クモヒトデの一種②

特徴

(写真:2021年1月上旬、河口付近で採集。盤(中心部の丸い部分)の直径約1.5mm、腕の長さ約5mm。生きた状態で撮影。ん? 改めて見たらこいつも腕が6本あるじゃないか! 目盛りは0.5mm)

レア度:? 棘皮動物門 クモヒトデ/蛇尾綱 学名:? 英名:? よく見られる季節:冬~春?

種類不明。2021年1月上旬に河口付近で「テングサの一種①」を採集する際(この海藻はタフで自宅水槽でも飼えるのだ)、この海藻が生えたカキ殻に一緒にくっついていた。今年だけなのか、毎年いるのかは分からないが、この時は護岸の「マガキ」をはがすと、その貝殻の底面や凹凸の隙間から高確率で見つかった。

体は非常に小さく、盤(中心部の丸い部分)の直径約1.5mm、腕の長さが約5mm。腕は6本ある。これで大人サイズなのか、それとも成長途中なのかは不明。ちなみにこの時見つけた個体はすべてこのぐらいのサイズだった。

体色は表面、盤(中心部の丸い部分)は褐色で、腕は濃い褐色とベージュ色のシマ模様になっている。裏面は盤、腕ともに薄く明るい褐色をしている。また腕の縁辺には、トゲ状の突起が整然と並んでいる。

非常によく動き回り、動くスピードもなかなか速い(どのくらいか早いかと問われると困るが、小型のナメクジよりは速いと思う)。ひっくり返してもすぐ腕を突っ張って元に戻ろうとする。なので写真撮影に少々手間取った。しかいしその割に腕は脆く、少しでもテンションがかかると、すぐにちぎれてしまう。

一見地味な見た目の生物だが、クモヒトデ類は様々な生物のエサとなっており、生態系にとって重要な生物らしい。

以下に、『日本大百科全書』の『クモヒトデ』の解説を引用させていただく。

『棘皮(きょくひ)動物門 クモヒトデ綱に属する海産動物の総称。5本の腕をもち、クモのような動き方をするヒトデに似た動物。漢字の「蛇尾」は腕の外観や動きがヘビの尾に似ているところから名づけられたもの。

つねに岩のすきま、転石の下、あるいは砂泥の中など、人目につかない所に生息する底生動物である。しかし、海洋生態系のなかでは重要な位置を占め、とくに砂泥中に生息するものはしばしば密生して大群集をなし、底生魚類などの餌(えさ)となる。棘皮動物のなかで種類数がもっとも多く、世界で1900種、日本近海から約280種が知られている。[重井陸夫]

体は丸い盤と細長い腕からなる。口は腹面の中心にあり、肛門(こうもん)はない。盤はヒトデより柔らかく、上面が革のような感じのものが多い。腕は丸くて細く、ヒトデとは違って、付け根が盤の部分からはっきり分かれて伸び出ている。腕の表面に多数の長い棘(とげ)をもつものもいる。腕は中心に骨の址(し)が入っていて硬いが、腕骨の一つ一つが筋肉で結ばれているため、しなやかに動く。

ヒトデと違って腕の中に内臓は入っていない。盤の内部には袋のような大きな胃があり、腸はない。口の周りは硬くぎざぎざした骨からできていて、あごのようになっている。棘皮動物特有の水管系は盤の部分から腕の中へ伸び、管足が腕の下部側面に対(つい)に並んで突出している。クモヒトデの管足は触手とよばれ、先端に吸盤がなく、体の移動に用いられることはない。

生殖孔はヒトデやウニのように体の上面にはなく、下面の腕基部に近いところに裂孔として開く。雌雄は普通異体であるが、同体のものも多い。雌雄異形で、雄が雌の10分の1ぐらいの大きさのものもある。色はさまざまで、茶褐色、黄褐色、黒褐色などじみなものが多いが、なかには鮮やかな赤や橙(だいだい)色、あるいは紫色の色調を帯びたものもある。[重井陸夫]

