い。貝殻の色は灰色や灰褐色が多いが、縫合(巻きの繋ぎ目)の下側に白い帯模様が入るものも多い』とのこと。目盛りは1cm
『螺肋(巻きに沿った線)は5本で、それが不規則に区切られた煉瓦積みのような細かい彫刻のように貝殻表面を覆っている。縫合のやや下には低いイボ状突起が並んで肩を形成することがあるが、この突起列は個体や個体群によって強弱の変化が激しく、全く見られない場合も多い。』とのこと
貝殻先端部を拡大。目盛りは5mm
サイドから撮影。目盛りは1cm
反対サイドから撮影。目盛りは5mm
貝殻を下方向(底方向?)から見てみる。目盛りは5mm
『殻口は比較的大きな半円形で、外側は黒地に白い縞模様がある。内側は白い滑層(陶器のような質感の層)が発達し、特に殻口内唇の上部には三角形に張り出した滑層瘤(かっそうりゅう)ができる』とのこと。

『蓋は角質円形の多旋型で濃褐色をしており、周縁には半透明褐色の薄い膜状部がある』とのこと。たしかに!!

採集する

(写真:発見時の様子。2023年5月上旬、河口付近で撮影。砂と「マガキ」と緑藻類が混在する潮だまり…というか水たまりのような場所)

私が生物採集を行う場所で見つかることは非常に稀。ちなみに発見した場所は一応、潮汐により水没を繰り返す場所だが、水の交換があまり良くないのかゴミが堆積していることが多く、また水質もあまり良くないうえ、水が濁って泡立っていることも多い。そのためいつもはちゃんと見ずにスルーしてしまっていた。

何故今までいなかった場所で(私が見逃していただけかもしれないが)、今回のようにまとまって発見されたのだろうか? 詳しい方に聞いてみたところ、推測の域を出ないが、カキ殻などに付着して運ばれてきた可能性があるとのこと。

というのも、東京湾奥のある場所で集められたカキ殻を、また東京湾奥の別の海域に捨てるということが行われているそうだ(目的や理由を詳しく聞くのを忘れてしまったが)。

ウミニナ類の中には幼貝時に、体を逆さまにし自身の足を水面に広げて、ちょうど水面にぶら下がるような格好になり、そのまま水の流れや風の力によって長距離を移動することができる種もいるそうだ(未成熟で体重が軽いので、そのような行動が可能)。

ただ今回のケースでは発見したウミニナのサイズが大きく、そのような移動は不可能なので、先に書いたような経路で運ばれた可能性が示唆されたというわけだ。

発見した少年と発見場所。採集初心者の「スレていない観察眼」というものは侮れない

飼育する

(写真:体色は濃い灰黒色でゾウの皮膚のような見た目をしている)

標本作成のため10匹ほどキープして飼育することに(水槽でしばらく飼うと貝殻表面の汚れが落ちるので)。

砂が必要だろうということで、サンゴ砂(細目)が敷いてある自宅水槽5号で飼うことにした。水温は20~25℃までは問題なし。比重は1.023。

同居人はスジエビ類、小型のヤドカリ、「アラムシロ」「イシガレイの幼魚」。ウミニナの貝殻は防御力が高そうなので、このメンツで問題ないだろうと飼育を開始した。

水槽に入れた当初は、水槽の壁面に張り付いたり、フタにくっついたりとややアクティブだったが、しばらく経つと1日のうちのほとんどを砂に潜って過ごすようになった。さらにしばらくすると、ほとんどというか全く出てこない。うーん観察し甲斐がない。

エサは藻類やデトリタスなど、海底に溜まった雑多なものを食べそうだったので、他の生物用に与えていた顆粒状の配合飼料(おとひめ)やフレークタイプのエサを、食べ残しがほんの少し残るように、多めに与えてやった。それで1ヵ月以上生存しているので、OKということなのだろう。

 

(追記:2023年9月1日)飼育を開始してから約4か月が経過。水温こそ28℃と爆上がりしているが、同じ水槽・環境で問題なく飼育できている。手のかからない生物である。

よく見るとなかなか鋭い目付きをしている。2本の大きな触角が良く目立つ。触角は黒と白のシマシマになっている

水槽のカベを登るウミニナ。まず体(足)を前方に少し伸ばし、そのあと体の後方を縮めて、貝殻を前に引っ張るという移動方法をとる
足の底面は灰色~ねずみ色をしている
足の底面を拡大すると、小さな白斑点があるのがわかる。また黒い山形の出っ張りは口部分(写真中央左上)

食べる

(写真:水だけで茹でて身を取り出したウミニナ。目盛りは1cm)

どうせ標本作成で茹でるなら!!ということで食べてみることにした。水から3分ほど弱火で茹で、足の部分をちぎって食べてみる。

予想に反してかなりイケる。まず歯ごたえ良く。コリコリとしている。味も強くはないが十分な旨味があり、エグみや苦みはない。味はミル貝の味を薄くしたような感じだ。お世辞ではなく美味い。

ウミニナの身と内臓

ウミニナの蓋。目盛りは1cm