体の移動には腕を用い、5本の腕を平面上にくねらしてはい進む。付着生物の枝などに絡まって生活するものでは、腕が四方に柔軟に曲がり、枝から枝へと腕をかけ渡しながら体を移動する。

餌は小動物、腐食物、浮遊生物などで、生きた大形動物をとらえて食べることはない。浮遊生物をとるものは潮の流れの速い所の岩陰などに潜み、腕を3本、あるいは体全体を乗り出して小刻みに振る。そうすると、腕の側面に生えた棘のすきまや触手の表面の粘液に餌が付着する。餌は触手と繊毛流によって口のほうへと運んでいく。

砂泥上にすむもののなかには、腕を輪にして腐食物をかき集めたり、腕を体の上に高く伸ばして振るものもいる。また、付着生物の個虫をかんで食べるものもいる。

夜行性のものが多く、発光する種類もいくつかある。発光は腕の側面や棘の表皮にある発光細胞によって行われる。

生殖方法はさまざまで、体が二つに割れて無性的に増えるものや卵胎生のものもあるが、多くのものは雌雄がおのおの放卵、放精を行い、海中で受精する。幼生はウニと同じプルテウス型で、浮遊生活を送ったのち、変態して底生生活に入る。保育習性をもつものもあるが、その場合には浮遊幼生期を経ず、生殖嚢(のう)内で直接発生して生殖嚢壁より栄養の補給を受ける。寿命は3年ぐらいのものが多いが、長いものでは10年以上と推定される。

なお、クモヒトデ類のなかには、5本の腕の先が枝分れしてつる状に絡まるテヅルモヅルという異様な形をした動物群が含まれる。[重井陸夫]』

(2020年4月)

(2024年1月)

裏面は盤、腕ともに薄く明るい褐色をしている。盤の中心に口があるのが分かる
非常によく動き回り、動くスピードもなかなか速い(どのくらい速いかと問われると困るが、小型のナメクジよりは速いと思う)。ひっくり返してもすぐ腕を突っ張って元に戻ろうとする。なのでマイクロスコープ下での撮影には少々手間取った。目盛りは0.5mm
こちらは2021年3月下旬に、三番瀬の護岸に付いたカキ殻をの中から発見した個体。上の写真の個体と、サイズやその他特徴が一致するので、おそらく同種と思われる(間違っていたらごめんなさい)。目盛りは0.5mm
同個体の裏面。腕が脆く、少し触っただけでちぎれてしまう。申し訳ない。目盛りは5mm

飼育する

(写真:2021年5月中旬、自宅水槽にて撮影。よく見ると、カキ殻の隙間からシマシマの腕が3本伸びているのがわかる(写真真ん中))

飼育しようという気は全くなかったのだが、とりあえず2021年3月下旬に採集した個体を、カキ殻と一緒に自宅水槽へ入れておいた。

それから約2か月後、このクモヒトデのことなどすっかり忘れていたが、水槽を眺めているとカキ殻の隙間から、見覚えのあるシマシマの触手のようなものが伸びているのを発見!! いたー!! 他の生物に食われていなくなるだろうと予想していたが、生存していた。しかも触手も、再生したのかキレイに先端がとがっている(別個体かもしれないが)。

カキ殻の隙間から水中へ腕を2~3本だけ出して、あまり動かない。水中の浮遊する何かを捕まえているのだろうか(ウチの水槽には浮遊物はほとんどないと思うのだが…)

ちなみに発見時の水槽の環境は水温は23℃、比重1.023、硝酸塩かなり高め、同居生物は「マコガレイの幼魚」「ユビナガホンヤドカリ」「ユビナガスジエビ」「タカノケフサイソガ二(小)」である。また最近まで「ハオコゼ」もいたのだが、よく食われなかったな。

採集した場所の海水温が14℃ほどで、現在は23℃。水温差8℃もあるが平気なようだ。なかなかタフな奴である。

ちょっと離れて撮影。いったい何を食べて生きながらえて来たのだろうか?
2021年6月中旬撮影。カキ殻の隙間から出てきたところを撮影することができた
同個体を裏側から撮影。これが本来の腕の長さなのだろう